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コンビニ店員だけど、うっかり女神のせいで毎晩世界を救うことになった。

掲載日:2025/10/24

一、氷の袋の容疑






俺の名前は田中ケンジ。17歳の俺の最大の夢は、勇者になるとか、異世界のツンデレと恋に落ちるとかじゃなくて、「コンビニ・ハッピーマート」でのバイトの夜勤を、宇宙に逆らわれることなく終えることだ。




時刻は深夜1時。ハッピーマートのネオン灯がだるそうに唸り、俺は廃棄予定の饅頭を数えていた。全てが順調—順調すぎた。俺の持病みたいな不運は、たいてい客が棚ごとにおにぎりをぶちまけるか、もしくは雑誌コーナーの真上にUFOが目撃されたと警察から緊急連絡が入るかで発動するはずだ。




「ケンジくん!ケンジくん!宇宙的なヤバい問題が発生したの!」




そして、決まって、災厄は偽名を持つ人物と共に現れる。星野アイリスだ。




アイリスは、まるで少女漫画から飛び出してきたような女の子だった—長い銀色の髪、アメジスト色の青い瞳、「ここにいるには可愛すぎる」というオーラ。彼女は俺のバイトの同僚であり、そして、俺の苦難の源だ。




「アイリス、財布が見つからないだけなら、『宇宙的な問題』じゃない。『枕元に忘れた』問題だ」 俺は振り返りもせずに答えた。その口調は、トイレ掃除をする前に妖怪の暴動を鎮圧することに慣れた者のそれだ。




「違うの、もっとマズいの!」 アイリスはコンビニのレジ袋をカウンターに叩きつけ、レジ台を振動させた。「これがね…『懲罰の袋』よ!」




俺は片眉を上げて振り返った。その袋は脂っこく、少々水が滴っている。




「『懲罰の袋』には見えないな、アイリス。廃棄用の食品ロスを入れる袋だろ。ゴミ箱から見つけたんじゃないのか?」




「絶対に違うわ!中にね…」 彼女は問題の物体を取り出した。巨大な氷の塊だ。コンビニの店内にしては、少しばかり明るすぎる結露のオーラに包まれている。




「…氷の袋だ。冷凍食品コーナーで、アイスの隣に売ってるぞ」 長年のコンビニ店員生活で培った忍耐力で説明した。




「でも、これはただの氷じゃない!『時のラグーンの凍結した破片』よ!これが…溶ける前に捕まえなきゃいけなくて…もう、最悪!」 彼女は肩を落とした。「…制服の上で溶けて、濡れた跡を残す前に捕まえたの」




俺はため息をついた。アイリスはただ変なだけじゃない。アイリスは本物の、正真正銘の…




「お前、女神だろ、アイリス」 それは質問ではなかった。




「見習いの弱小不運の女神です、どうも」 彼女は気を悪くしたように訂正した。「そして、この『破片』が溶けたら、制服どころの話じゃないわ!『次元汚染条項』が発動して、今後3000年間、猫の銀河を掃除することになるのよ!」




「はいはい」 俺は氷の塊を受け取った。尋常じゃなく冷たい。冷たさそのものを触っているかのようだ。「つまり、見習いの弱小女神が俺のコンビニに降臨して、俺よりさらに不運で、この氷が溶けたら、うちの店長が宇宙的な罰金を受ける、と?」




「店長じゃないわ。ケンジくんよ。『汚染条項』は、一番近くにいる管理者—つまり、あなたに適用されるの!」 アイリスは純粋な残酷さを持って目を輝かせながら説明した。「もし床に溶けたら、あなたは次元的な後始末をする責任を負うことになるわ。信じて。ただでさえ、便所の床を掃除するのは大変なのよ、星間的な暗闇なんて加わったらマジでヤバいんだから」




俺はこめかみを揉んだ。数学の試験勉強の前に残された睡眠時間はあと1時間しかない。




「分かったよ、アイリス。『時のラグーンの破片』は…アイスの冷凍庫に入れよう。そこなら大丈夫だろ?誰も触らない」




アイリスはまるで神のシャンデリアのように輝いた。「ケンジくん!あなたは天才よ!私のカスタマーサービス担当の司祭様ね!」




俺はただの疲れたアルバイトの店員だ。だが、その瞬間、アイスの冷凍庫は俺の新しい次元間金庫になった。扉を開けて、バニラ味の隣に氷の塊を隠しながら、俺はただ、この弱小女神が冷凍の餅もちを大量破壊のアーティファクトと間違えていないことだけを願った。




俺の夜勤は、これからさらに長くなりそうだ。




二、プレミアムバニラ味の不可能なミッション




「よし、やったぞ」 冷凍庫の扉を閉めて、俺はため息をついた。コンビニに『時のラグーンの破片』だと?最高かよ。今日のシフトが終わるまでに、溶かしてはいけないものが一つ増えた。




