文化祭準備中!
「文化祭の準備係、お前もか。」
「……え? あんたも?」
準備係に選ばれたのは、私と涼、そして数人のクラスメイト。
放課後の教室には、机や椅子を移動する音が響いていた。
「ったく……なんであんたと一緒なのよ。」
「別に、嫌なら帰っていいぞ?」
「……誰が帰るって言ったのよ。」
「へへ。」
涼はいつもの調子で笑いながら机を持ち上げた。
不器用そうに見えるけど、運動神経だけは抜群だから、重たい机も簡単に動かしていく。
「……運動だけは得意だもんね。」
「ん? なんか言った?」
「別にっ!」
準備が一段落したころ、クラスメイトが「ダンス部の準備もあるんじゃない?」と声をかけてきた。
「あ、俺そろそろ練習行くわ。彩も帰んの?」
「……まだ残ってやることあるし。」
「そっか。……なあ、彩。」
「……なに。」
「あとで時間あったら……練習、見にこいよ。」
「は!? 誰が行くかっ!」
「行かないとは言ってないんだな。」
「うるさいっ!」
準備を続けるふりをしながらも、気づけば涼のダンス部練習の時間を気にしてしまっている自分がいた。
(なんで……気になるのよ……)
準備を終えて校舎を出ようとしたとき、体育館から音楽が流れてくるのが聞こえた。
思わず、足がそっちへ向かっていた。
体育館のドアを少しだけ開けると、涼がステップを踏む姿が見えた。
普段の天然な笑顔とは違う、真剣でかっこいい横顔。
「……っ」
思わずドキドキしてしまったそのとき──
「彩、見てたのか?」
「ひゃっ!?」
振り返った涼と目が合う。
音楽は止まり、涼が汗をぬぐいながら近づいてくる。
「……あ、あんたこそ、いきなり近づいてくんな!」
「なんだよ。顔、赤いぞ?」
「う、うるさいっ!」
涼は笑ってから、真剣な目で私を見つめた。
「……俺のダンス、見ててくれよ。」
「っ……」
不意打ちの言葉に、心臓が大きく跳ねた。
視線を逸らしたいのに、逸らせない。
気づけば、体育館の真ん中に二人だけ。
私の耳まで涼の声が届く距離にいる。
「……しょうがないから……見ててあげる。」
「ふふ、ありがとな。」
涼が軽く笑ったその瞬間、もう自分の気持ちを誤魔化せないと思った。