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第弍話 「これがJAPANで言うところのKENDO と言うものだ!」

超武神人機ブジンカイザー!の2話目です。とんでもないくらいの不定期更新となってしまいましたことをお詫び申し上げます。1年程度はこの調子で行くと思うのでよろしくお願いします。

第弍話 「これがJAPANで言うところのKENDO

と言うものだ!」


外で小鳥がさえずっている。それと同時に鮮やかな日光が顔を照り付ける。


ユウキ 「ふわぁ〜あ...」


ユウキはあくびをしながら体をゆっくりと起こす。まだ意識が鮮明ではないが体はとてもリラックスしていて心地よい。枕元にあった時計を確認すると9時18分。少し寝過ぎてしまったか。


ユウキ 「いやちょっと待て!?さっきまで夕方だったよな!?」


外を再び見ると太陽は東の空で燦々と光っている。どうやらやってしまったようだ。ユウキはその場で立ち尽くしてしまう。それと同時に意識はハッキリとしてくる。すると何やら生活感のある音が耳に入る。何かを焼き、電子レンジで加熱する音も聞こえる。


料理だろうか。寝室のドアを開けるとそこにはキッチンで料理をしている男の姿があった。短髪で白色の髪に髭を蓄えている。見たところ40代くらいだろうか。執事のようなキチっとしたスーツを着こなしている。


するとその男はこちらに気づいたのか声をかける。


? 「目が覚めたようですね。勇者様」


なかなかに声が低くダンディーな声だ。身震いしてしまいそうなほどである。


ユウキ 「おはよう、ございます」


朝ということもあり思わず言葉が詰まる。だがその男は不器用な笑顔を見せる。強面な顔から見せる不器用な笑顔に緊張がほぐれる。ブジンカイザーほどとんでもない野郎ではないようで一安心である。


ユウキは窓側にあるテーブルの椅子を引き、料理が来るのを座して待つ。すると手際良く次々と料理が運ばれてくる。朝から結構な量が運ばれてくるがなんとかなるだろう。


? 「これで全てです。残さずお食べください」


ユウキ 「あ、はい。ご丁寧にどうも」


ユウキはいただきますと合掌し、朝食を食べ始める。まずは主食のパンからだ。丸く表面は少し硬めである。だが口に運んでみると最初は硬いのだが噛み砕くと中は柔らかい。パンだけでも口の中が幸せである。だがコーンスープもある。人前ではあまりやりたくはないがやりたくなってしまうのが男のサガ。


パンをコーンスープにつけ、食べる。


ユウキ 「うんまぁ〜い!」


? 「喜んでいただけたようで何より。お食事の間に今日の日程をざっくりとお伝えします」


コーンスープにパンをつけていいのかは些か疑問だが知ったことではない。もはや人の目を気にせず次々と矢継ぎ早に食べる。


? 「今日は軍人の方々と訓練が約1時間後に始まります。私も同行しますが訓練は一緒に行わないのでお気をつけてください。そこからは午後4時まで30分休憩を小刻みに入れるのと1時間の昼休憩しかなのでお覚悟を」


ユウキ 「ああ、OK!にしてもこれ美味いなぁ!ずっと食えそうだ」


? 「それは何より。食べ終えたら食器はそのままにしておいて下さい。私が片付けますので」


ユウキ 「ありがとう!ございます!」


ユウキは流れるように食べ続け、ものの10数分で食べ切った。その時には訓練をすると言うことは頭から抜け落ちていた。


午前10時20分 駐屯地


ユウキはほんの少しだけ後悔していた。あの時、適当に返事してしまったことを。今からでも前言撤回してゆっくりと休みたいと。


ユウキ 「本当に来るなんて...」


? 「勇者様はまだまだ未熟。ここで心身共に鍛えていただきたいのです」


ユウキ 「...そういえばブジンカイザーがが俺と特訓って言ってたような...す、すみません!」


? 「なにか?」


男は静かに返答する。ユウキは恐る恐る男に問いかけた。


ユウキ 「ブジンカイザーって、来ますかね?」


すると意外にもいい返事が舞い降りた。


? 「来ません。彼は今頃壁の補修作業中で働いているはずです。終わるにしても後4時間はかかるかと」


昨日開けていた城の壁のことか。ユウキは昨日の事を思い出した。それと同時に思い出したくなかった記憶が瓦解したダムのように流れ出る。あの頭に響く声、頭の中にくっついて離れないあのセリフ。全てにおいて不快だ。


