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第28話 兼満家の呪い

俺、元兼満トオル(46)は、30年前の世界に初恋相手の滋味美緒(16)転生し、しかも成仏しそこなった元の美緒の人格が同居しているため、不審に思った人には「二重人格者」で通している。


一方で、30年前の俺である、兼満トオル君(16)とは元人格の美緒が交際中であり、目下の課題は、トオル君の弟である、サトル(11)と、その女友だちである、ナナミ(11)が同じ中学校に進学するために、母、貴美子をどう説得するか…である。


しかも元の世界で、俺はナナミ(41)のサトルとの15年越しの悲恋を知ってしまっているから、かなり複雑な心境だ。

何とかしてやりたいと思いつつ、またしても俺は歴史改ざんに関わってしまうのか?


それに伯父の下久保啓一郎(45)から、兼満家に関する『呪い』の話を聞くことになるとは、前世にはないイベント?発生に俺は正直、驚いていた。

まあ、前世の30年前では夏休み中、俺はエリのアパートに入り浸って、堕落の限りを尽くしていて、伯父には会っていなかったから仕方ないのだが…


「貴美子のヤツ、トオルには冷たい態度をとっているのは私もよく知っているよ…でも、そうなった原因をトオルは知っているか?」

「それは…たぶん僕が、じいちゃん、ばあちゃんとばかり一緒にいたから?…なのかな??」

うん、トオル君も俺と同じ分析をしているな…祖父母と一緒にいる時間が長かったのは、子どもの頃から当たり前と思って、疑問すら無かったからな。

「まあ、それも当たっているけど…要するにさ、兼満のおじいさんは貴美子の事が気に入らなったんだよ…あ、ちょっと他所(よそ)の家の込み入った話になるけど、君らは大丈夫かな?」


伯父は、俺=美緒とナナミに向かって聞いてきた。

「あ、私は大丈夫ですよ…」

すぐさま俺が答えると、

「私も…聞いておきたい…です」

ナナミも恐る恐る返答する。

伯父は昔から、小学生といえども子ども扱いはしない。

さすが教育者…と俺は昔から伯父を尊敬をしていたが、祖父と母に確執については、具体的に聞くのは初めてだ。


『ちょっといいの?おじさま、他人の家の立ち入った話を聞いちゃって…』

美緒の方はやや抵抗感があるようだ…まあ、そうだろうな。

『他人…っていっても将来は身内になるかもしれない家の事情だろ?知っておいた方が、今後いろいろと、いい判断材料になると思うぞ…』

『ちょ…将来って、まだ、トオル君のご両親にご挨拶すらしてないのよ!』

いやいや、いくらなんでも、そこは飛躍しすぎだろ…

まあ、美緒には勝手に将来の妄想でもしておいて貰おう。


そう思っている間にも伯父の話は続く。

「どこから話せば良いのかな?トオルは、貴美子と渉さん(俺の父…)との馴れ初めは知ってるよな?」

「確か、銀行の同じ支店で…職場結婚だとか」

トオル君がそう答えた。

銀行員だった父の(わたる)が、同じ支店にいた母の貴美子と大恋愛?の末、結婚した話は聞いていたが、大体親の結婚なんて半ば美化して伝えられるものだから、

「そう…でもね、兼満のおじいさんは、その結婚に反対だったんだ」


伯父の話によれば、俺の祖父、元大蔵官僚の兼満(いたる)は、銀行員だった父の渉には官僚人脈を使って見合い結婚をさせて、兼満家の安泰を目論んでいたのを母の貴美子との恋愛結婚で、ご破算にされたことを快くは思っていなかったのだ。


