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第13話 終焉の序曲、黄金の誓い

「ここで……終わらせるわけには、いかないッ!」

 レガルドの咆哮が、崩壊し始める聖域に木霊した。彼の右拳に凝縮された黄金色のオーラは、まるで小さな太陽のように眩い光を放ち、ドゥルザグの禍々しい瘴気を焼き払うかのようだ。それは、古代竜の魂そのものを燃焼させるかのような、壮絶な一撃だった。


「グオオオオオッ!」

 黄金の拳は、寸分の狂いもなくドゥルザグの眉間――潰れた左目に埋め込まれた赤い宝石――に叩き込まれた!

 ゴシャァァァン!という凄まじい破壊音と共に、宝石が砕け散り、ドゥルザグの巨体が大きくのけぞる。その奥から響いていた人間の女の声が、今度こそ明確な苦悶の叫びを上げた。

「おのれ……おのれぇ、古代竜ッ!この程度で……我らが大願を……止められると思うなぁ!」

 しかし、その声には先ほどまでの余裕はなく、焦りと憎悪が滲んでいる。


 だが、ドゥルザグの動きは止まらない。むしろ、最後の抵抗とばかりに、残った右目でレガルドを睨みつけ、その巨大な顎を開き、内側から紫黒色の破壊光線を放とうとする!

 同時に、祭壇の奥から亀裂を押し広げ、姿を現しつつあった「終焉の黒龍」の巨大な爪が、さらにその禍々しい輪郭を露わにしていた。聖域の崩壊は加速度を増し、天井からは巨大な岩盤が次々と落下し始める。


「レガルド様!」

 ミレーユは、砕け散ったドゥルザグの宝石の破片が、祭壇に描かれた邪悪な紋様と共鳴し、亀裂からの瘴気の噴出をさらに促していることに気づいた。

「あの祭壇の紋様が、封印を弱めているのかもしれません!あれを破壊できれば……!」

 だが、どうやって?ミレーユは負傷した体で、何か手はないかと必死に思考を巡らせる。


「おじさぁぁぁん!」

 キルヴァンは、レガルドの黄金のオーラに呼応するかのように、自身の内なる炎を限界まで高ぶらせていた。その小さな体から放たれる炎は、もはやただの火ではない。それは、清浄な願いと、仲間を守りたいという純粋な想いが結晶化したかのような、白金色の輝きを帯び始めていた。

「僕の炎も……おじさんの力になるならッ!」

 キルヴァンの白金の炎が、ドゥルザグが放とうとしていた破壊光線と激突!紫黒色の瘴気と白金の炎が拮抗し、凄まじいエネルギーの奔流を生み出すが、かろうじて破壊光線の直撃を防いだ。


「小僧っ子が、いっちょ前にやりやがる!」

 岩壁からなんとか這い出したシリウスが、戦斧を杖代わりに立ち上がり、ドゥルザグの足元へ向かって最後の力を振り絞って突進する。

「こいつの足止めくらいは、このドワーフの誇りが許さねえってもんだ!」

 シリウスの捨て身の攻撃が、ドゥルザグの巨体をわずかに揺らがせる。


「もはや、この聖域そのものが持たんか……!」

 ゼノヴィオスは、降り注ぐ岩石から仲間たちを守るように風の障壁を薄く展開しながら、悲痛な声を上げた。彼の魔力も尽きかけている。

「レガルド殿!ミレーユ嬢の言う通り、あの祭壇の紋様じゃ!あれを破壊すれば、あるいは『終焉の黒龍』の完全な顕現をわずかでも遅らせることができるやもしれん!」


「おのれ、おのれ、おのれぇぇッ!愚かなる者どもめが!」

 ドゥルザグの奥から響く女の声は、もはや怒りというより狂気に染まっていた。「この穢れた世界は、終焉の龍帝陛下によって浄化されるのだ!新たなる龍の千年王国が始まるのだ!お前たちのような虫けらが、その邪魔をするなぁぁぁ!」

 その声は、やはりアストリッドのものに酷似している。だが、その奥に潜む、何百年も生き長らえたかのような老獪で歪んだ意志が、ミレーユにははっきりと感じ取れた。アストリッドは、この邪悪な何者かに心身ともに乗っ取られているのかもしれない……。


 聖域は、もはや断末魔の叫びを上げているかのようだった。地面は裂け、壁は崩れ、天井からは溶岩のような赤い光が覗いている。

「キルヴァン!ミレーユ殿を頼む!シリウス、ゼノヴィオス殿、退路を!」

 レガルドは、ドゥルザグの猛攻を一身に受けながら叫ぶ。彼の黄金のオーラもまた、限界が近いのか明滅を繰り返していた。

「おじさん、僕も戦う!」

「ダメだ!お前たちだけでも、ここから……!」

 レガルドの言葉を遮るように、キルヴァンが再び白金の炎を燃え上がらせた。

「嫌だ!おじさんを一人になんてしない!ミレーユお姉ちゃん、シリウスのおじちゃん、ゼノヴィオスのおじいちゃん!僕に力を貸して!」

 その小さな龍の魂の叫びに、仲間たちが応えないはずがなかった。


 ミレーユは最後の知識を振り絞り、祭壇の紋様の弱点となりうる古代龍の文字の配列を叫ぶ。シリウスは最後の力を込めて戦斧を投擲し、ドゥルザグの注意を逸らす。ゼノヴィオスは風の力を収束させ、キルヴァンの炎を祭壇へと導く一条の道を作り出した。

「いっけええええええええええええっ!」

 キルヴァンの白金の炎が、ゼノヴィオスの風に乗り、ミレーユが示した祭壇の紋様の急所へと、一条の光となって突き進む!

 それは、仲間たちの全ての希望を乗せた、最後の一撃だった。


 白金の炎が紋様に到達した瞬間、聖域全体が閃光に包まれた。

 ドゥルザグの動きが、完全に止まる。その巨体から、女の絶叫と、黒い煙が立ち上る。

「おのれ……おのれ……この借りは、必ず……『黒曜の爪』の真の力をもって……」

 その言葉を最後に、ドゥルザグの赤い瞳から光が消え、その巨体はゆっくりと崩れ始めた。


 だが、安堵する暇はなかった。祭壇の奥から伸びていた「終焉の黒龍」の爪は消えていなかった。むしろ、紋様の破壊によって封印のタガが外れたのか、さらに強大な邪気が噴き出し、空間の亀裂が臨界点に達しようとしていた!

「もはやこれまでじゃ……!」ゼノヴィオスが絶望の声を上げる。「この聖域は、終焉の龍と共に葬り去るしかないのかもしれん……!」

 彼は最後の力を振り絞り、懐から取り出した古びた転移の魔石を起動させようとした。


「待て、ゼノヴィオス殿!」

 レガルドが叫んだ。彼の黄金のオーラは消えかけていたが、その瞳には諦めない光が宿っている。

「まだだ……まだ、終わらせるわけにはいかない!」

 彼は、崩れ落ちるドゥルザグの巨体を踏み台にし、亀裂が広がる祭壇の奥――まさに「終焉の黒龍」が完全に姿を現そうとしている虚無の闇――へと、最後の力を振り絞って飛び込もうとしていた!

「レガルド様!?」

「おじさん!?」

 仲間たちの悲鳴が響き渡る。

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