ネズミのすもう(もうひとつの昔話57)
その昔。
とある山深い村に、じいさまとばあさまが暮らしていました。
ある日のこと。
じいさまが裏山でたきぎを拾っていますと、木かげからなにやら声が聞こえてきます。
そこではネズミたちがすもうをとっていました。
じいさまの家のネズミもいます。
じいさまの家のネズミはやせっぽち。どのネズミにもコロリと投げ飛ばされました。
――かわいそうに。いいものを食べてないんで、力が出ないんだな。
家に帰ったじいさまは、裏山で見たことをばあさまに話して聞かせました。
「なら、モチを食べさせたらどうかね?」
「そいつはいい。そうすりゃ力が出るからな」
さっそく二人はなけなしのモチ米をついて、じいさまの家のネズミに食わせてやりました。
次の日。
じいさまの家のネズミは、次々とほかのネズミたちを投げ飛ばしました。
「おまえ、なんでそんなに強くなったんだ?」
おどろいて聞いたのは長者の家のネズミ。
「うちのじいさまが、モチをついて食べさせてくれたんだ」
「いいなあ」
「分けてあげたいんだけど、うちのじいさま、あのとおり貧乏だろ。もう、モチ米がないんだ」
「だったら、お金を持っていくよ。それでモチ米を買ったらいいさ」
よその家のネズミたちも、みながお金を用意すると申し出ました。
それからは毎日。
ネズミたちがお金を持ち寄るようになりました。
じいさまはそのお金でモチ米を買い、みなにモチをついて食べさせてやりました。
その後。
村じゅうのネズミたちが、こっそりお金を盗んで持ち寄るようになりました。
一年後。
ネズミたちがお金を持ってこなくなりました。このときすでに、村じゅうのお金を残らずかき集めていたのです。
「そうだ、都に行こう。こやつらには、これからも金を集めてもらわなくてはな」
「ええ、ええ、もっともっとですわ」
二人は村じゅうのネズミを引き連れ、都へ向かう大きな船に乗りました。
いざ出港というとき。
なぜかネズミたちは一匹残らず船を降りて、どこやらに逃げていってしまいました。
「どうして逃げたんでしょうね?」
「なんでだろうな? 都に行けば、モチがいっぱい食えるというのにな」
「わたしらも船を降りますか?」
「いや、ワシらだけで行こう。都にはもっとたくさんのネズミがおる。そやつらの力を使えばいいさ」
海の旅のさなか。
船は予期もせぬ嵐で沈んでしまいました。
村にもどったネズミたち。
今日も裏山ですもうをとっています。
――じいさまとばあさま。船が沈むのがわかっていたのに、どうして降りなかったんだろう?
今となっては、じいさまの家のネズミは残念に思うばかりでした。