一方、アイリスはポテトチップスの陳列を「再編成」しようとしていた。彼女にとって「再編成」とは、水瓶座の星座に基づいて複雑なパターンで並べ替えることを意味する。




「ケンジくんは本当に頼りになるわね!いっそ私の専属司祭になれば?あなたの猫のカルマの借金をディスカウントしてあげてもいいわよ」




「猫なんて飼ってない。それに俺のカルマの借金は、お前が連れてきた不運のせいだ、パートタイムの破滅の女神」 俺は言い返した。「それより、ポテチを見つめるのはやめて、レジに戻れ。客が来るぞ」




アイリスは、宇宙的な罰金のリスクを回避したばかりの者特有の機敏さで、ピンと姿勢を正した。




入ってきたのは、高そうなレインコートの広告から抜け出してきたような男だった。背が高く、細い眼鏡に、つばの広い帽子。そして、不可解なまでの怪しさを漂わせている。おにぎりを買うような客じゃない。いや、秘密を買うような男だ。




彼はゆっくりとした、計算された足取りで、まっすぐアイスの陳列棚へと向かった。




「駄目。そっちに行かないで」 アイリスは両手で頬を覆いながら囁いた。




「プレミアムバニラ味目当てだろ、いつも人気だからな」 俺は冷静を保とうとつぶやいた。「普通の客だ、アイリス。時空の審問官じゃない」




男は冷凍庫の前で立ち止まった。急いで何かを取ろうとはしない。彼はレジカウンターを見て、次に冷凍庫を見て、最後に俺を見た。まるで俺が低レベルな陰謀のスケープゴートであるかのように。




彼は身をかがめた。




「来てるわ、ケンジくん!探査のオーラが感じられる!」 アイリスはインスタント焼きそばの山に隠れた。「気を逸らして!もし彼がこの異常性に気づいたら、全宇宙があなたの銀行口座への強制振り込みを命じることになるわ!」




客は冷凍庫の扉を開けた。中のネオン灯が、彼の厳しい顔を照らした。彼はプレミアムバニラ味を探している。そして、そのプレミアムバニラ味の隣には、凍てつく、紛れもないエネルギーを放つ『凍結した破片』があるのだ。




「何かお探しですか、お客様?」 俺は「次元犯罪なんて知りません」と言わんばかりの店員スマイルを浮かべて尋ねた。




男はメモを取り出し、それを見た。「…プレミアムバニラを。そして…ああ、そうだ。この地域における変わった現象を探している」




俺の笑顔は凍りついたが、わずか半秒だ。「変わった現象、ですか?例えば…どら焼きの二個で一つ割引セールとか?」




男は俺を無視し、手を伸ばした…凍結した破片の真上へ。




「ケンジくん!触るわ!触ったら味と時間のバランスが消えちゃう!」 アイリスが焼きそばの山から叫んだ。




動かなければ。




長すぎる納期を見てきた戦士のような素早さで、俺は通路に飛び込み、冷凍庫のカウンターに寄りかかった。




「あっ、すみません、お客様!ちょうど商品のチェックをしようとしていたんです!」 俺は、男がアイスを取ろうとしていたまさにそのガラスの箇所をトントンと叩いた。




男は飛び上がって手を引っ込めた。彼の眼鏡が少しだけ下がった。




「君は少々慌てすぎているな、若者」




「いえ、ただ…プレミアムバニラに情熱を持っているだけなんです!」 俺は目についた最初のアイスのカップを掴んだ。場違いなエネルギーでそれをカウンターに叩きつけた。「世界一のバニラアイスです!超お勧めします!変わってはいませんが、最高ですよ!」




男は俺を凝視した。次にカップを見た。そして、諦めたようにそれを手にした。




「結構」 彼は疑わしげな声で言った。「では、変わった現象は?」




「ああ、それですか!きっとうちの同僚のせいです」 俺は、今や棚の間にいる漫画の石像のフリをしているアイリスを指さした。「彼女、ロールプレイングゲームのオタクで、いつも普通の物に神秘的な名前をつけようとするんです。今日は『時の破片』。昨日は『宇宙破壊の蛇口』でした」




男は最後に疑念の眼差しを投げかけ、代金を払い、重要な手がかりを逃したような顔で去っていった。




ドアが閉まって初めて、アイリスは焼きそばの後ろから涙目で出てきた。




「ケンジくん!宇宙経済を、あるいは少なくとも味の調和を救ったわ!」




「ただアイスを売っただけだ。それと、多分、一生の潜在顧客を脅かしただけだ、アイリス」 俺は首を揉みながら答えた。「だが、教えてくれ。あの男は何者だったんだ?」




アイリスは銀色の髪を厳粛な表情で整えた。「あれはね、ケンジくん。『次元間税金徴収官』よ。未申告の『異常エネルギー』を徴収しに来るの。でも、あなたのおかげで、彼は手ぶらで帰ったわ!」




