2人きりの帰り道 寄り道しないはずが…
「なあ、彩。今日は一緒に帰ろうぜ?」
「……別に、いいけど。」
涼に誘われて、なんとなく並んで歩き出した帰り道。
部活もなくて、久しぶりに二人きりの放課後。
(なんか、変に意識しちゃう……っ)
「なぁ、彩。勉強ばっかだと疲れんだろ?」
「別に……勉強は好きだし。」
「そっか。でも、たまには気分転換もしよーぜ。」
「……あんたと一緒にしても、気分転換になんかならないし。」
「ひど。俺、結構楽しいんだけど。」
「っ……」
(ずるい……天然でそういうこと言わないでよ……)
夕暮れの空が赤く染まっていく中、涼と歩くこの時間だけ、少し特別に思えてくる。
「寄り道しね?」
「は!? 寄り道!? 勉強あるんだけど!!」
「えー、俺の頼みもダメ?」
「……ちょっとだけ、だからね……!」
涼が嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ただけで、胸の奥がくすぐったくなる。
歩いて5分ほどの神社の境内に、小さな縁日が出ていた。
「金魚すくい、やろうぜ!」
「は? やるわけ──」
「ほら、楽しそうだぞ?」
涼が手を伸ばして、自然に私の手を引く。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
「ちょ、ちょっと……っ!」
「なんだよ。転ぶなよ?」
(子ども扱いしないで……でも、嫌じゃない……っ)
金魚がぷかぷか泳ぐのを、涼と肩を並べて見ているだけで、心臓が落ち着かない。
「なあ、彩。」
「……なに。」
「これ……デートみたいだな。」
「はぁっ!? ばっ……ばか!!デートなわけないでしょ!!」
「だって……お前と二人で遊んで、楽しいし。」
「……っ」
「金魚、取れたらお前にやるな。」
「いらないしっ!」
「嘘だな。お前、昔も金魚すくいですぐ泣いたくせに。」
「っ……だ、誰が泣いたって!?」
涼は楽しそうに笑いながらポイを構える。
私はその横顔を横目で見ながら、頬の熱を抑えられなかった。
「彩、見てろよ……おっ、取れた!」
涼が金魚をすくって差し出してくる。
その顔があまりにも嬉しそうで、悔しいけど、可愛いと思ってしまった。
「いらないって言ったのに……」
「いいから。持って帰れよ。」
「……バカ。」
涼が笑うたびに、心臓の音が大きくなる。
デートじゃないって思いたいのに、もうそうにしか思えなかった。
(やだ……好きになっちゃう……っ)