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第23話 龍の心臓へ、四つの誓い

「龍脈を守ること、それがレガルド様を救う唯一の道……!」

 ゼノヴィオスの言葉は、絶望の淵にいた仲間たちにとって、一条の光となった。「炎の一献」のテーブルを囲み、四人の瞳には、かつてないほど強く、そして熱い決意の炎が燃え盛っていた。


 作戦は明確だった。シリウスの地下探索の知識と、ゼノヴィオスが解読した古地図を元に、グリュム・シティの地下に存在する主要な三つの「龍穴」を特定。そこに「黒曜の爪」が仕掛けた呪具を、キルヴァンの浄化の炎で破壊・浄化する。

 ミレーユは、この計画を直ちに龍王レオンと評議会に報告した。報告を受けたレオンは、評議会を動かし、彼らの地下での活動を全面的にバックアップすることを約束。「地上の守りは我らに任せよ。君たちは、都市の心臓、そしてレガルド殿を頼む」という力強い言葉が、彼らの背中を強く押した。


 その夜、四人は店の地下貯蔵庫の奥、シリウスが発見した秘密の通路の前に立っていた。それぞれが武器や道具を手にし、その顔には緊張と、しかしそれ以上の覚悟が浮かんでいる。

「よし、準備はいいか、お前ら!」

 シリウスが、松明の灯りで仲間たちの顔を照らしながら言った。

「キルヴァン、怖気づくんじゃねえぞ。俺の後ろにしっかりついてこい」

「う、うん!大丈夫だよ、シリウスのおじちゃん!」

「ミレーユ嬢は、危なくなったらすぐにわしの後ろへ。老いぼれでも、壁くらいにはなりますからのぅ」

「ありがとうございます、ゼノヴィオス様。ですが、私も戦います。レガルド様からいただいた、この場所と仲間を守るために」

 ミレーユは、短剣の柄を強く握りしめた。

 四人は互いに頷き合うと、グリュム・シティの地下深くに広がる、古の龍脈の世界へとその第一歩を踏み出した。


 地下世界は、地上の喧騒とは全く異なる、神秘と静寂に満ちていた。壁面では、光る苔や色とりどりの鉱石が、まるで星空のように瞬き、一行の進む道をぼんやりと照らしている。空気はひんやりと澄み渡り、時折、どこかから滴る水の音が、厳かな聖堂のように響き渡った。

「へっ、こんなもん、ドワーフの子供だましにもなりゃしねえぜ」

 シリウスは、時折現れる「黒曜の爪」が仕掛けた単純な落盤や隠し穴の罠を、長年の経験と勘でいとも簡単に見破り、解除していく。その頼もしい姿は、キルヴァンにとって、まるで伝説の英雄のように見えた。


 長い通路を抜け、一行はついに最初の目的地である「第一の龍穴」へとたどり着いた。そこは、広大な地底湖の中心に浮かぶ島で、龍脈の膨大なエネルギーが、オーロラのような青白い光となって渦巻いていた。あまりの幻想的な光景に、ミレーユもキルヴァンも思わず息をのむ。

 だが、その美しい光景の中心には、異物が突き立てられていた。黒曜石を削り出して作られたかのような、禍々しい紋様の刻まれたオベリスク。それが、周囲の清浄な水を汚染し、紫黒色の瘴気を絶え間なく放っている呪具だった。

 そして、その呪具を守るかのように、湖の濁った水面から、ぬらり、と複数の巨大な影が姿を現した!それは、瘴気によって凶暴化した巨大な地底蛇――硬い鱗と、石化の邪眼を持つバジリスクの群れだった!

「グルルルル……!」

 バジリスクたちが、赤い舌をちらつかせながら、一斉に島へと上陸してくる。


「戦闘開始じゃ!目を合わせるな!」

 ゼノヴィオスが叫ぶと同時に、風の魔法で蛇たちの動きを牽制する。

 ミレーユは冷静に敵を観察し、即座に弱点を見抜いた。「シリウスさん!あの個体の腹部、鱗が薄い部分があります!そこを狙って!」

「言われなくてもなァ!」

 シリウスは、ミレーユの指示したバジリスクへと突進するが、別の個体が横から鋭い牙を剥いて襲いかかってきた。

「シリウスのおじちゃん、危ない!」

 キルヴァンが、そのバジリスクの側面に浄化の炎を叩きつける!炎は致命傷にはならなかったが、その聖なる熱さにバジリスクが怯んだ。

「小僧っ子、やるじゃねえか!よし、俺が道を作る!それに乗れ!」

 シリウスは、キルヴァンが作った一瞬の隙を逃さず、最初の目標であったバジリスクの懐に潜り込むと、その巨体を戦斧の柄で強引に押し上げ、白く柔らかい腹部をキルヴァンに向けて晒した!

「今だ、キルヴァン!」

 ミレーユの叫びが響く。キルヴァンは、仲間たちが作ってくれた完璧な好機を逃さなかった。

「いっけええええええっ!」

 白金の炎が、一直線にバジリスクの腹部を貫く!甲高い悲鳴と共に、巨大な蛇は黒い煙を上げて崩れ落ちた。見事な連携だった。


 残る地底蛇も、四人の完璧なチームワークの前に次々と撃退されていく。そしてついに、キルヴァンは最後の力を振り絞り、呪具のオベリスク本体に向かって、これまでで最大の浄化の炎を放った!

 キィィィィン!という甲高い悲鳴のような音を立てて呪具は砕け散り、龍穴に渦巻いていた紫黒色の瘴気は、まるで夜明けの霧が晴れるように消え去っていく。後には、青白く、清浄な龍脈の光だけが残った。


「やった……やったよ、みんな!」

 キルヴァンが、へなへなとその場に座り込む。

 その瞬間、キルヴァンは「あ……!」と小さな声を上げた。彼の心の奥底で、遠く離れた霧隠れ山脈の、あの黄金の光の柱が、ほんの少しだけ、しかし確かに、その輝きを増したのを感じ取ったのだ。

「おじさんの光が……少しだけ、元気になった気がする……!」

 その言葉に、ミレーユたちも安堵の表情を浮かべた。


 だが、その様子を、マルバスが地下工房に残した水晶球を通して、冷ややかに観察していることには誰も気づいていなかった。

「ほう……面白い。実に面白い。私の仕掛けた玩具を、あのような方法で破壊するとは。ですが、おかげで良いデータが取れましたよ。あの小さな龍の子の『浄化の炎』……実に興味深い」

 マルバスは、愉悦の笑みを浮かべ、水晶球の横にある別の制御盤のスイッチを入れた。

「さあ、次の舞台は、あなた方のそのささやかな希望が、底知れぬ絶望へと変わる様を、特等席で鑑賞させていただきましょう」

 マルバスの不気味な宣言と共に、次の龍穴へと続く道に、より強力で、そしてキルヴァンの力を逆利用するような、さらに狡猾な罠が起動しようとしていた。

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