思い出すだけで吐き気がする。


? 「大丈夫ですか?」


青ざめた顔のユウキに男は思わず声をかける。


ユウキ 「ああいや、大丈夫です。ええと...そういえば名前聞いてなかったですね」


? 「ジェームズ・ミッシャーです。お好きなようにお呼びください」


ユウキ 「ジェームズさん。いやミッシャーさん?どっちが名字なんだっけ...」


ジェームズ 「お好きなようにお呼びください。それではまた」


そう言いジェームズはえらくクラシカルな渋い車に乗って去っていった。車種は詳しく無いので分からないが子供の頃に見たシャーロックホームズの乗っていたポルシェのようなものに似ている。


? 「おいガキ!突っ立ってないでこっちに来い!」


ぼおっとしているユウキに怒号が浴びせられる。声がした方向へ目をやるとえらく髪型をキメている茶髪のオールバックの男がいた。目つきはキリッと、と言うか睨みつけているようでなんだが落ち着かない。


? 「早く来いっての!」


動けずにいると腕をガシッと掴まれどこかへと連れていかれる。ユウキは手を引っ張られ連れて行かれると大きく開けた場所に出た。そこには戦艦が空に漂っていた。大きな大砲がいくつも備え付けられていて威圧感さえも感じる。まさかこれに乗り込むというのか。


心の準備がないまま次の瞬間、ユウキは空を飛んでいた。足元から風に押し上げられたのだ。


ユウキ 「何が起きて────!?」


そう叫ぶ暇もなくユウキは空へ向かって羽ばたいていた。体が空へ向かって


? 「魔法に決まってんだろ?ったく...今回の勇者は魔法すら知らないとはね...」


ユウキは船の甲板に吹き飛ばされ、なんとか着地することができた。戸惑っていると下から声が聞こえる。さっきの男の声だ。


? 「そこから動くんじゃないぞ!今から迎えに行くから!」


もはや逃げ場はないようだ。もうここに乗ってしまった以上ユウキにはどうすることもできない。


甲板で待っていると男は表情を変えずに複数の男を連れてユウキの元に現れた。


? 「時間がないから早めに説明するぞ。よく聞けよボウズ。お前は今日から俺達の部隊と共に生活をしてもらう」


ユウキ 「ちょ、ちょっと待ってくれ!じゃあ俺今日から軍人ってこと?」


? 「そういうことだ。早速だがこれから任務だ。ついてこい」


そう言いその男は手招きをし、戦艦の中に入って行った。ユウキは状況を飲み込む時間もないまま男達に着いていく。中に入りハンガーに着くとそこには恐らく男達のものであろう機体が置かれていた。


背中には翔ぶための翼型のバックパックが備え付けられており、外付けでミサイルが付けられている。額にはブレードアンテナがついておりどこか既視感がある。


? 「さて、早速だがユウキ。ブジンカイザーを呼べ。今すぐにだ」


ユウキの頭の中に「?」が浮かぶ。まさかブジンカイザーを呼べば来るスーパーヒーローなどとでも思っているのだろうか。ユウキは男の顔を見る。


さっきと変わらず目つきは鋭く、早くしろと言ってきそうな顔をしている。腹が立ちそうになったが、歯を食いしばり怒りをグッと堪える。だがユウキは今を生きる高校生。怒りを抑え切れるわけがなかった。


ユウキ 「できるわけないでしょう?そもそも俺はエスパーでもなんでありません!この場所にいないあいつをここに呼ぶなんて───」


? 「呼んだか少年?」


その瞬間、背筋が凍る。この声は、まさか。後ろを振り向くと金髪で眼帯をかけた和服の男が立っていた。


ユウキ 「あれ?ブジンカイザーじゃないのか?」


ただのイケメンか...そうほっとしたのも束の間。次の一言によって心の安寧が破られることとなる。


ブジンカイザー(?) 「おっと、この姿で会うのは初めてか少年。改めて自己紹介をしよう。私は君の相棒兼愛人のブジンカイザーである!」


初めて人の容姿を褒めて後悔したのは今日が初めてだった。


ユウキ 「お前人だったのかよ!じゃあどうやってロボットになってんだ!?」


? 「何が起きてんのかわからんが、ブジンカイザーが来たのであればそれでいい。今から任務を───」


男の話の間を縫うようにブジンカイザーが割って入る。


ブジンカイザー 「悪いが青年、少しだけ時間を貰おう。少年と少しばかり話をさせてもらう」


次の瞬間、ユウキはブジンカイザーと共にどこかにワープした。着いた瞬間、何故か無意識に正座をしていた。そして目の前にはブジンカイザーが座っていた。混乱しているユウキに間髪入れず、ブジンカイザーは問いを投げかける。


