誰もいない放課後、二人だけの教室
「なあ彩……もう遅いぞ。今日は帰った方がいいって。」
「大丈夫。終わらせないと……文化祭で失敗したくないし。」
準備を始めたのは放課後だったはずなのに、いつの間にか時計は20時を過ぎていた。
気づけば、教室に残っているのは私と涼だけ。
外はすっかり暗くなり、窓ガラスに蛍光灯に照らされた私たちの姿が映っている。
(なんで……あんたと二人きりなんかに……)
「彩、無理すんなよ。顔、赤いぞ。」
「赤くなんか……ないっ!」
「はは、わかりやすいな。」
涼は笑いながらも、真剣な顔で準備を続けていた。
普段はふわっとしてるくせに、ダンスや準備になると一気に真面目になるそのギャップが、ずるいと思う。
(こんな顔、普段見せないくせに……)
机の配置を直そうと涼が机を持ち上げた時、私も同じタイミングで動いてしまい──
「っ!」
「危ないっ!」
机に足を取られた私を、涼が咄嗟に抱きとめた。
涼の腕の中に収まった私は、心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
「だ、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ……っ!」
言いながらも、涼の手はまだ私の腰を支えたまま。
手の温もりが制服越しに伝わってきて、ますます顔が熱くなる。
「お前……無理してたろ。ちょっと休めよ。」
「……うるさいっ!」
思わず振り払おうとしたけど、涼の手がしっかり支えてくれていて離れられない。
二人の距離は、今にも唇が触れそうなくらい近かった。
「彩……」
「……な、なに……」
「俺さ……文化祭のダンス、お前に一番に見てほしいんだ。」
「っ……!」
涼の真剣な声が、教室に響いた。
夜の学校の静けさの中で、彼の声だけがやけに大きく聞こえる。
「お前が見ててくれたら、頑張れるから。」
「……しょ、しょうがないから……見てあげるっ!」
「ふふ、ありがとう。」
照れくさいのに、嬉しいのが悔しい。
でも涼は私が離れようとしても手を離さず、見上げた涼の顔はほんのり汗をかいてて、でも誰よりもかっこよかった。
「彩……」
「……っ!」
涼の顔が、また少し近づいた。
心臓が壊れそうなくらい高鳴って、夜の教室が二人だけの特別な場所に思えた。