10、家宝のタオル
可愛い幼馴染、水の人、水の塊。と、微笑む人。
今回はそんな感じの第10話。
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
なぜなら、柚季の指が熱かったから。
それはもう…燃えているかのように。
「え、ちょ、何握ってんの竹虎!?」
わたわたし始めた柚季。
俺は火傷した右手をパタパタ上下に振って冷やす。
「あっつ…柚季…何した…?」
さほど重症ではなく、ほんのり赤くなった程度で済んでいた。
「大丈夫…?」
俺の質問には答えないで、ただ俺の手を握って顔を心配そうに覗きこんできた。
そんな目で見るなよ…可愛いとか思…。
「誰かっっあれ!水の人居ない!?」
神様…幼なじみを可愛いと思ったら負けなんですか…。
俺の思考は柚季本人の言葉で中断された。
っていうか、水の人って何?
そんな抽象的な呼び方ってあるの?
頭の中ではてなマークが踊る。
柚季に握られたままの手を見つめながらぼぉっと考える。
「それなら、私がやってあげる。」
柚季がまだ「水の人いないー?」って大きな声で周りを見ながら叫んでる中、それを中断したのは可愛い声。
そう、アリッサだった。
「水ならだれでもいいんでしょ?」
そう言って優雅に近づいてきた。
「いや、でも…アリッサ様にそんなこと…。」
柄にもなく柚気が戸惑ってる。
っていうか様って…。
「いいわ、これくらい。こんな奴でもあれでしょ?一応資格持ってるんでしょ?」
「一応」の部分を妙に強調して俺の目の前に立つ。
「手。」
俺はその有無を言わさない口調につられておとなしく手を差し出す。
いつの間にか柚季の手は離れてた。
「よいしょっと…。」
椅子から立ち上がる時に無意識に言うような軽い口調でアリッサが言ったあと、一瞬何かを早口で呟く。
「うわっ 何これ!?」
俺の右手は…大きな水の塊に突っ込まれていた。
いや、周りに水槽があってそれに手を突っ込まれたとかじゃなくて、突然現れた水の塊に手を包まれたような?
上手く説明できない。
だって俺にも何が起こったか分からないんだから。
でも、水に包まれた手はひんやりとして気持ちいい。
「ふんっ あんたにはこれくらいで十分でしょ。」
―パンッ―
アリッサが言い終わると同時にはじける水の塊。
飛んだ水滴が顔に飛んで来たけど気にしない…っていうか、何なんだ?
さっきの柚季の指といい、アリッサの水の塊といい、本当に魔法なんてあるのか…?
「あー…あんた…手、びしょぬれじゃない。」
…いや、濡らされたんだけどね。あなたに。
まったく…とか、カーペットに水らたさないでよね…とか呟きながらきょろきょろしてるアリッサ。
腕を組んでるその姿だけを見れば10人中10人が惚れるだろうけど、1度口を開いたが最後、全員が全員幻滅するであろう。
せめてタオルとかあれば拭けるんだけど…。
この部屋には…なさそう?
「ちょっとー 風の人いないのー…あ、今いないのか…。ふぅ…誰かタオル持ってきなさいよね。」
軽くイライラしてるご様子のアリッサ様。
声を聞いて背広に身を包んだ男の人がアリッサの前に飛んできて跪く。
恭しく差し出した手にはタオル。
あ、この人さっきアリッサの隣に居た人?存在感薄いから忘れかけてたよ。
アリッサは乱暴にタオルを受け取ってその手を俺の方に差し出してきた。
「これで拭きなさいよ。私から受け取れるタオルなんだから一生大事にしなさい。家宝よ?崇め奉りなさい。」
ツンと澄ました顔の女王様からふかふかのタオルを受け取って大人しく手をふく。
…っていうか、こういうタオルって普通返却するんじゃないのか?
崇め奉れって…持って帰るのコレ!?
ほのかにイイ香りのするタオルを片手に持っておろおろするの俺の姿はさぞかし可哀想であっただろう…。
「んー…持って帰れば?ほら、本人もそんなこと言ってるし。」
そんな俺に助け船を出してくれたのは柚季だった。
素晴らしきかな幼なじみ。
俺はずっと手にタオルを持ってるのもあれな気がしたから、とりあえず肩にタオルをかけた。
その行動を見た柚季とアリッサの目の冷たさを見た俺は…
…タオルを肩から外した。
ふと、アリッサの側に立っている男の人と目が合う。さっきタオルを持ってきた人だ。
その人は微笑んで手を差し出してきた。
そっとその上にタオルを乗せる俺。
うん、やっぱりタオルのお持ち帰りはないよな。
読んでいただきありがとうございました
お持ち帰りはなしですよね←
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