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第3話 地味系JKの初恋

私、滋味美緒(じみみお)は16歳の高校生。

まあまあのレベルの私立進学校に中学校から通っている。

子どもの頃から親に言われるまま、地道に勉強と部活に励んで己を律していた。

そうすれば自ずと未来が拓けてくるものと信じて生きてきた。


でもアルバイトすら許されず日々、家と学校の往復のみという平凡な毎日を繰り返す中、同級生たちのまるで別世界での出来事のような会話が次々と耳に入り、果たしてこのまま地味で平凡な生活を送り続ける私は大丈夫なのか?

そう感じるようになっていった。


運命的な出会いがしたい!

でも出会いなんて私の身近には無い。

私の通う学校は中学から女子生徒しか存在しない、典型的な女子校だった。

同級生たちはバイト先や予備校などできっかけを作って恋愛相手を器用に見つけている。


一方の私は図書館で読むラノベ小説を自分事に置き換え、頭の中で妄想する日々を送るしかなかった。

次に進学する大学こそは男子もいる共学の大学を目指そう、それまでは我慢!

自分にそう言い聞かせ、私は勉強と部活以外のことは諦めようとしていた。

していたのだったが…


ある雨の日のことだ。

その日、早めに部活を上がった私は発車間際の電車に乗る際、慌てていて傘の先端をドアに挟みこんでしまった。

いつもなら、すぐに閉めなおすためにドアが開くのだが、なぜかこの日、そのまま電車は発車。

「あれ?」

きっと傘の先端が細かったせいなのか?

ドアが障害物と感知せず、発車は動き出した。


仕方ない、次の停車駅まで我慢して待とう…そう思った私は次の瞬間、恐ろしいことに気付いた…

この電車って特急…つまり、このドアが次に開くのは終点の駅まで…ない。

それは私が降りる駅よりもはるかに先だった。


慌てて傘をドアから引き抜こうとしたが、いくら引っぱっても抜けない!!

必死の形相で傘を引っ張るが完全にドアに喰い付かれビクともしなかった。

「確かにこれはビクともしないな」

「え?」

私のすぐ隣にいた男子高校生もいつの間にか一緒になって傘を引っ張り始めていた。

「もう少し頑張ろう!」

「はい!」


汗だくになりながらも必死に傘を引っ張ってくれる眼鏡姿の高校生。

いかにも真面目そうだなと思ったら、都内の進学校として有名な男子校の制服だ。

二人して一本の傘を引っ張るので、自然と身体が密着する…


同じ年頃の男子とこんなにくっつくなんて…私はそのことを妙に意識してしまった。

もしこのまま終点まで二人で引っ張り続けたら私、どうなってしまうんだろう?…などど脳内で妄想を膨らましていた。


が、次の駅に着いた瞬間、

「これじゃだめだ!ちょっと待ってて!」

そう言って高校生は反対側のドアが開くとそのまま降りて走り去った。

しばらく待っても彼は戻って来ず、反対側のドアが閉まると電車が動き出した。

え?なに?もしかして私、見捨てられちゃった??

変な妄想をしていたのがバレてたのだろうか?


でも、あの高校生は単なる通りがかりだし、私と一緒になって終点まで付き添う義務もない。

ここまでしてもらっただけでも有難いと思わなければ。

そう自分に言い聞かせる私に特急電車は無情にもスピードを上げ、次々と駅を通過していく。


他の乗客たちも最初こそ、私にいろいろ励ましや慰めの声を掛けてくれたが、次第に気の沈む私に気まずくなってきたのか今は皆、静かになっている。

傘を挟んで、このまま終点まで行くのか…ああ、家に帰るのは一体何時になるのだろう?


私は恥ずかしいやら、情けないやらで目が潤んできた。

でもここで泣き出すのは、きっともっと恥ずかしい!そう思い、必死にこらえた。

特急電車が次の駅に着くために減速を始める。

ああ、本当ならここが私が降りる予定の駅なのに。


またしても反対側のドアが開く。

私は降りられない…恨めしい気持ちで反対側のドアを睨む。

が、大勢の乗客たちが降りると入れ替わりに複数の駅員たちが乗り込んできた。

「傘がドアに挟まっているのは、あなたですね!」

「あ、はい」

私が答えるとすぐにドア近くの床下コックやらなにやらを操作し、ドアを引っ張っると、わずかな隙間ができた。

「そのまま傘を引いて!」

「はい!」

今度は簡単に傘が抜けた!

