序章
人類存亡の危機にたたされている世界──スラヴ。
外には山のように人間や動物の死骸がつまれ、悪臭が漂っていた。
そのため、数少ない人間達は地下で生活することを余儀なくされていた。
「……出来た、出来たぞ……!」
一人の科学者──ロマーン・レインが声を上げた。
そのロマーンの視線の先には人間としか思えない少女の姿が。
ロマーンは急いで大きな機械の元へと駆け寄り、手当たり次第にスイッチを[OFF]から[ON]へとしていく。
すると、少女につながれていた何本ものコードが光り出し、少女に命を吹き込んでいるように見えた。
少しすると、冷たかった少女の体に体温が生まれ、重たい瞼があいた。
その様子を見て、思わず感嘆の息をもらすロマーン。──だが、どこか寂しそうに俯いている。
「──聞こえるかい?」
「はい」
おそるおそるロマーンがその少女──アンドロイドに声をかけてみる。
すると、感情がまるでこもっていない返事が返って来た。
「私のことが分かるかい?」
「私を作った設計者です」
静かにそういいながら、少女は寝たままだった体を静かに起こす。
微かに、金属と金属がこすれ合う音がしたが、普通の人間なら聞き取れないほど小さな音だ。
少女はアンドロイドとは思えないほど綺麗な肌、そして綺麗な髪を持っていた。
肌は恐ろしいほど白く、焦げ茶の腰までの髪を青いリボンで左右に止めている。
服装は茶色を主とした服で、半袖の茶色のシャツに、焦げ茶の短いスカートの格好だ。
肘から手首までを覆う、スカートと全く同系色の手袋のようなものもしている。
彼女の蒼い瞳が、設計者であり、創作者であるロマーンを見つめる。
その目に人間の生を感じさせる光は無い。
彼女の瞳を見て、ローランは少し寂しそうに彼女に笑いかけたが、彼女は首を傾げるだけ。
決して、笑おうとはしなかった。──否、笑うということが分からないのだ。
アンドロイドを作る技術は、今の世界では十分すぎるほどあった。
しかし、人間や動物──本当に生きている者だけが持つ『感情』は、どんな優秀な科学者でも作れなかった。
ロマーンは寂しい気持ちを振り払うように、大きく首を振る。
そして、彼女に向き合うと、今度は明るい表情で、希望に満ちた声で言った。
「お前の名前は──イヴだ!」