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第4話 地味系JKを襲った悲劇

私、滋味美緒(じみみお)は今、自分でも信じられないほどの充実した素敵な毎日を送っていた!


電車内のちょっとしたトラブルがきっかけで知り合った「彼」と毎朝、互いの通学時間に合わせて電車で会うようになったからだ。

会うといっても電車を降りるまでのわずかな間、とりとめのない会話を重ねるだけの関係だったが。

でも中学校から女子だけの環境で過ごしている私にとっては、すべてが新鮮で男子との会話そのものが、ときめきの連続だったのかもしれない。


「滋味さん、なんでそんなに嬉しそうな顔をしているの?」

不思議そうに私を見つめる彼。

「え?だって喋っているだけで楽しくならない?」

「まあ、そうかも、ね」


彼は有名進学校に通う同い年の16歳。

同じように中学から男子だけの環境で人とコミュニケーションをとるのも苦手な様子。

だから会話もなんだか、いつもぎこちない。

案外似たもの同士?の私たちなのかもしれない。

でもそんな関係が私にとっては、なんとも居心地が良かった。


「ふふ…」

「滋味さん、どうしたの?」

「なんかさ、こんな感じの毎日がずーっと続くといいな、って思わない」

彼の目を覗き込むように話しかける私。

赤くなって目を背ける彼。


だけど様子がいつもと少し違っていた。

「どうしたの?」

「いや実はさ…僕、来月引っ越すことになったんだ」

「え?なんで?」

彼が私と同じ駅に引っ越して来たのは確か今年の春先だった。

あまりに急ではないか?

「家の工事が思ったより早く終わって、戻れることになってね…」


彼が前に住んでいた家…父方の実家で、祖父母の他界によって空いたスペースを活用するため、大規模なリフォーム工事をしていたらしい。

その間、一時的に彼の家が私の近所の賃貸マンションになっていたようだ。

「なかなか言い出せなくてゴメン…」

「ううん、せっかく知り合えたのに…」


彼の引っ越し先は、ここからはだいぶ離れた違う路線の駅だった。

もうこれで会うことが出来なくなるのか?

私は輝いていて見えた風景が一瞬にして崩れ、暗闇に落とし込まれた気分だった。


暗く沈んだ表情で無言になってしまった私に慌てる様子の彼。

「だから…その、いろいろ落ち着いたあたりで滋味さんに時間、作って欲しいんだけど、どう?」

え?どういうこと…

「つまりその…デート??するってこと?」

「まあ、そういうこと、になるの…かな?」

顔を赤らめながら、視線をそらして答える彼。


暗闇の中から、再びまぶしい空間に放り込まれたような気分になる私。

私、初めてデートに誘われたんだ!

「わかった!私はいつでも大丈夫だから場所と時間、決めようよ!」

「う、うん」

二人して手帳を取り出し、予定を書き込んでいく。


会うのは来月二週目の日曜日、場所は新宿駅西口地下の交番前に朝10時とすぐに決まった。

「じゃあ、楽しみにしているね!」

別れ際、満面の笑みを浮かべて彼に手を振る私。

照れくさそうに微笑んで立ち去る彼。

私は自分がまるで青春ドラマの主人公にでも、なった気分だった。


私にとって人生初のデート。

今まで以上に私の周りだけ、光り輝いているように思えた。

なんて素敵なのだろう!

浮かれる私は授業中も部活中も、彼とのデートの事で頭がいっぱいになっていた。


結果、失敗の連続で授業では先生に集中力がないと叱られ、部活では叱られた上にペナルティーとしてグランドでのランニングを追加させられた。

でもランニング中、私はデートでどんな服装にしようか?告白されたらどうしようか?と妄想ばかりをしていた。

ああ、本当に私って幸せだ…


そう感じていた瞬間だった。

突然、身体に違和感を感じた私は、その場に倒れこんだ。

あれ、どうしたんだろう?

身体が全く動かない…

どんどん意識が遠退いていく。


と同時に私は自分の身体が地上から浮き上がっていくのを感じた。

これって私の意識体?

なぜかって?

だって私の視線の先にはグランドで倒れ込んだ私の身体に駆け寄り介抱する部活の仲間や先生たちの姿が見えたからだ…

私は空の上からぼんやりと、私の身体を中心にした地上の騒ぎを見下ろしている。

これって一体何なの?


「まあ残念ながら、ご臨終ということです」

突然、私の耳元で怪しげな声が聞こえた。

驚いて、そちらを見ると初老のスーツを着た紳士風?の男が立っていた。

…正確には私の横に浮かんでいた。

「誰?」

「あなたを死後の世界にご案内するために参りました」

え?つまりは死神?


私は混乱した。

「私…死んじゃったの?なんで??」

「まあ寿命といいますか…でも最期は毎日がとても充実されていたみたいで良かったです…」

「そんなこと聞いてない!私、病気もしていないし、まだ16歳よ」

「心室細動って、ご存じですか?今、あなたの身体に起こっている症状で、まあ不整脈の一種ですが、どんなに若くて健康な方でも突然として死が訪れる原因になっていまして…」


初老の男が私に淡々と残酷な事実を事務的に伝える。

先生たちが懸命に私の身体に心臓マッサージとかを行っている。

まだ助かる望みがあるのではないだろうか?