「結局、結婚の方は、二人の上司でもあった支店長がおじいさんを徹夜で説得してくれて、ようやく出来たんだけど、貴美子にとっては、それからが大変でね…」


結婚後早速、両親は祖父母の指示で同居生活になった。

そして"兼満家の嫁"として母が相応しいかどうか、祖父が見極めるということで、母の一挙手一投足を祖父が全て監視していたとのことだった。

炊事洗濯の家事全般はもちろんのこと、言葉遣いや箸の上げ下ろしに至るまで…


今に時代にそんなことをやったら、完全にアウトだが、それ以上に俺には優しかった祖父の闇の一面を知ってしまった俺にはショックだった。

もちろん、それは今は俺の横にいる、トオル君も同じ気持ちなのだろう…まあ、中身が30年前の俺だからな。


「そんな…じいさんが、そんな怖い人だったなんて…そんな話、聞きたくもないよ、伯父さん」

「トオルはおじいちゃんっ子だったから、気持ちもわかるけどさ…でも、君も高校2年生なんだから、いろいろな"大人の事情"をもっと学んでもいい頃かな、って思ってさ」

伯父としては、実の妹である母をトオル君が、"あの人"呼ばわりしていることを決して快くは思っていないハズだ。

でも当時、そんな俺の事を一切咎めずに気さくに応じてくれた伯父に俺はただ、甘えていただけなのかもしれない。

だがどうして今回、この30年前の時間軸の世界では別の出来事が発生しているのだろう…


『それは…ですね、実はこの出来事の方が本来、起こる予定だったからですよ』

え?美緒以外の声…ああ、時空監察官のエルさんか、ずいぶん久しぶりだな。

『エルさん、今までどこに…まあいい、"本来"とは、どういうことでしょうか?』

『実はあなたと悪魔の関わりを調べていて、ちょっと顔を出せませんでした…それで、わかったことがあって…実はあなたの元居た30年先の未来では、悪魔がエリさんをあなたに強引に引き合わせた…という話はしましたよね?』

え?そうだったの??


『あれぇ?話したつもりだったんですが…あなたよりも先に悪魔によって闇落ちしたエリさんが、そのまま利用されまして、結果、あなたと深い関係になりましたよね?それ故に、この時期に起こった、せっかくの親子和解という機会そのものが消滅してしまい、あなたは、さらなる闇落ちをしてしまったんですよ!』

『ええっとエルさん、今、この声って、まさか美緒の方には聞こえていないですよね?』

美緒をこれ以上、さらに混乱させるような話に巻き込みたくはない…

『ああ、もちろんですよ、もう一人の方は、元からこの時間軸の住人なので、30年後の世界の話は一切、禁句にしています』


良かった。

でも、そうなると、俺が元いた世界こそが、改ざんされた歴史ということなのだろうか??

『実はそうなのです…あなたの元いた世界は悪魔たちの絶好の狩場となっていて、彼らが汚れた魂を大量に作り出すために歴史を改ざんをしまくった結果、世界中を淀んだ空気が支配してしまったのです…あなた自身、向こうの世界で、急におかしな事が増えた事に気付きませんでしたか?』


おかしなこと…?

確かに近年は大規模な自然災害や異常気象がひどくなってきたところにコロナウィルスやら、ヨーロッパでの戦争に元首相の暗殺などなど…次々とすごいペースで災厄が発生していたな…

『そうなのです…この先、あなたの元いた世界ではさらなる破滅的な災厄がやってきて人類滅亡に繋がっていくのです…しかも、その影響が他の時間軸にある並行世界にも連鎖して、全ての世界が淀んだ方向に進んで行ってしまいます…まあ、それが悪魔一味たちの目的なのですが…』

なんだって?…それってずいぶん話のスケールが大きくなり過ぎていないか?


『ともかく、あなたの元いた世界は既に手遅れなので、今は、あなたから見れば30年前のこの世界で、悪魔の侵蝕を食い止めることが最優先になったのです』

そうか、俺のいた世界はこの先、滅亡か…もう死んだから別に関係ないのだけれど…残された人たちは可哀そうだな。


『今は何も出来ず、すみませんが、この世界での悪魔の企みを阻止できれば、いずれはあなたのいた元の世界も救えるかもしれませんので、我々に協力をしてもらえませんか?』

『いや…そんな、世界を救うなんて大それたこと、俺なんかに出来る訳ないだろ?今は単なるポンコツ女子高生だし、前世は史上最低のナンパ師だ…』


『もちろん、あなたがスーパーマンでもなければ超能力者でもないことはわかっています。必要なのは今、目の前に起きている困難な出来事に対して、一人一人が人任せにして逃げずに真摯に向かい合う力を見せ、周りにその連鎖を作っていくことに協力して欲しい、ということなんです』

『うーーん、具体的には何をすればいいんだ?』

『あなたには、ただ、今、目の前にある兼満家の"呪い"を解くため、全力でサポートしてください…元々、この世界の住人ではない、あなたにしか出来ない力で…』


え?それってどうやって??

