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 翌朝、またけたたましいサイレンで目が覚めた。

 もうすっかり明るくなっていて、朝から蒸し暑かった。

 私たちはよその家の軒下で寝ていたってわかった。ひと晩明けても、事態はなんにも変わってないみたい。

 サイレンの音に人々が一斉に家から飛び出してくる。みんな小走りに歩いている。


「警戒警報発令!」


 サイレンとともに、そんな放送も拡声器から流れてる。

 私はそばを通ったもんぺ姿のおばさんをつかまえた。


「何があったんですか?」


 おばさんは一瞬怪訝な顔で私たちを見た。


「今回は空襲警報じゃのうて警戒警報じゃけえどうってことない思うけど、一応防空壕に避難しとかにゃあ。あんたたちも早う」


 防空壕っていたってどこへ行ったらいいかわからない。

 とにかく人の流れについて言ったらみんな近くの穴の中に入っていくから、私たちもついって行った。

 薄暗くて狭い穴の中はめっちゃ蒸し暑くて、そんなところに人がひしめき合ってなにかと雑談している。

 今回は二十分くらいでサイレンはやみ、みんなぺちゃくちゃ話しながら穴から出てそれぞれの家に帰っていくようだ。

 私たちもとりあえず、当てもないけど歩き出した。

 空はよく晴れていた。

 私たちはいつしか川沿いの、土手の上の道に出た。その頃になって、妃菜がおなかがすいたと言ってすわりこんだ。それはみんな同じだ。

 でも、ここじゃ、 私たちのお金は使えない。みんな歩くのをやめて、土手の上で妃菜と同じように座りこんでしまった。そのまま沈黙が続いた。


「学校のみんな、どうしてるかなあ。私たちが行方不明ってことで、大騒ぎになってるね」


 私のことばに、純夏がため息をつく。


「ねえ、いったい今ってさあ、何年の何月何日?」


「戦争中? で、夏。それはたしかだよね」


 そう言ったあかりを、純夏は睨む。


「わかってんのよ、そんなこと」


「誰かに聞いたら、また怪しまれるよね」


「あ。あれ!」


 私は思わず立ち上がってた。

 私の目に留まったのは、近くの家の玄関脇の郵便受け。そこに配達された新聞がまだ入ってる。


「新聞見れば日付分かる」


「あ、そっか! でも、ひとの家のもの」


 見上げるあかりを見て、私はうなずいてみせた。


「別にちょっと日付見るだけだから。すぐに元通りに返しとけばいいでしょ」


 そう言いながらももう私はその絵のそばまで来て、新聞をそっと抜き取る。朝刊のはずだけど、夕刊みたく薄いぺらぺらの新聞だった。

 続いて寄ってきた星が、その日付をのぞきこむ。


「何これ? 日六月八年十二和昭?」


「右から読むの、右から! えっと、昭和二十年?  エッ……? うそ、まじ?」


 私、思わず絶句。星も同時に声をあげた。他の二人も立ちあがって、寄ってきた。


「優ちゃん、どうしたの?」


「昭和二十年八月六日……広島……」


 顔にさっと冷たいものが走った。


「いやあーッ!」


 大きな叫び声をあげて、妃菜がまたしゃがみこんだ。


「やだ! 死ぬの、やだ!」


 純夏も小石を拾って、それを思いきり地面にたたきつけていた。


「最悪! なんでこんなことになる? まじ最低! 私、こんなところで死ぬわけにはいかない!」


「ねえ、純夏」


 うしろから純夏に、私はそっと声をかけた。


「あきらめるの、早くじゃない? あれこれ言ったってはじまんないし、それよかなんとか令和の時代に帰る方法考えよう」


 そんな私の声も上ずっているのが、自分でもわかる


「もう疲れた。どうだっていいよ」


 妃菜がしゃがんだまま吐き捨てるように呟く。 私は純夏を見た。


「ねえ、純夏」


 すると純夏は、きりっと私を睨んだ。


「もう、うるさいんだよ! ほっといて! 優ちゃんのそういうところが嫌い。自分だけいい子ですって顔して、まじムカつくし」


「ひどい! 自分だけかわいそうだって思ってない? いいかげんにしてよ。私だって恐いんだよ。でもこのまんまだったらさ、みんな本当に終りでしょ! ねえ、考えよう」


「ひとりで考えれば!」


 またしゃがんで、とうとう純夏、泣きだた。


「悪いけど、私も純夏に賛成」


 妃菜もそう言うので、困った私は星を見た。


「あかりん、どうする?」


「逃げよう。広島の外まで逃げれば」


「だって原爆落ちたのって、たしか朝だったんじゃない?」


 だめだ。逃げられない。間にあわない。


 その時、何人かの子供たちの歌声が、私たちの耳にとびこんできた。

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