「あ、もうあなたは死ぬ運命ですので、助かりませんよ…さあ、死後の手続きを始めますので、こちらへどうぞ」

初老の男が手を差し伸べる。

その手を払いのける私。


「いやよ!私、半月後に彼とのデートの約束があるの…今、死ぬわけにはいかない!」

「そう仰られても死は既に決まっているのです。このまま、あなたが運命に従って死後の世界に旅立って貰わないと、いろいろと不都合が生じるのですよ…」

「どんな不都合よ?」

「まあ、ちょっとした手違いがありまして…おっ、もう時間がない」

そういうと初老の男は右手を地上の私の身体にかざした。


「ちょっと、私の身体に何をするの?」

「まあまあ、説明は追い追い…」

男の右手から大きなまばゆい光が出たかと思うと、その光がゆっくりと私の身体に降りていく。

やがてその光は人の形に姿を変えていった。

「なんとか間に合ったな…」

男がそう呟くと、右手を静かに下す。

同時に人形の光から人の姿が現れようとしていた。


「あの人は誰?」

「こちらの手違いで予定より早く亡くなってしまった方に、しばらくの間、あなたの身体を使わせて頂くことになりましたので…」

この男、一体何を言っているのだ?


あまりの身勝手な言い分に私は腹を立て、男の肩を掴んだ。

「そんなこと勝手に決めないでよ!」

「あ、ちょっとやめてください!」

少し揺らいだ人の姿がより鮮明になって、中年らしき男の姿に変わった。

「なんで私の身体にあんなオッサンが入るのよ!ふざけているの!?」


私は自分の身体がなにか汚されているように感じて、男の肩をさらに揺すった。

「だから、乱暴は…」

そうやっているうちに、私の身体に中年男の魂?が溶け込んでしまった。

「ああ!やめてっ!!」

私は鳴き声に近い悲鳴を上げた。


「お、呼吸が戻った!滋味、頑張れ!!もうすぐ救急車がくるぞ!」

地上では先生たちがホッとした様子で、駆け付けた救急隊員に私の身体を引き渡した。

「ちょっと待って!それは私じゃない!!」


「まあ中身は違っても、身体だけはしばらくは生きて行けるから、良かったじゃないですか…さ、あなたは死後の世界に急ぎましょう」

追いかけようとする私の腕を掴んで引き留める初老の男。


こんなの理不尽すぎる…このままデートが出来ずに成仏なんて絶対するものか、と私は男に訴え続ける。

「そうは言われましても、現世に強い思いを残したまま止まり続けると、あなたの魂は悪霊に変わってしまいますよ」

「悪霊に変わってもいいから、彼とデートがしたい!」

「そんな無茶な…」

「私の代わりにオッサンの魂を入れる方が、よっぽど無茶でしょ!」

「それは、そうですが…」


私はハッと気付いた。

あの中年男が私に代わって今まで通りの生活を営むことなんて出来るのだろうか?

中年男と面識などはないが、それは向こうも同じだ。

どうやってあの男が性別も変わり見ず知らずの女子高生として怪しまれずに振舞っていけるのだろうか?


「ねえ、もしあのオッサンが私の偽物って周りに気づかれたらどうなるの?」

「もしそうなったら、そのまま寿命が来るまで眠り続けて貰うことにしますよ。まあ世間でいうところの脳死っていう扱いで終わりです」

ずいぶん事務的でひどい話だ。


「本当にそれでいいの?家族にはもし私が事故で脳死状態になったら延命治療をしないようにお願いしていたのよ」

「え?」

「このままだと寿命を全うする前にまた死んじゃうね。それって、あなたが手違いを繰り返すことになるけど、大丈夫なの?」

もちろんそれは今、私が思いついたデマカセだったが、男の表情からは明らかな焦りを見て取れた。


「それは確かに…マズいことになりますね」

「でしょ?だったら、あのオッサンのボロが出ないように私もしばらくの間、この世に留まれるようにした方がいいんじゃないかな?」

「それは、まあ…異例のことなので引継ぎも念入りにして貰えれば、助かりますが…」


そう言っているうちに眼下では病院で目を覚ました中年男が私の身体に戸惑っている様子が見えた。

「それではこうしましょう、あなたがデートの目的を果たすまでの間、一時的にあなたが自分の身体に戻れる力をお付けすることを約束しましょう」

やった!私は心の中でガッツポーズをした。

とりあえずはデートさえ出来れば私は満足だった。

そのあとのことは、また考えよう…


「くれぐれもバレないように上手くやってくださいよ。あと、あくまでもあの身体の今の持ち主は、あの中年男です。生きている側の霊体の方が強いことをくれぐれもお忘れなく…うまく話し合って分担してください!」

そういうと初老の男は再び右手を上げ、私の方に向けた。

その手から眩しい光が出ると同時に私は意識を失った。


次に私が気付いた時、中年男が病院のシャワールームで鏡に向かって私の身体を凝視していた。

私はその姿に強い嫌悪感を抱き、同時に怒りが沸いてきた。

そんな真剣な目つきで私の裸なんて見ないでよ!

そう思って私は中年男に向かって鏡から怒鳴りつけてしまった。


「あ、あなたは私の身体で何をするつもりなんですか?」

中年男は、驚いて腰を抜かしたように倒れ込んだ。

「バ…バケモノォ!!」

しまった、うまく口裏を合わせて行動できるように仲良く話し合いをしなければならないのに、とんでもないファーストコンタクトになってしまった…

しかし同時に、人の身体を乗っ取るような奴にバケモノ呼ばわりされるなんて酷いなぁとも思うのだった。

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