第18話 綺麗系JKの片想い
私、美ヶ原陽子は高校に入って初めて友だちが出来た。
友だちになったのは同じクラスの滋味美緒。
今までは顔と名前が一致する程度で、ほとんど話したことがなかったのだが、美緒が部活の事故で生死の境をさ迷った後に退院し登校した際、私に友だちになって欲しいと誘われた。
最初は美緒の呼びかけに躊躇した私だったが、美緒が今まで見せたことがなかった大人びた考えや見方に触れると、その魅力に私は吸い寄せられ、気付けば友だちになることを同意したのだ。
その日以来、美緒と一緒に帰ることが多くなった。
最初の頃は、今までの美緒と同じような表情で少し緊張しながら、当たり障りの無い会話をしつつ、時折大人びたクールで知的な会話をして私を大いに楽しませてくれていたが、6月半ば過ぎからは、そんな大人っぽい方の美緒の人格?だけに変わっていった。
恐らくは私との関係に慣れて、美緒本来の顔だけを見せるようになったからだろう。
そうしているうちに美緒は部活の仲間たちからは少し距離を置き始めていた。
いつもずっと一緒に居たのになぜ?と私が尋ねると、
「ああ、私って今、休部状態でしょ、だから話題も合わなくなってきて、なんだか一緒に居るのが面倒…いや辛くなってきちゃって」
と美緒は明るく返すのみだった。
やはり今まで見てきた美緒の方は実は見せかけで、その正体が、恐らく私しか知らない、この大人びた人格の美緒なんだと悟り、私は他の同級生たちに優越感さえ持ち始めていた。
だが夏休みが近くなってくると、美緒は何だか忙しそうになり、外部の誰かに呼び出されるように、放課後になると急いで、帰宅をしていた。
「美緒って最近、カレシが出来たみたいだよ」
「そうなんだ、だから付き合い悪くなったのね…まあ、あの事故で人が変わったみたいになっちゃったから仕方ないか」
そう噂する、同級生たちの会話に私は心痛めた。
美緒にカレシが出来たなんて、あり得ない!
私は美緒からはカレシの話なんて聞いたこともなかったし、あの冷めて大人びた美緒が男性に靡いて恋に夢中になるとは、とても思えなかったからだ。
最近では帰宅後も何故か美緒のことばかりを考えてしまい、趣味の鉄道模型作りなども手が付かなくなっていた。
私は一体、どうしてしまったのだろう?
今まで、自分以外の誰かのことをこんなに気にしたことが無かったのに。
元々、友だちがいなかった私にとって、友だちという存在の定義そのものが実はよくわかっていなかったのかもしれない。
それにしても美緒は最近、どうして私に構ってくれないのだろう、友だちなのに…
そんなことばかり考えていた、ある日の帰り道。
私は見慣れぬ占い師が、道端に机を出して座っているのが目に入った。
占い師は顔面が白い髭で覆われて、山高帽を深々と被り顔がよくわからなかった。
こんな人通りの少ない道で、占いをやっても客なんて来ないのではないだろうか?
そう思いながら私が占い師の横を通り過ぎようとした瞬間、
「あなた今、人間関係でお悩みではないですか?」
いきなり占い師が私に声を掛けて来た。
「はい?…」
私はなぜか、立ち止まって返事をしてしまった。
え?この占い師さんって人の心が読めるの??
「よろしければ、あなたの悩みを解決するお手伝いをしますよ?」
にこやかに占い師は、机の上の料金表を指していた。
『学割3千円』と書かれている。
3千円か…Nゲージの客車なら3両くらいは買えそうかも、そう思いながらも私はなぜか財布から千円札を取り出していた。
普段、占いなんて信じないのになぜ?
恐らくは単に誰かに私のモヤモヤした気持ちを聞いて欲しかっただけなのかもしれない。
「あなたの想い人は…恐らく学校の同級生あたりですか?」
「え?想い人って、そんな…私の学校は女子校ですよ!」
占い師に言われて一瞬、ドキッとしたがすぐに否定した。
まさか美緒のことを私は片想いでもしているっていうの?
