43.真相(3)
若干の沈黙があってから、鬼塚が口を開く。
「どの世界でも、人間っておろかね」
「特に反論の必要はないでしょう」ジンはコホンと咳をしてから、続けた。「さて、戦争の理由ですが、これもまた、パイントルタにあります。イコウルは自国民であるメーコ様がもたらしたアルミニウムで建造したのだから、パイントルタの所有件はイコウルにあると主張した。ハイングランドをはじめとする他国は、メーコ様はアルキアスのためにアルミニウムを持ち帰ったと宣言したのだから、一国の所有物ではなく共有財産とすべきだ、そう反論しました。まあ、そんな名目は置いといて、イコウルはパイントルタで世界の覇権を目指したし、他国がそれを阻止しようとしたのも当然のことです。ハイングランドを中心とした連合軍とイコウルの戦争は、連合軍有利に進みました。ですが、ある夜……ハイングランドの首都を含む七つの主要都市が灰塵ときした。連合軍は解散となり、国家の体をなさなくなったハイングランドは、イコウルに吸収されました」
二〇歳の芽衣子が、アルキアスのためにと、一円玉をたずさえて家を出たあの夜を思いだす。その瞳には、揺るぎない決意が灯っていた。
「芽衣子の平和への想いは、まったく逆の結果をもたらしたのか……」
「残念ながら」
「なるほど、芽衣子が隠したかったのも頷ける。それで、戦争中やその後の芽衣子は何をしていたんだ?」
「戦争中は、保護という名の軟禁です。戦後も軟禁は続いたのですが、メーコ様は機をねらって脱出し、地下に潜ってパイントルタを破壊する活動を展開しました。それに賛同した同士の一人が私です。その組織、ウルメールのメンバーには、パイントルタの被害者が多くいます」
なるほど、と頷きかけたが、鬼塚が割り込んだ。
「ジンさんは、まったくの被害者となるのですか?」
陽介はハッとする。「同士というわりには、芽衣子はアンタを信用していない。いや、警戒や嫌悪すらあった」
「現時点では同じ目的を有していますが、以前は敵といっても差し支えがなかった。私は、『歩く謀略』と揶揄された政治家です。イコウルに傾きつつある情勢を変えようと、アルミニウムやメーコ様を狙って刺客をだしたことも、一度や二度ではない」
ジンは半分ほど残っていたビールを飲み干し、おかわりを注文した。
「鬼塚さんの質問は、被害者かどうかでしたね。これからも被害者という立場は利用しますが、内心はそうでもない。本当の被害者は、私の妻や娘、そしてハイングランドの民。加害者は、イコウルの皇族と、戦争を引き起こした一部の政治家と領主です。その政治家には私も含まれています。そして、メーコ様は加害者に列しないと考えています」
「ミオリさんは、そのウルメールとかいう組織にスパイとして潜りこんだということか?」陽介がいった。
「いいえ。ミオリ様は同士ですよ。あの方にスパイなんて器用なこと、できるわけがない」
「本人が刺客だと、いっていた」
「ウルメールの目的はパイントルタの破壊です。その点に関していえば、ミオリ様は同士です」
「だったらなぜ!?」
「パイントルタを破壊した後、ミオリ様には次の目的があるのです。本人は隠しているつもりのようですが、メーコ様も私も感づいていました。その目的とは、メーコ様の排除、つまりは亡きものにする」
「なぜ芽衣子が!?」反射的にいったものの、さっしはついている。「殺戮兵器をもたらし、アルキアスの平和を妨げた異世界人だからか!?」
「そういうことです。メーコ様がいると、アルキアスに再び災厄が訪れるかもしれないと、危惧したのでしょう」
「一度は、魔人という災厄から、芽衣子のおかげで救われたのじゃなかったのか? それなのに、パイントルタを破壊してケツを拭き終わったら、殺すってか? 身勝手な話だぜ!」
「同感です。ただ、ミオリ様は巫女だから、仕方がないともいえます。巫女の全ては教典の中にあります。教典で示された以外の生き方はできません」
いいかしら、と鬼塚が割り込んだ。
「ミオリさんが芽衣子さんを排除したい理由は、それでよしとしておきましょう。ありがちなことだわ。でも、佐藤君まで殺そうとした理由にはならない。そこは、納得できるまできっちり説明していただくわ」
「もちろんです。ただ、ここからは少し複雑な要素が絡んできます」
「だからといって、『エンゾの結び』とか、『アユルの緩和』とか、意味不明な言葉は並べないでね」鬼塚が釘を刺す。
陽介は、そんな単語よく覚えているなぁ、と感心した。
「わかり易くするようには、心がけます」
ジンは苦笑してから、続ける。