他の乗客たちから拍手喝采を受け、お辞儀をしながら電車を降りる私。


「ありがとうございます!」

「いや、お礼なら最後尾の車掌のところまで助けを求めにいった彼氏に言ってやって!」

駅員の一人が目くばせをすると、ホームの後ろから走り寄る眼鏡姿の高校生が。

「電車のドアって一旦閉まるとロックされるからね、彼は車掌を通じて駅に連絡してくれたんだよ。いい判断だった」

「間に合ってよかった!」

駆けつけた高校生は嬉しそうに笑った。

「はい、本当にありがとうございます」

見ず知らずの私のために、ここまでしてくれた彼。

私は感謝の気持ちで精一杯のお辞儀をした。


ドアが閉まり、走り去る特急電車。

車掌が私たちに向けて微笑んで合図を送った。

「じゃあ、僕もこれで」

立ち去ろうとする彼に私は慌てて声を掛けた。

「あ、ちょっと待ってください!」

「はい?」

高校生は立ち止まってくれたが、この後、私は何を言えば良いの?

ただ、もう少しだけ彼と一緒にいたい、一瞬そう思っただけなのに。

「あの…この後はどこに行くのですか?」

「え?…ああ、家に帰りますよ」


そりゃあ、そうだよね、私は一体何を聞いているのだろう?

何も考えられずに頭が真っ白になった。

「えっと、もし私のせいで途中の違う駅で降りたのかと思うと申し訳なくて…」

何とか会話を続けたくて必死に次の言葉を考える私。


「いえ、この駅で各駅に乗り換える予定だったので大丈夫ですよ!」

ホームには次の電車である各駅停車が入って来ていた。

やった!偶然にも私と同じ方向だ!!

「あ、私もです!」

電車のドアが開くと当たり前のように眼鏡姿の高校生に続いて乗る私。


だがドアが閉まり電車が動き出すと途端に会話が途切れる。

しまった…この後、彼とどう会話を続ける?

同年代の見知らぬ男子と気軽に会話が出来るほど、私のコミュニケーション能力は発達していない。

最後に男子と話したのは小学生の頃の同級生相手くらいだろうか?


どこで降りるんですか?なんて言葉すら私は恥ずかしくて聞けなかった。

各駅停車なので、あっという間に次の駅に。

ここが私の降りる駅だった。


「…あ、私、ここで降りますので」

ようやく私の口から出た言葉。

「あ、僕もです。同じ駅だったんですね」

二人して同じホームに降り立ち、私の鼓動は激しく打ち始めた。

すごい偶然、でもこれって運命?


改札口に向かう途中で私は思い切って話かけた。

「あの…私、子どもの頃からずっと、この駅だったんですけど、お会いしたことありましたか?」

私…何、大胆に聞いてしまってるんだろう…でも同じ駅で、あの有名進学校の制服なら見覚えがあってもおかしくないし、私の卒業した地元の公立小学校で、前後の学年を含めてそこまで頭の良い男子はいなかったはずだ…当然の疑問だった。


「あ、僕は、こちらに引っ越して来たばかりだから、あなたに会うのも、たぶん初めてだと思うよ」

疑問が呆気なく解けた。

「そ、そうなんですね…」

そう答えただけで、それ以上の会話がやはり続かない。

コミュニケーション能力ナシの私のバカ!


改札口を抜けると、さすがに帰る家の方向が違うみたいで私たちは左右に分かれた。

「今日は、本当にありがとうございました」

私はあらてめて、眼鏡姿の高校生に深々とお辞儀をした。

「…いえ、そんな大したことした訳じゃないから…それじゃあ、また」

「え?」

今、『また』って言ってくれた?

私は顔が真っ赤になった。

「…いや、きっとまた駅で時々顔を合わせることもあるから、そのときにまた…」

そういうと彼も顔を赤くしながら、急ぎ足で去っていった。


私は眼鏡姿の高校生…これからは勝手に『彼』と呼ぼう…の後ろ姿を目で追いながら、今日起こった素敵なハプニングを脳内で繰り返し再生をした。

家に帰ってからも先ほど彼に言われた『また』というセリフが脳内で繰り返し再生されるうち、私は感じ始めていた。

…感謝の気持ちが徐々に恋に変わりつつあることを。


次の日、部活帰りに早速、彼と出会った駅で同じ位置のドアから私は乗ってみた。

もしかして偶然彼が乗っているのではないか、と期待して。

だが、彼の姿はどこにもいなかった。

その次の日も、またその次の日も彼を見つけられなかった…

でも私はすぐに気づいた。

あの時とは違う時間帯なので偶然、彼に会える確率は、かなり低くないか?


次に私は彼と出会った時の同じ時刻、同じ特急の同じドアから乗ってみた…もちろん部活は無理やり早めに上がって、だが。

これにより出会う確率が少しだけ上がったと思ったが、やはり彼は見つからない。

部活で毎日、早上がりをすることは、なかなかできなかったが、そんなことを一か月くらい続けてみた。

『また』と言った彼の言葉を相変わらず私の脳内で再生しまくりながら…


そうした涙ぐましい努力の成果で、ようやく再び、彼に会うことが出来た!