だが、占い師は微笑んでこう答えた。
「人を想うのに、性別や年齢なんて別に関係ないのですよ」
「そう…なんですか?」
「まあ、例えばですけど、恋愛に限らず、友情や親子の情など人間関係の全てに情があって、その対象全てに想いがあるものとまずは捉えてみてください」
「なるほど…」
わかったような、わからないような…でも今の私の感情を支配している、何とも言えないモヤモヤ感をうまく捉えているなぁ、と、占い師に感心する私が何故かいる。
「でも今は、その想い人は私の仲の良いお友だちということでいいですか?」
私はいちおう訂正をした。
「大丈夫ですよ、で、そのお友だちなのですが、あなたの懸念通り、男の人の影が見えますね」
やはり男がいるのか…胸の鼓動が一気に高鳴った。
「で、その人はお友だちのカレシ…なんですかね?」
「うーーーん、どうなのかなぁ、男の方…恐らくは同世代の方だと思うのですが、その方はお友だちの事をかなり好いていらっしゃるようですが…でもお友だちの方は彼を恋愛の対象とは見なしていないようですね」
「そうなんですね!」
私はホッとしたのも束の間、
「でもこの夏休み、二人は旅行に行きますね…しかもかなり遠くに行くみたいです」
え?この占い師さんって、そこまでわかるものなの??
私は少し怪しく思えてきたが…もしそれが本当だったら、美緒さんはその男と二人きりで旅行を??
「なんで、好きでもない人と旅行に行くんですか!?」
「ご心配ですよね?」
占い師は嬉しそうに微笑みかける。
何だか私はからかわれているようで、少し腹が立った。
「その旅行を止めることは出来ないんですか?」
「うーーーん、難しいでしょうね、理由が何かわかりませんが、いろいろ複雑な事情があるみたいですねぇ」
それならば、と私は思い切って、占い師に提案した。
「だったら私が友だちの旅行について行く、というのは?…」
「ほぉ…なるほど、いい考えかもしれませんね…例えばお友だちのご家族も普通は心配するでしょ?高校生の娘さんが男と二人で旅行するなんて」
確かにその通りだ。
「となると?」
「もしかしたら、お友だちは、ご自分の親を心配させないため、あなたを旅行に誘ってくるかもしれませんね」
なるほど、これで私が友だちポジションで、美緒と男性の仲が進展しないように楔を打ち込める訳だ。
「もし誘って来なくても私の方から旅行に行きたいって言ったら、変ですかね?」
念のため、占い師に聞いてみる私。
「いや、それでは、お友だちに怪しまれてしまいますので、あくまでも自然に旅行の話をすれば…だってあなた旅行がお好きなのでしょ?」
「え?なんでそんなことを…」
「商売柄、私は何でもお見通しなのです…例えば、あなたが得意な鉄道を旅行に使うという選択肢はいかがですか?」
もはやこの占い師が超能力者のようにすら思えてきた。
かなり怪しげだが、美緒の旅行に潜り込むための様々なアイデアを私は占い師から授かったのだった。
「私からのアドバイスは以上です…あとはあなたが、この旅行で想い人と深く結びつくことを祈ってますよ」
「え?私はただ、友だちの力になれたらいいな、って思うだけなんですけど…」
「ククク、ではそうしておきましょうか…」
「ともかく、いろいろとありがとうございました」
意味深に微笑む占い師に私は深々とお辞儀をした。
占い師に会った翌日、私は美緒を見付けると早速、話しかけてみた。
すると占い通り美緒は夏休み旅行をしようと考えていたのだ。
しかも北海道に!
私はひとまず美緒の身体を気遣いつつ情報収集を続けた。
美緒の悩みは北海道まで往復で飛行機を使うと高額になるので、旅行費用をどう節約すべきかのようであった。
なるほど、占い師の読み通りだ。
「それなら、鉄道を使えばいいんじゃないの?」
私は美緒に思い切って鉄道の使用を提案をしてみた。
提案に驚く美緒だったが、否定的な反応ではなかった。
「でも私、あまり詳しくないから、良かったら陽子さんも一緒に行ってくれると助かるんだけど」
占い師の予想した通り、美緒から旅行を誘って来た。
え?でも一緒に行く男はどうなったの?
私は試しに美緒に聞いてみることにした。
「でも女の子二人だけで旅をするのは、大丈夫なのかな?」
「うん、そこはいい考えがあるんだ!」
美緒からボディーガード代わりに知り合ったばかりの同い年の男友だちに同行して貰う提案が出た。
やはり出てきたな、と思いつつ、
「えー?男子と一緒に旅行に行くの??」
わざと微妙な反応を返す私。
それに対して美緒からその男以外にも彼の家庭教師の女子大生も同行するから安心とも告げられた。
なるほど、その女子大生が占い師情報にあるところの男を狙っている年上女性か…
うまく女子大生をけしかけて、男の方とくっついてくれれば、旅行中は美緒を独占できる?