『それは、あなた自身の力で切り拓いてください!ではまた!』

それきり、エルさんは沈黙した。

まあ、この世界で至る所で発生している悪魔の攻勢を食い止めるために今は必死なんだろうな…


でも結局、これって俺任せの丸投げじゃないか…まあ仕方ないか。

これって、いままで親子の不仲を解決せずに永遠に放置していた俺への罰、なのかもしれないな、そんな気もした。

これは何とか解決しないとな。


『ちょっと、おじさま…いくら自分には関係ないからって、もっとトオル君の伯父さんの話を真面目に聞いてくださいよ!』

美緒に怒られ、我に返る俺。

そうか、エルさんとのこの会話は美緒には秘匿していたんだった。

『あ、ゴメン、話どこまで進んだ?トオル君が生まれて渉、貴美子夫婦が、実家を飛び出す話までは済んだ?』

『え?なんでおじ様、兼満家の事情に、そこまで詳しいのよ?』

しまった、美緒は俺の正体を知らなかったんだった…

『あ、それは…美緒が時空に狭間に閉じ込められていた時にトオル君から聞き出していたんだ』

『ふーーん、そうなんですね』

危なくバレるところだった。。


「で、そんな状態がトオルが生まれた後も続いてね、ついに貴美子がノイローゼ状態になってしまったんだ…で、さすがに渉さんが親のやり方に反発して貴美子を連れて出て行ってしまったんだ」

「僕だけ残して…ね」

トオル君がポツリと呟いた。

そう、そこまで祖父が母に酷いことをしたことを幼い俺は知らなったが、両親は俺を祖父母のもとにおいて、別の家で暮らし始めるのだった。

その家でサトルが生まれ、俺だけが祖父母の家で暮らすようになったのだ。

もちろん、祖父母は俺に優しかったし、時には厳しく、兼満家の跡取りとして、しっかりと育ててくれた。


だが結果としては両親とは冷え切った関係になってしまった。

そうなったのも、あの親たちの度量の狭さなのだろうと、俺は当時から諦めていたし、今でもその考えはあまり変わっていない。


だが…そうなった原因は祖父母の側にもあったこと…そして、今の俺は美緒という第三者の目線から見ると確かに親に逆らえなかった、あの父にとって母を連れ出すことが精いっぱいの抵抗だったこと。

そして、その時、トオル君だけを祖父母の家に残したこと。


「そうだね、トオルから見れば、確かに親に棄てられた、そう思うだろうね」

「ええ…僕にとっては祖父母が"育ての親"でしたから」

「そんな…トオル兄さん、寂しいこと言わないでよ」

サトルが悲しい声になった。

まあ、小学生だったサトルにはショックだろうが、トオル君にとっては、それだけでは、なかっただろう。

祖父が亡くなると、祖母を老人施設に隔離して、実家をまるで祖父母のいた痕跡を消すかのように大規模リフォームした両親は我が物顔で凱旋をして来たのだ。


それまで祖父母と暮らしていたトオル君にとっては、両親とサトルという出来上がった三人家族との新たな同居はさぞかし居心地が悪かったはずだ。

「トオルの気持ちもわかるけど…でも肩身が狭かったのは貴美子と渉さんも同じだ、どこかでわかり合って欲しいって思うんだよ」

どちらも自分にとっては愛おしい、実の妹と甥の確執に悩む伯父の気持ちは痛いほどよくわかるのだが…

「わかりました…今はまだ、割り切れないこともあるけど…でも、それとサトルの進学先とが、どうしても繋がらないんですよ」


確かに、ここで"兼満家の呪い"の連鎖を止めるべきなのだろう…

エルさんに言われるまでもなく、俺の決意は堅かった。

だが、実はもう一つ、俺も気になっていることがあった。

それは、トオル君も同じ思いなのだろう…


「じいちゃんも父さんも、中学、高校は開明で大学は東大、卒業後は金融関係の仕事に就く…それを当たり前の様に押し付けてきた…少なくとも、僕も今現在、同じ道を進んでいる…それが"兼満家の呪い"ということですよね?」

「ああ、そうだ」

「だから、その呪いは僕までで終わりにして、サトルには開明-東大以外の違う道を歩ませたい…そこまではわかるんですが、なぜそこで、サトルの第二の進路は修学院だけなんですか?」

「うーーーん、参ったな…いちばんの問題は、まさにそこ、なんだよね、さすがトオルは賢いな」

「誤魔化さないで、教えてくれませんか?伯父さん」

さすがトオル君、核心を突いて来るな。


「実はさ…貴美子には学生時代好きな人がいたんだ。修学院大学の同じサークルにね…」

ええ?なんだって??


"あの人"にとって、父以外の好きな人がいたなんて…

過去の事とは言え、子どもとしては、あまり聞きたくない話だよな。

だが、"兼満家の呪い"を本気で解いて、世界を救うきっかけにするには、これは、避けて通れない話になりそうだ。

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