その日、部活の先輩たちに呼び止められながらも、あの特急電車に間に合うよう、私は急いで学校を飛び出した。

ギリギリのタイミングで同じドアから特急電車に飛び乗った私。

「ふぅ」

一安心しつつ周囲を見回そうとした矢先。


「そんなに慌てて乗ると、また傘を挟んじゃうかもよ」

「あ…」

有名進学校の黒い制服姿の眼鏡の彼が微笑みながら声を掛けて来た。

「え、と今日は雨が降ってなかったので大丈夫です」

私は、真っ赤になり、はにかみながら返す。


彼は学生鞄以外に本屋の紙袋を持っていた。

「今日はお買い物ですか?」

「うん今日発売の雑誌が欲しかったから。駅の近所の本屋だと置いてなくてね…」

そうか、やはり彼はいつもはこの電車じゃないんだ、と学習する私。

会えた嬉しさよりも今後、彼に会う確率を高める情報収集に必死になる私。


この一か月、私はコミュニケーション能力を少しでも上げるため、必死になり本や雑誌を買い漁って男子との会話を想定した練習に励んでいたのだ。

今日こそ、その成果を活かす時だ。


彼は部活動をしていない『帰宅部』

このため帰りは早い時間帯の電車に乗っているとのことだった。

とはいえ、予備校に行く日もあったりして、毎日同じ電車で帰ることも無いようだった。


となると、彼と会う可能性があるのは、朝の通学時間帯の方かもしれなかった。

それに彼の通う学校と私の学校ではそれぞれ家からの所要時間も授業開始の時間も微妙に違うため朝、私がいつも乗る電車よりも早い時間帯の電車に彼が乗ることが判明した。

となると朝、彼が乗る時間帯の電車に合わせて私も通学するのが、いちばん会えそうな気がしてきた。


ひと通りの情報収集を終えると降りる駅に着き、改札口で分れる彼と私。

「じゃあ、またね!」

「ああ、また」

お互いに挨拶するだけでなんだか嬉しくなる私。

明日からは頑張って早起きをしてみよう!


翌朝、親には部活の朝練があると偽って少しだけ早起きをした私。

駅には大勢の通勤客、通学客であふれ返っていた。

想定よりも駅に早めに着いた私はホーム上に彼がいないのを確認し階段付近のベンチに座った。

そして本を読むふりをしながら彼がやって来るのをドキドキしながら待つのだった。


2本くらい電車を見送ると、ようやく制服姿の彼が現れる。

私は深呼吸をしてからベンチから立ち上がり、彼の視界に入るように移動した。


「あ、おはよう!早いんだね?」

「うん、今日は部活の朝練なんだ!」

彼にも親と同じ嘘をつく私。

到着した各駅停車に乗り込んだ私たちは次の駅で通勤快速電車に乗り込んだ。

この時間は朝の混雑ピークの時間帯だ。


ホームの駅員たちに押されて満員の通勤快速に詰め込まれる私と彼。

混雑の中で彼との距離は今まで以上に近づいた。

「大丈夫?」

「うん」

ドアの端で他の乗客から私を護る様に私の前に立つ彼。


私は平常心を装いつつ、まるで抱き合っているかのように密着するお互いの身体と間近で聞こえる彼の息遣い…しかも男子特有の汗交じりに匂いもしてドキドキしていた。

同時に付き合ってもいないのに、この近すぎる距離感って、いいのかな?とも考えた。

それは彼も同じ思いだったみたいだ。


何度か同じ電車に乗った後、彼からこんな提案が出た。

「明日からさ、もう一本早い電車にしてみない?」

「どうして?」

「各駅停車のままなら、乗り換えずにそのまま行けるから…女の子にあの通勤快速の混雑だと、ちょっとキツイかも、だし」


赤の他人なら、あまり気にならなくても、意識した相手との距離感はやはり気になる。

だけど、それって私だけでなく、彼も同じように私を意識しているの?

そう考えるだけで私は心躍った。

私の恋って、もしかして両想いだったりして?


今まで私の灰色だった世界が彼との出会いで光り輝く世界へと一変した感じになった。

同じ電車で通うようになってからは、学校のことや家族のこと、将来のこと…など会話を重ねる度にお互いに知ることが出来た。

そしてこんな素敵な毎日が永遠に続くものだと思い込んでいた。


…だけど、この世の中に永遠なんてない。


ある朝、私は彼から突然、この関係の終わりを告げられることになったからだ。

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