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第30話 未来に向けて(最終話)

兼満家の家族会議は、ほぼ俺の思惑通りに幕を閉じた。

元兼満トオル(46)だった俺にとっては、前世の30年後では、割と残念な結果になっていた兼満家が、現世では、幾分かマシになって貰えることを今は望むだけだ。


それよりも現世で俺が転生した滋味美緒(16)が、今後、兼満トオル君(16)と、どのような人生を歩んでいくのだろうか…もしかして、時空監察官のエルさんなら知っている?

『残念ですが、その件にはお答えできませんので、ご自身で判断し、自らの考えで人生を切り拓いてください…』

エルさんは相変わらず堅いなぁ。


『はーーい…でもそう言われた方が、俺は気が楽だよ』

まあ、ある程度、想定された決められた道を歩まされるよりも、自分の考えで思い切った未来を切り拓いた方がいいに決まっている、少なくとも俺にとっては。


だが、元人格の美緒の方はどうなのだろう?

『わ…私?…うーん、まだ将来のことなんて全然考えていないよ、とりあえずは、トオル君と同じ道を歩み続けられたらいいかな…くらいだよ』

トオル君と同じ大学を目指せることになったから、すっかり有頂天だな…

『まあポンコツ女子高生らしい考えだよな…』

『何がポンコツですかっ!』


だが今後も、美緒の身体の中で、俺と美緒の人格が同居し続けることは出来るのだろうか?

美緒は、エルさんからは悪魔退治に協力して貰えるなら、特に期限を設けていないとは言われたみたいだが…だが今に俺たちって本当に悪魔退治に協力出来ているのか?

『少なくとも前回"兼満家の呪い"を解いてくれたお陰で、あの家に取り憑いた悪い"気"は消えましたよ』

エルさんの考えでは地味に一歩は前進しているという事か。

『でも、偽審問官そのものを追い詰めるのは、まだまだ先になりそうだよね…』

そもそも、あの審問官はどこに消えてしまったのだろうか?

『ああ…悪魔は、私が作っている結界に入って来られないだけで、それ以外での活動は継続していますよ』

『たとえば…?』

『お見せしましょうか?』


エルさんの声と共に急に頭の中に突然、映像イメージが浮かんできた。

『うわっ、なんだこれ?』

『直近で美ヶ原陽子さんに接触した悪魔の様子です』

そこは占い師に扮した偽審問官に詰め寄る陽子の姿があった。


「何よ、全然、うまくいかなかったじゃないですか!このインチキ占い師」

「すみません、いろいろ想定外の邪魔が入ってしまって…」

陽子としては偽審問官が扮した占い師の口車に乗った挙句、美緒をモノにし損なったことで、かなり恥をかいたからなぁ…


『こんな映像をいきなり頭の中に出されてもなぁ…』

『まあ、車の運転中や他の誰かと会話をしている時には出さないので、大丈夫です』

そうか、マナーモードみたいにして貰えるのか…


「お詫びに今日は、あなたの将来の進路について、無料で相談に乗りますよ?」

「え?…もう私は早智大学に行くつもりで、エリさんの方にいろいろと相談に乗って貰っているんですけど…」

確か、そんな話を北海道でしていたよな、二人で…まあ、これで陽子がエリに引っ張られて早智大に行けば今後、関わらずに済むので俺は有難いが…


「なるほど…でも、あなたが本当に興味があるのはサークル活動の方…ですよね?」

「当たらない割には全てお見通しなんですね…早智大の鉄道研究会に入って活動するのが今の私の夢なんです!」

うむ…陽子にとっては大切なのは、学問のために大学を選ぶのではなく、趣味=サークル活動のために大学を選ぶことなんだよな…まあ、陽子は勉強が出来るから、大学はどこでも良いのか…


