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03

 雲がちぎれちりぎれ空を走っている。だが、これは偽物。

 草花が風に揺られながら唄っている。だが、これも偽物。


 偽物が溢れる国で、偽物の友情、恋を繰り返しては人間は死んでいく。

 しかし、偽物と言い切れないのはただ一つ。──人の感情だ。


 相手を大事だと思う心。相手を労る心。

 その心に、嘘はあるのだろうか。ないのだろうか。


 その答えを求める者いない。その答えを求めれば、この世界は崩れるだろう。

 誰一人求めることのない、幸せな世界の均衡が、紙を破るように容易く。




 ──肌寒い風が吹き付ける部屋のなか、イヴは一人休んでいた。

 イヴの体には生々しいコードが何本もささっており、それがイヴを人間ではないという証明になる。


 一人の研究者は汚い物──汚物でも見るかのようにイヴを見ていた。

 その視線に気がついたのか、イヴは白い瞼をゆっくりとあげる。

 するとその男は驚いたように恐怖の顔を浮かべ、奥へと走っていった。



 この前イヴが戦った男。名は[セネル・グランツェ]と言うらしい。

 ここ──スラヴ研究所でも名が知れている男で、怖れられているという。


 セネルは人間とは思えない圧倒的な力を持っていて、高性能のアンドロイドでは無いか、とまで噂されている。

 そんなセネルをイヴは不本意とはいえ、退けることが出来たのだ。

 いままで注目の集まっていたイヴに、今まで以上の注目が集まることになるのは分かりきっていた。


 しかし、そんなことよりも『あのこと』が気になるイヴ。

 名前を聞く限り、自分が感じた記憶に出て来た男と、目の前に表れた男の名前は一致している。


 ──あれはただの『幻想』にしか過ぎないのか。

 それとも、あの記憶は本当に正しい物なのか。

 どんなに凄い頭脳を持っているイヴでさえ、その疑問に答えを見いだすことは出来なかった。


 それに、もう一つイヴは胸に引っかかるものがあった。

 それはセネルが口にした『人体実験』という、聞くからに恐ろしい言葉。


 イヴの記憶が間違っていなければ、人間に人では耐えきれないほどの『何か』をする実験のことだ。

 人間をまるで動物のように扱い、死ぬまで沢山のことをその人間で『試す』のだ。


 それに自分と瓜二つだった少女が使われたというのか。

 その少女は一体、どんな苦痛を味わい、どんな思いで──死んだ──……?




「──0001様、指揮官がお呼びです。作戦指令室に集まれとのことです」




 後ろから機械音がしたかと思うと、変化の無い声がイヴの耳に届いた。

 一瞬肩を小さく揺らしたイヴ。しかし小さく返事をすると、その場から急いで作戦指令へと向かう。


 今まで指揮官になど、呼び出されたことは無かったイヴ。しかし、何故今呼び出されたのか。

 『あのこと』と関係のある話なのか。それとも全く別物なのか。



 作戦指令室の前には、皮肉にも『蒼い戦い』の象徴となっている『蒼い薔薇』が飾られていた。

 この蒼い薔薇が枯れた時。それは戦いが終わった時なのだろうか──……











*











 作戦指令室にイヴが入ると、そこにはイラヴ研究所のお偉いがたが座っていた。

 それだけではなく、『スヴァローグ帝国』のお偉いがたも椅子に腰掛けている。

 視線の端に、鎧を身に着けた二人の男に取り押さえられている黒髪の男が目に入った。


 流石に何事かと周りの人間を一通り見回したイヴ。

 ──と、一人の男のところで目が止まる。押さえつけられていた黒髪の男が、『セネル』だったからだ。

 一瞬目を丸くしたイヴ。しかし、指揮官に気がつかれないよう、一瞬で表情をもとにもどした。




「……なんでしょうか。指揮官」


「スヴァローグ帝国・国王のトリグラフ様がお前の力を借りたいそうだ」




 指揮官の言葉を聞いた瞬間、イヴは思う。ついに自分も『蒼い戦い』に出向くことになると。

 イヴはどうも気が進まなかったが、指揮官の命令は絶対なのだ。断ることは出来ない。

 少々嫌ながらに首を縦に振り、了解したと伝えた時、小さな女の子の声が聞こえて来た。




「えーっ! なんでそんなにアンドロイドに頼るのぉー!? お兄ちゃんがいるのに!」


「チェルノ、場を慎みなさい」




 国王に注意された少女──9ぐらいだろうか──は金髪の髪を持っており、大きな赤いリボンを着けている。

 服装は白いフリルのついたワンピースに、ピンクのカーディガンを羽織っていた。

 何故そんな小さな年の女の子がここにいるのかと、一瞬イヴは首を傾げる。




「ヴェレスは強いが人間だ。人間には限界がある」


「そんなことないもん! お兄ちゃんは誰よりも強いんだもん!」




 金髪の少女──チェルノはぶぅ、と頬を膨らませていじけてしまった。

 彼女がお兄ちゃん、と呼んでいる人物は会話からみて、ヴェレスという強い力をもった人間らしい。


 イヴは一瞬どうしていいか分からなくなったが、はっとある場所へ視線を戻す。

 ──鎧の男達に取り押さえられているセネルは傷だらけだった。

 イヴの視線に気がついたのか、セネルはふいに顔をそらした。




「指揮官。あの人間は……?」




 なるべく指揮官に気がつかれぬよう、イヴは指揮官に尋ねてみる。

 イヴの問いかけを聴いて、誇らしげに笑う指揮官。そして、信じられない言葉を口にした。




「──あぁ、元スラヴ騎士団団員、セネル・グランツェだ」











*











 スラヴ騎士団。全てが謎に包まれている不気味な騎士団。

 まるで意志がないかのように、スラヴ研究所を守り続ける。


 そんな不気味な人間が、目の前にいるセネルだというのか──……?


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