私の心の中に邪な野心が芽生え始めていた。
「わかったわ!私も美緒さんと旅行行くのが楽しみだから両親に話しておくね!」
私は美緒に、そう応えた。
これで美緒と楽しく鉄道旅行に向かえると思いつつ…
帰宅すると私は早速、J〇Bの時刻表をめくり、本州と北海道の路線図を見比べながら旅行プランの作成を始めた。
お金を掛けずに時間もさほど、かからないと思えるプランは、やはり上野から夜行急行「八甲田」を使い、青森から函館までは快速「海峡」、札幌まで特急「北斗」を乗り継げば、夕方前には札幌に入り、夕食後、元夜行急行「まりも」から特急に昇格したばかりの夜行「おおぞら」で釧路まで出れば、夜行2連泊にはなるが、飛行機に比べ非常に安価な移動が出来るだろう。
美緒の話では、兼満なる男は鉄道旅行に多少は詳しいらしかった。
もしも彼が美緒を狙っているなら、鉄道ネタで優位性を出そうとして来るに違いない。
そこを私の完璧な旅行プラン提示で完膚なきまで叩きのめして、美緒に付け入るスキを与えなければいいだけだ。
そして美緒が私の旅行スキルに惚れ込んで、更に”友情”を深めることが出来れば、美緒にとって、私が唯一無二の存在になる…
そしてその先に私が美緒にとっての無くてはならない存在になれれば、きっとその先に…
「ふふふ…はーはっはっはっ!」
私は妄想が進み過ぎて思わず笑いが止まらなくなった。
「ちょっと、陽子、大丈夫?」
心配した母の声に正気を取り戻した私は、北海道旅行の”勝ち筋”を狙った旅行プランを徹夜で練り上げるのだった。
「あの、陽子さん??」
「はい?」
「この計画は、陽子さんが全て?」
「完成度が高い提案でしょ、美緒さん?」
北海道旅行の最初の顔合わせ兼ミーティングの場で、ファミレスに集まった美緒、兼満、大学生のエリさんの前で私は自慢の旅行プランを提示していた。
「いや…夜行列車で二連泊ってアリなのかなぁ?女の子的には??」
私のプランに意外に美緒が難色を示した。
ちょっと待って、旅行費用を抑えたいのはあなたでしょ、美緒さん。
今更、梯子を外さないでよ!!
「あの、ちょっといいですか、札幌までは僕も同じプランを考えていたので、ここは札幌で一泊をして、その次に…」
兼満という男が場を仕切ろうと動き出す。
「あのさ、札幌にいい宿泊先があるの?高いビジネスホテルばっかりで、せっかく節約した旅行資金が札幌で使い切りになるよ?」
私はすかさず、反論する。
こいつにだけは鉄道のことで負けたくない!
だがここで、大学生のエリさんが手を挙げる。
「いいかな?まあ高校生諸君がお金が無いのはわかるけど、旅行資金節約のしわ寄せを鉄道一辺倒で解決するのもどうかと思うよ」
「え?それじゃあ、エリさんが札幌宿泊の費用とかを出してくれるんですか?」
「美緒さん、何甘えたこと言ってるの?」
「あ、そもそもエリさんはお金持ちだから、鉄道なんか使わずに飛行機で北海道に入るんですよね?別に現地合流でいいんですよ?」
「私も君ら高校生と同じ目線で旅行を楽しみたいから、夜行急行に一緒に乗るわよ、実家に帰省する時は夜行急行をよく使っていたし」
美緒の挑発的な口ぶりでの挑発にエリが応えていたが、意外な一言が聞けた。
「あのエリさん、ご実家はどちらなんですか?」
私は恐る恐るエリさんに聞いてみる。
「富山!」
「じゃあ夜行急行『能登』を使われていたんですか?」
「あたり!」
「でもあれはこの春から昼間特急『白山』と同じ電車に変わったんですけど…」
「あ、そうなる前の青い客車の方に乗っていた…」
「14系客車ですね!」
「そう、細かいことはよくわからないけど、眠くなって気を抜くと、リクライニングシートが、ガクンって戻るヤツ!」
「はい!簡易リクライニングシートですね!間違いないです!」
エリさんはいろいろとわかっている人だ!
面白い。
でもなんで美緒さんはエリさんを毛嫌いしているのだろう?
やっぱり兼満のことを好き?なの??
このままでは私の想いは遂げられないの??
ファミレスの少し離れたところで、またしても審問官が様子を伺っている。
「ククク、美ヶ原陽子さん、エリさんと共に兼満さんを更に苦しめてください」
立ち上がった審問官はまたしても、あの占い師に姿を変えていた。