ブジンカイザー 「少年、君は剣道というものを知っているか?」


ユウキ 「いや...知りませんけど」


そういうとブジンカイザーは鼻をフッと鳴らし語り始めた。


ブジンカイザー 「少年。剣道とはその名の通り剣の道。弱き者を助け悪を裁く。それが剣道だ」


ユウキ 「は、はぁ...」


ブジンカイザー 「だが君はまだ正しい刀の持ち方も切り方も知らない。君は日本刀がどう言う原理で切れるか知っているか?」


ユウキ 「いや知らないけど」


ブジンカイザーは刀を抜き、ユウキの眼前まで刀を近づける。


ブジンカイザー 「刀は角度で切るものだ。これからの戦いはそれを覚えてほしい」


ブジンカイザーはそう言い刀を鞘に納める。そして眩い光が放たれたと思った次の瞬間、周りを見渡すとコクピットに座っていた。すると男の声がユウキの耳に入る。


? 「ボウズ。これから行われる任務の内容は敵武装人機の破壊、もしくは鹵獲だ。武装人機は例のアメーバによって操られているそうだ」


ユウキ 「本当にやるんですか!?あのアメーバにもし取り憑かれでもしたら...」


以前戦ったドラゴンであの苦しみようだ。もし人間に寄生したら...?そう考えるだけでもゾッとする。


コクピット内に映し出された作戦まであと10分程度だ。


いつまでも決心のつかないユウキに怒号が発せられた。


? 「今まともにアレに勝ってるのはお前だけだボウズ!今は黙って戦え!」


そう言われてもユウキは未だに心が落ち着かない。だがこの男はユウキに期待しているのだ。今はただひたすらに心を落ち着かせ、戦いに備えなければならない。勇者以外に頼れる人はいないのだから。


東ボーウィン城下町跡地


作戦決行時間となり、ユウキと男の部隊4名。そして他部隊の武装人機6機で出撃し、早10分。目の前には凄惨な風景が映し出されていた。


踏み潰されたような車や人の死体。倒壊し、穴が空いている家。ところどころにはつい最近戦ったのだろうか。武装人機が地面に倒れている。あまりにも惨すぎて見るに耐えない。


ユウキ 「一体ここで何があったんですか?え〜っと...」


クレヴ 「クレヴ・レイスだ。ここは以前、イリュノラ王国で1番賑わっていた城下町だったんだ。広場の真ん中には歴代勇者の銅像が建てられたりしてな」


ブジンカイザー 「だが平和だった街はたった傀儡に操られた武装人機によって意図も容易く崩壊した。たった1日でだ」


よく見て見ると建物は壊れてこそいるが年季を感じさせる建物は少ない。むしろ近代的な、モダンな家が多い。それらが何故か自分の居た日本に似ていて、胸が痛む。


ブジンカイザー 「少年。こんな事が今各地で起こっているんだ。止めなくちゃいけないと思うだろう?」


ユウキ 「そりゃそうだけど...そうじゃないんだよ...」


クレヴ 「ッ!来るぞ!」


ブジンカイザーにピンク色のビームが放たれた。突然の出来事に対応できずユウキはコックピットに直撃するがダメージはさほどない。


一般兵A 「すげぇ!コックピットにあたって無事なのかよ!」


一般兵B 「あの武装人機なら...あいつを倒せるかも知れない!」


クレヴ 「各機、散開!ブジンカイザー!ヤツを殺れるのはお前だけだ!俺達が囮になる。隙を見て叩け!」


次の瞬間、クレヴらの武装人機は背中のウイングを展開させ飛翔した。その速度は風を切りあっという間に武装人機に取り憑いた傀儡の上をとる。そして腰のビームライフルを構え、牽制する。