「次元間税金かよ…マジか」




俺のバイトのシフトは、まだ半分しか終わっていなかった。




三、電子レンジの解決法と宇宙の調和




「聞け、アイリス。今すぐあの氷をどうにかしないと。また別の『徴収官』が来たら、俺が宇宙的な罰則を受ける」




アイリスは自分のエプロンのポケットから、極めて古そうな巻物を取り出した。それは、光るルーン文字で書かれたコンビニのレシートのようだった。




「問題は、普通に捨てられないことよ。『時のラグーンの破片』は、熱と冷たさの次元的移行エリアで『慎重に廃棄』しなければならないの。さもないと、放出される時間エネルギーが、それに触れた人の心を今後三営業日フリーズさせてしまうわ」




「熱と冷たさの移行エリア…」 俺は見回しながら繰り返した。「熱と冷たさがぶつかり合って、相殺するゾーン、ってことか?」




「その通り!時間と空間が融合する場所…ああ、残念ながら、ここに深淵のポータルはないわ。明日、主任検査官が来るまで待つしかないわね…」




主任検査官。宇宙的な罰金。30時間のシフト。そんなのはごめんだ。




俺の目は、信頼のおけるコンビニの備品に向けられた。




俺の救世主だ。




「アイリス」 俺は彼女の腕を掴み、店の奥へ引きずっていった。「凍結した時の破片が超冷たいなら、そして制御された移行が必要なら…なぜ、瞬間的に加熱して異常性を打ち消さない?」




アイリスは目を丸くして俺を見た。「加熱する?でも、何で?聖なる火とか、海底火山が必要よ!」




俺は裏のカウンターにある機器を指さした。




「いや。必要なのは、コンビニの電子レンジだ 」




アイリスは息をのんだ。「そ、その…次元波動炉?でも、あまりにも平凡すぎるわ!」




「平凡かどうかは問題じゃない!効率が大事だ!」




俺は冷凍庫に駆け寄り、『時のラグーンの破片』を回収し、皿の上に置いた。皮肉なことに、金属製のものを温めるのを禁じるシールが貼ってある電子レンジの中にそれを滑り込ませた。時間の破片については何も書かれていないので、セーフだ。




「無効化にかかる時間:10秒」 スタートボタンを押しながら、俺はつぶやいた。




ブブブブブブッ。ブブブブブブッ。




電子レンジは、通常の弁当の加熱ではありえない、強烈な青い光で光った。レンジの音だけでなく、時間がほどけるような唸りが聞こえた。




「ケンジくん!波動の力で氷の構造が崩壊してる!私のカレーチキンにブラックホールを作ってるわ!」 アイリスは目を覆いながら叫んだ。




「計算済みだ!」




5秒。




光が点滅した。コンビニの店内が一瞬、接続の悪いYouTube動画のようにちらついた。




2秒。




カチン!




電子レンジが止まった。




残ったのは、ネオン灯のいつものだるそうな唸りだけだ。ブラックホールはない。硫黄の臭いもない。そして、『時のラグーンの破片』は、皿の底にある取るに足らない水たまりに変わっていた。




アイリスは手で目を覆うのをやめた。液体を見て、次に俺を見た。




「あなたは…あなたは次元的な効率の天才よ、ケンジくん!あなたは平凡な人間のテクノロジーを使って、宇宙的なアーティファクトを無効化した!なんて…コンビニ的な解決法なの!」




「罰金なしでシフトを終わらせるための方法だ」 俺は訂正し、後始末用の雑巾を取った。「それより、悪いけど、この液体をトイレの流しに捨ててくれ。そこなら、宇宙的なことは何も起こらないと保証する」




アイリスは、まだ呆然としながらも、従った。




夜は救われた。俺のカルマの借金は、ひとまず棚上げだ。




「ねえ、ケンジくん」 アイリスは、レジに戻って売上金を数えている俺に言った。「明日は、配送の女神様が休暇を取るらしいのよ。あなたは銀河系マネージャー補佐に昇進できるかも!」




「補佐なんて興味ない。シフトを終えて数学の勉強をしたいだけだ」 俺は言ったが、疲れた顔にわずかな笑みが浮かんだ。




もしかしたら。もしかしたら、うっかり者の女神を同僚に持つことは、最悪の不運ではないのかもしれない。確かに、悪魔を倒したり、時間を旅したりはできないが、それらを管理することはできる。




結局のところ、世界を、一晩ずつ救うのは、それをするほど必死な唯一のアルバイトの学生以外に誰がいるというのだ?




「いや、やっぱいい」 俺は首を振った。「特別セールのおにぎりを二つ取れ。おごりだ。店を破壊しなかったカルマ的なボーナスだと思ってくれ」




ハッピーマートの夜は、次の異常性を待ちながら、だるそうに続いていく。そして俺、田中ケンジは、いつでも準備ができていた。




(END / 終わり)

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