「でも、早智大って男子学生の方が多いですし、鉄道研究会なら…なおさらですよね?まさか大学でも男装されて活動するのですか??」

「う…でも、それはこの趣味をやる上で覚悟してきたし…そもそも女子学生が普通に"濃ゆい"活動できる鉄道研究会がある大学なんてないですから…」

まあ、30年後では普通に女性の鉄道マニアはいるが、まだまだ今世紀では希少な存在だったからな。

「あれ?ご存じないんですか??昭和の時代から普通に女子学生が"濃ゆい"活動をしている大学が一つだけありますよ?」

「え?それは、どこですか??」

「修学院大学ですよ…」

なるほど…占い師は既にトオル君の進学先が変わったことを掴んでいるのか…


「そうだ…ちょうど、知り合いから貰った、この大学の鉄道研究会の会誌があるので見ますか?」

占い師に渡された雑誌を手に取る陽子の顔色が変わった。

「"鈍行電車"…って…あ!前に父の書斎で見ました…これって修学院の鉄研が出していたんですね!」

夢中で雑誌のページをめくる陽子。

「そうそう、あと修学院の鉄道研究会って私の占いでは、あと数年で女性初の貨物列車運転士になるOGが出るはずですよ…」

「え?じゃあ私が修学院大学に入ったらその人とも知り合えることになるんですね…」

「ええ、そこは間違いなく…」

「わかりました!ウチにも指定校推薦が来ていたハズなので…今度、先生に確認してみますね!」

なるほど、悪魔たちの次の企てが見えてきた…


嬉しそうに走り去る姿を見送る占い師が、そのまま悪魔の出で立ちに変わると、こちらを睨み付けた。

「ククク、このままで済むと思うなよ!神の使いども!」

何か手から光のようなものが出ると、そのまま映像が途切れた…


『とまあ、偵察に出した精霊がここでヤラレちゃいましてね…』

部下が殺られても明るく話すエルさん…なんだか怖いです…

『…つまり陽子さんは、またしても悪魔の使いとして、私たちが行こうとしている大学まで付いて来る…という事でしょうか?』

『あれ、美緒も一緒に見えていたの??』

『お二人共通の懸念事項だと思いましたので、共有しておきました』

『まあ、私は陽子さんならもう大丈夫だと、信じたいけどな』

まあ陽子のことだ、今更、美緒を手籠めにしたいとも思わないだろうが、悪魔たちと繋がりを持ったままなのは厄介だ。

恐らく俺たちの目の前で、偽審問官は陽子を使って何か悪だくみをするつもりなのだろう。


『美ヶ原陽子さんに関しては、今時点で脅威にはならないと思いますが、近いうちに南波エリさんの身に降りかかる災厄の方は力になってやってくだい』

『え?なんだってエリのためなんかに…』

敵方の一味であるはずのエリをなぜ、エルさんは助けろなんて言うのだろうか?

『それはたぶん、あなたが真相を知れば、エリさんを助けずにはいられなくなるハズかと思います…まあ、その件は近々に』

何だか意味深なことを言うな…でもあまり深堀な話になると俺が30年後の兼満トオルということが美緒にバレてしまうので、それは避けねば…


突然、部屋がノックされる。

「おーーい美緒、今、いいか?」

美緒の父親の声だ。

「お父さん、なに?」

とりあえず、元の美緒の方が対応する。

「この間の株の件だけど…」

「株??」

『あ、それ、俺の方だ』

慌てて、美緒と入れ替わると、ドアを開ける俺。


「美緒の言うとおりだった!亜細亜電気株、一気に来たよ!!」

封筒を手渡す父親。

チラ見すると、1万円札の束がずっしりと。

「次も期待しているね、美緒」

ニコニコしながら立ち去る父親。


『ちょっと、おじさま、お父さんを使って何をしたの??』

『いやあ、ちょっとした、ビジネスを…ね』

この時代、高校生の出来る金稼ぎは限られている。

大学進学までの1年半以上、じっと待つのもバカバカしい。

一方で、ネットでの株取引が本格化するのは、まだまだ先だ。

そこで、かつての俺のスキルを活かしたプログラミングでひと山当てようと考えたが、そもそも滋味家にまともなパソコンと呼べるものは無かった…


そこで俺は、美緒の父親が、母親に内緒で株をやっていることに目を付けた。

ここ数年で活気の出る会社が俺にはわかっていた、つまりは捕まらない、究極のインサイダー取り引きが出来る訳だ…もっともインサイダー規制が始まるのは、まだ15年以上先だが。

父親になるべく小口で目立たぬようにして、上がる予定の株を買わせ、税引き後の売却益のうち3割を貰うことで話がついた。

ちょっと時間はかかるが、あまり目立っても仕方ないし、少しずつお金を貯めて、高性能なパソコンさえ手に入れば次は、いろいろなアプリケーションソフトをプログラミングして売ればいい。

この時代のWindowsは3.1で、パソコンそのものが、まだ十分な普及さえしていない。

個人レベルでも、アイデア次第で十分な商売になったのだ。


『おじさま、さすがは元青年実業家だから、株で儲けるなんて訳ないと思うけど、あまり、お父さんに余計なお金を持たせないでよね…』

『別に美緒の父さんなら、有り金は全部、車につぎ込むだけだから、心配ないだろ?』

『だから!…それが心配なのよ…ところでおじさまの方は、お金を稼いで何するつもりなの?』

『そうだな、とりあえずはパソコンを手に入れたら、転生前の俺の知識を活かしてプログラミングで細々と商売を始めようと思う』

『へー、おじさまもトオル君と同じようにプログラミングが得意なんだね!』

まあ、同一人物だからな…

『でも、そうやって、おじさまが稼いでくれたら、私の方は、なにもしないで遊んで暮らせる、ってことなのかな?』

『美緒はすぐに楽して暮らそうと考えるよな…まあ、俺がいるうちは、それでも良いが…』


そうなのだ、監察官のエルさんは、一つの身体に二つの人格が入っている、この状況は決して好ましくはないと考えている。

あくまでも、偽審問官の悪魔一味の企みを一掃するまで、お目こぼしというだけなのだ。

だが仮に悪魔一味を一掃出来た後は、どうなる?