目論見通り傀儡はクレヴ達を見上げ、自身もビームライフルを放つ。この距離ならば届くまい。だがそんな考えは浅はかであったことをすぐに知る事となる。


ユウキ 「な!?」


直後、放たれたビームは武装人機を掠める。だがそのビームは予想だにしない火力で空を滑空していたはずの武装人機を地に落とした。


一般兵B 「うああ!?た、隊ちょ────」


そして傀儡はビームライフルを連射し、武装人機を意図も容易く撃破した。断末魔さえ許さない。


このままではみんなが死ぬ。この一瞬でみんながそう悟った。


そこからのユウキの判断は早かった。ユウキは叫び、ブジンソードを手に持ち傀儡に接近する。


ユウキ 「ブジン!ソーーードォ!」


傀儡の動きは鈍く重い。この速度で行けば倒せる。ユウキの振るった刃は傀儡のコックピットを捉える。だがその一撃がコックピットを破壊するには至らない。刀はいとも容易く壊れてしまった。


ユウキ 「硬い!?」


ユウキは声を上げる。


ブジンカイザー 「少年!一度距離をとるのだ!」


既に傀儡はビームライフルを撃つ動作に入っている。いくらブジンカイザーといえどこの距離であれば致命傷とは行かずとも損傷は避けられない。ユウキは急いで操縦桿を握り、後ろへ下がる。次の瞬間、ビームがブジンカイザーがに向けて放たれる。身を捩るように回避する。


なんとか頬を掠める程度に抑えることができた。しかし掠めた部分が熱によって少しだが溶けている。これが直撃であれば先の一般兵のようにゼリーになっていただろう。


クレヴ 「おいボウズ!何やってんの!」


ユウキ 「俺の武器じゃあいつの心臓を壊せないんだよ!何か武器は!?」


ユウキは一種の混乱状態に陥っていた。人1人があんなにも簡単に死んだ。


一般兵A 「相棒がやられた...あんな簡単に...もう死ぬしかないのか?」


部隊の雰囲気が一変して重苦しい雰囲気へと変わる。だがこの間にも傀儡の攻撃は止まない。一機、また一機と落とされていく。その一つ一つの断末魔がユウキの脳裏に錆のようにこびりつく。


何も解決策が出ないまま人の命が消えていく。


ユウキも攻撃を幾度も仕掛けるがまるでダメージにならない。


ユウキ 「このままじゃ...」


諦めかけたその時、ブジンカイザーの声が響き渡る。


ブジンカイザー 「諦めるには早いぞ少年!」


バカみたいに明るい声にユウキの神経は逆撫でられる。


ユウキ 「じゃあどうすればいいんだよ!このままじゃみんなが!」


ユウキは苛立ちをあらわにしてそう言った。


ブジンカイザー 「君に言っただろう。剣道の事をな!」


次に瞬間、腰の日本刀の鞘を構える。この機体には似合わない日本刀だが、何か凄まじい力を感じる。


ブジンカイザー 「私と思いを通わせるのだ少年。友情と愛が私達の力となるのだ!」


普段であれば否定したいが、今はそんな事を言えるような状況ではない。今自分が断ったらどうなるか。想像に難くない状況だ。


ユウキ 「分かった。戦う時だけはアンタに合わせる。だから力を貸してくれ!」


ブジンカイザー 「フッ...御意!」


次の瞬間、鞘に収められた刀に手をかける。そして相手がビームライフルを放つまで、じっくりと待つ。そして傀儡がビームを放ったのを見た瞬間、ブジンカイザーはスタートを切る。居合斬りのポーズのまま傀儡に接近する。


懐に潜り込み刀を抜く。


ブジンカイザー 「ブジン...一刀両断斬り!」


ブジンカイザーは刀を振り、納刀する。傀儡はコックピットごと上半身を上から真っ二つに切り裂かれ、地面に倒れた。地面には縦に切られた跡がくっきりと残っていた。


ブジンカイザー 「これが剣道というものだ!覚えておいておくといい」


クレヴ 「...本部。作戦は成功。艦に帰還する」


ユウキの目の前には真っ二つになった傀儡が横たわっていた。傷は全くないと言ってよく、刀で切ったとは思えないほど綺麗に真っ二つだ。元々そうであったかのように。


そしてユウキとクレヴ2人は艦に戻った。ハンガーに機体を止めると艦の中から歓声が響き渡った。だが素直に喜ぶことはできなかった。戻ってきたのはたったの2機だけだ。


もっと上手くやれたはずだ。自分が戦う意志が弱かったばかりに関係ない人間を死なせてしまった。ユウキの心には申し訳なさが残っていた。


中々コックピットから出れずにいるユウキ。そんな中、クレヴから通信が入る。応答するとなんともいえない顔をしたクレヴがコックピットに映った。


クレヴ 「まあ...なんだ。初めてにしてはよくやれた方だと思うぞ。とりあえず今までやられた仲間達の仇を取ってくれたことに感謝する」


そう言いクレヴは通信を切断し、コックピットから出て行った。クレヴは大勢いる人だかりを押し除け、ハンガーから去って行った。ほんの少しだけ、胸に張り付いて取れなかった重いものが降りたような気がした。


