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第三話. 『人助け』

海底には、誰も知らない世界が広がっている。

光も音も、私たちの知る現実とは少しだけ違う、静かで神秘的な世界。

そこに生きる私――マーメイドプリンセス カノ――は、ずっと一つの夢を抱いていた。

海の上に広がる未知の世界を、この目で確かめること。


でも、海の規則は厳しい。危険がいっぱい。行ってはいけないと何度も言われてきた。

それでも、心の奥底で呼ぶ声があった。

「見てみたい――本当に世界は、こんなにも広いのだろうか」


これは、好奇心と冒険に突き動かされた、ひとりの少女の物語――。

人間と海の世界の狭間で、私が初めて知ったこと、感じたこと、すべてをあなたに伝えたい。


 花火が終わり、船は元の航路を進み始めた。


 皆、真っ暗な海の上で打ち上げれる壮大な花火の余韻に浸り、イベントは成功で終わりを迎えるはずだった。


 が、突如として進路方向に巨大な影が現れた。


 見張りは急いで船内の船長らに伝えたが、遅かった。


 それは、信じられないほどに大きな、息継ぎのため浮上したクジラだった。


「取舵一杯!! クジラをよけろーーーー!!」


 ドガーーーーーン!!! メキメキメキッ


 操舵を握っていた航海員は舵を切るも避けきれず、船はクジラに衝突した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 船体が突然大きく揺れ、船尾にいたアレンはバランスを崩して後ろに倒れ込む。


 ガンッ


 突然のことで受け身が取れず、強く後頭部を打ち付けた。


 一瞬の出来事だった。


 アレンは衝撃で意識が遠のき、そのまま海へと投げ出されてしまった。


「…!」


 ただ一人、その瞬間を見ていたのはカノだけだった。


 意識を失って沈んでいく男の子を見つけ、咄嗟に彼女は泳ぎ寄る。


 近くの船上の大人たちは突然の事態に気を取られ、軋む音を聞いた人々は冷静ではいられず、避難経路はどこだと右往左往している。


 船体は結局、クジラにかすめるようにぶつかり、船全体が混乱に包まれていた。


 カノはアレンを無事、安全なところへ運ぶと決めた。


 救命用の小舟を降ろす者、荷を運び出す者で甲板は慌ただしく、人ひとりの転落に気づく余裕は誰にもなかった。


 この船が安全ではなく沈みかけていることは、カノにもわかった。


 カノはアレンを腕の中に抱え込むようにして、必死で近くの陸地を探した。


 しばらく進むと、月光に照らされた砂浜が姿を現した。


 彼女はそこへ男の子を運び、波打ち際にそっと寝かせる。


 胸の上下を確かめ、かすかな呼吸を感じ取ると、安堵の吐息を漏らした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(アレンside)


 アレンは海に落ち、意識を手放しそうになりながらも、月光の中で必死に自分を支える影を感じた。


 薄れゆく視界の中で浮かび上がったのは、先ほどの、あの不思議なマーメイドの女の子の姿だった。


 ――やっぱり、綺麗だ。


 そう思った瞬間、再びアレンの意識は闇に沈んでいった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(カノside)


 カノは砂浜に男の子を横たえ、胸の上下にかすかな命の灯を確かめた。


「……よかった、生きてる」


 安堵と同時に、月明かりに照らされた砂浜のなか、視界の端に影がふと揺れるのが見えた。


 歩いてくる影が2つ。


 ――人間だ。


 カノは思った。ここから先は、きっと自分ではなくその人たちの領域。


 だから、これ以上は何もできない。


 海の底から来た自分には、ここが限界なのだ。


 小さく男の子に「じゃあね」と心の中で呟き、カノは波間に溶けるように姿を消した。


 砂浜にはただ、月光と少年のかすかな寝息だけが残されていた。


閲覧いただきありがとうございます!

気になる点等がある場合は、誤字脱字機能を使って修正くださると作者は大変助かります。

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