もし一人しか、この身体に残れないとなった時に備え、俺は残された元の人格の美緒と30年前の俺でもあるトオル君たちが、真っ直ぐ、自分たちの好きなように生きて貰うための基盤は残しておきたい。

そのためには必要最低限のお金と可能であれば、その維持装置となる小さな会社程度はあった方がいいに決まっている。


『あれ…急に黙ってしまったみたいだけど、どうした、美緒??』

『私は…イヤだよ…おじさまがいなくなるなんて…せっかく私、必死にこの世界に戻って来たんだから』

『今すぐ、そうなる訳じゃない…でも、そもそも俺の方が歳上だし、魂にも寿命があるなら、順番どおりがいいかな、って思っているだけだよ』

『本当に?…本当に約束してよね、おじさま…急に私に黙っていなくならないって…』

『ああ、だからさ、この話はもう止めておこう…あくまでも今の優先順位は悪魔一味の打倒だからな』

『うん…わかってるよ』


俺は何となく、偽審問官ら悪魔一味との戦いがこの先もずっと続いて、このままでいるのもアリかな?とも一瞬、考えてしまっていた。

だが一方で、前世で俺があのような最低人間になった挙句に惨めな最期を遂げたのが、本当に奴ら悪魔一味の仕業なら、一矢報いたい気持ちの方が上回っていた。

だから今は…次なる作戦?を考えていかなければならないな。


「美緒ぉ~!兼満君たちがお見えになったわよぉ~~!!」

1階から、母親の元気な声が聞こえてくる。

「うん今、行く!」

そう返事をして、俺も元気に階段を下りていく。


応接間ではトオル君、サトル、ナナミが待っていた。

「美緒さん、早速、今日から勉強会…って?…僕らの入試は再来年だから、サトルたちのための勉強会…ってことでいいの?」

「まあトオル君にとっては、そもそも受験勉強すら必要ないのかもしれないから、違う勉強をやってみてもいいかな、と思って…で、サトル君と七海さんは、受験勉強の息抜きついでの時々でいいから参加してみて貰えたら…て思っている、どちらかというと、"いい大人になるための勉強会"」

「えー!?でも何を勉強するんですか?」

ナナミも興味津々で聞いて来る。


「まず、最初に言っておくね…受験勉強なんて将来、社会に出たらほとんど役立たない知識の詰め込みでしかないけれど、まあまずはそこを突破してから、その後に役立つことを先に学んで貰おうかな、って思って…で、さっそく今日はこのテーマから…」


俺は、事前に家のワープロ機で打ち出したプリントをみんなに配る。

「え?なにこれ、"お金儲けの方法を考えよう!"って??」

サトルが首を捻る。

『ちょっと、おじさま…なんか内容が生々しいんですけど…』

俺の中の美緒もやや不満気だ。

まあ、さっきの父親とのやり取りを見た後だと余計にそう感じるよな。


でも結局のところ、お金を儲けるのは悪いことだ、などという綺麗ごとが今も昔も、まかり通っているのが学校教育という奴だ。

そのまま社会に放り込まれて、社畜として金の儲け方も知らずに安い給料で、ただ便利にこき使われるだけの人間は増やしたくない。


「お金儲けって、決して悪いことじゃなくて、生きるために必要なスキルなんだ…それを私に教えてくれた史上最低のナンパ師と呼ばれていた、青年実業家の人の話をこれからするね…」


『それって、まんま、おじさまの自慢話ですよね…』

呆れたように美緒が俺の中で呟く。

『まあ、いいじゃないか、俺の取り柄なんて今のところ、金儲けくらいしかないんだからな』


さて、この時間軸での俺の本格的な悪魔退治の第一歩がいよいよ始まる…


【パート2に続く?】

今まで、お読みいただいた皆さん、本当にありがとうございました!

ここで一旦、連載を終了したいと思います。


書き続けていたら、当初、考えた以上に話が膨らんできてしまい、少し時間をかけて、もう少ししっかり作り込んでから、また連載再開が出来ればと考えています。

その時をお楽しみに!

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