ユウキ 「...でもあの断末魔は忘れられないな」


コックピットから顔を出すと声の弾幕がユウキに襲いかかった。感謝を叫ぶ人達を尻目に、ユウキはそそくさとハンガーから飛び出して行った。後ろからは止めようとする声も聞こえてきたが、何も聞こえていないようにその場から離れた。


ユウキ 「はぁ...もう嫌になって来たな。こんなに重い使命があるなんて...」


さっきクレヴが通った道を歩きながらユウキは呟いた。曲がり角を曲がると奥の部屋に入るクレヴの姿が見えた。ユウキは進む足を早めてクレヴの後を追う。そして部屋の目の前に辿り着き扉が開く。すると中には多くの人が集まっていた。


アニメなどで見たことがあるような操縦桿やモニターがあり、中央には艦長が座る席が置いてある。


クレヴ 「ちょうど来ましたし始めるとしますか、艦長」


艦長 「うむ。始めようか」


いったい何が始まるというのか。ユウキにとってさっぱりだったが、厳粛な雰囲気であることだけは理解できる。


クレヴ 「ユウキ。お前がこれから兵士として戦うわけだが、正直に言うぞ。お前は一兵士としては弱い。今のお前はブジンカイザーに乗っていなければ力のないただの一般人以下だ」


実際にその通りだ。ユウキにはまだ覚悟も力もない。何故自分が勇者になってしまったのか。ますます自分が嫌いになりそうだ。


クレヴ 「そこで、明日からお前だけの訓練内容でやってもらうことに決めた。一刻を争う事態だからな」


ユウキ 「分かりました。けど俺はブジンカイザーに乗らないとダメなんですか?」


正直、あれに乗りたくはない。さっきクレヴが言ったようにブジンカイザーに乗らなければ戦えない。だがまた人が死ぬところを間近で見たくはない。


クレヴの顔がみるみるうちに歪んでいく。言わなければよかったと猛烈に後悔した瞬間である。とてつもないくらい大きいため息を吐いたと思った瞬間、何かを投げ渡された。


それはiPadのような電子機器で画面には何かの数字が映し出されている。それを見たユウキはこの数字がなんなのか即座に理解してしまった。一応、この数字がなんなのか問いかける。


クレヴ 「それはこの1週間で傀儡によって殺された人間の数だ。無論、今こうして話している間も増えているだろうがな」


やはり想定通りの返事だ。改めて聞くとより背筋が凍るような感覚に襲われた。もしこのまま戦うことに躊躇したら...いったいどれほどの人が死んでしまうのだろうか。


傀儡に踏み潰され、ぐちゃぐちゃにされ、焼かれて─────。想像するだけでも吐き気がする。もはや道はない。戦わない選択肢を取ることはユウキにはできない。


今までの人生で本気で何かをやったことはなかった。勉強も運動も本気でやっているふりをしていた。自分のすべきことも分からず、自分しか出来ないことも無かった。だが今、目の前に自分にしかできないことがある。今なら、本当の自分として生きていけるような気がす。


クレヴ 「さあ、どうする?やるか、やらないか」


答えはもう決まっている。


ユウキ 「やるしかないでしょう。俺にしかできないんだ。絶対、勝って見せますよ!」


そう言ったユウキを見てクレヴはほっと息を吐いた。そして歯を見せ、クレヴは次にこう言った。


クレヴ 「じゃあ明日からお前は新クレヴ隊1人目の隊員として訓練開始だ!まずは食トレからだ。今から飯いくぞ!」


そう言いクレヴは高笑いを上げ、首根っこをユウキの顔が青くなるほど強く掴み、文字通りどこかへ飛んで行った。


「こんなキャラだったっけ?」と疑問を抱きたくなったが強烈な力によりそんな事を考える暇すら無かった。


艦長 「ユウキと言ったか...果たして希望となるか、あるいは...」




とある居酒屋にて、ユウキはとてつもない量の飯を食わされていた。肉、野菜、果物、ありとあらゆるものを食わされ腹はパンパンである。まだ店に来て開始30分である。


クレヴも同じほどの量を食べているはずだが、その手にある箸の動きが止まる気配はない。食べても食べても目の前に鎮座している標的が減る気配はない。これまでに出会った物の中で1番の強敵であるかのようにすら思える。


? 「随分と食べてらっしゃいますねぇ。クレヴはん」


クレヴ 「そのうるさいエセ京都弁の声は...ハバナか」


横を見ると糸目で長髪の人が笑みを浮かべながら立っていた。


ユウキ 「ハバナ?仲間なんですか?」


次々に口へと食べ物を注ぎ込みながらそう言うとクレヴは嫌味ったらしくこう答えた。


クレヴ 「ああそうだ。この国で1番頼りになる男だ」


そう言いクレヴは鋭い目つきでハバナを見る。


ハバナ 「嬉しい事言ってくれはるんやなぁクレヴはん」


当の本人は聞こえてないような素振りをしてユウキの隣に座った。ハバナを横目で見るとずっとニコニコしていて気味が悪い。腹もパンパンだと言うのに勘弁してほしいものだ。


助けを求めるようにユウキはクレヴに視線を送る。クレヴも同じ気持ちなようで、近くに居た店員を呼び、勘定を済ませハバナを押し除けユウキと共に店を出て行った。


ハバナ 「はぁ...ご一緒にご飯でもと思っただけやったんやけどなぁ...残念やわ」


ハバナはため息を吐き、肩を落とした。


店を後にしたユウキはクレヴと別れ、朝の記憶を頼りに帰路を辿っていた。日が暮れれば暮れるほど見たことのない景色が広がる。だがユウキはこの道であっているかのように道の真ん中を歩く。


「泣けば誰か拾ってくれるかな...」なんて思い始めた頃、雲の群れの中を突っ切り、ブジンカイザーが目の前に降り立った。


ブジンカイザー 「少年!こっちではないぞ!迷子か?」


ユウキ 「なんか全部似たような家ばっかで全然帰り道分からん!」


周りからの冷たい視線が背中に刺さるが気にしている場合ではない。今は帰ることが最優先だ。


ユウキ 「あの城まで飛んでいってくれないか?行き方が分かんないんだ」


ブジンカイザー 「もちろん...と言いたいところだが...クッ...!」


突然、ブジンカイザーが苦しみ始めた。いよいよ背中に流れる冷や汗の量がギネスレベルを超越しそうだ。ブジンカイザーはいまだに身をよじり悶えている。


次の瞬間、マヌケなボンっという音を立てて煙に包まれる。目と鼻を服の袖で覆い、煙が霧散するまで待つ。


? 「クッ...この程度しか体を保っていられないとは...」


? 「そりゃ1日中ブジンカイザーのままだったらムリに決まってんだろボケ!」


? 「私としては合体中は暑苦しくて勘弁だな」


? 「ちょ、ちょっとみんな...」


中からはそれぞれあの眼帯の金髪と知らない人がゾロゾロと這い出てくるように出て来た。ユウキの頭の中はもう一杯一杯で目の前の状況を飲み込めない。


ユウキは助けを求めるようにブジンカイザーに目線を送る。だが当の本人は頭を掻いて困ったような顔をしている。


ユウキ 「なんでなんも言わないんだよ!もう訳わかんねえ!」


ユウキは赤子のように腕や足を振り回して叫ぶ。その時、今までギリギリで繋がっていた何かがぷつりと切れたようにユウキは後に倒れた。目の前が歪み、立っていられない。


「ああ、これが疲労による気絶ってやつか」目の前が真っ暗になり、倒れながらそう思った。そしてそれは何故か適温の風呂に入る時のように心地よかった。周りから声をかけられているがもはや気にしない。気にかけられるほどの思考力はもうないのだ。


今日はもうこれでいい。あとは明日の自分に任せるとしよう。そしてユウキの思考回路はついに機能を停止した。


次回予告


ブジンカイザー 「うーむ。少年が倒れたとは...実に心配だ!!」


クレヴ 「あのな...なんで俺とあんたがここに?」


ブジンカイザー 「む?少年がいないからな!次は少年をより鍛えるとしようか」


クレヴ 「今日で鍛えたって感じはしないが...まあ実際鍛えないとまずいのは確かだな」


ブジンカイザー 「フッ...そうだろう。次回!俺が強くなる!」


クレヴ 「はぁ...こいつうるさいな」


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