第17話 綺麗系JKのはじめてのともだち
私、美ヶ原陽子は、桐友学園女子高校に通う2年生で現在16歳。
学校では孤独を愛する人と周りからは思い込まれている。
元々、社交的な方ではなかったのだけど、そこまで私は孤独が好きだった訳じゃないのだが…
少なくとも地元の公立小学校までは普通に友だちはいたし、勉強が出来るからといって、クラスでも特に浮いた存在ではなかった。
変わってしまったのは中学校から。
私立の中高一貫の共学校に進学したのだが、部活では何の迷いもなく「鉄道旅行クラブ」を私は選んだ。
小学校では存在しなかった鉄道趣味のクラブ活動…それが私が中学で浮いてしまうきっかけになった。
元々、父が大の鉄道マニアで、小さい時から私をいろいろな電車に乗せ、旅を共にしていた。
父の応接間には模型の電車を走らせるための巨大なジオラマ(レイアウト)が設置されていたので幼いころから鉄道模型を作ることを自然に覚えた。
普通なら、ここで母の猛反対に遭い、鉄道趣味の規模を縮小しただろう。
だが母も学生時代に父と同じサークルである鉄道研究会で知り合ったので、趣味に理解があるどころか、父と共に私を指導することが多かった。
母は主に写真撮影が好きだったので、私に一眼レフカメラの使い方や暗室作業の技術などを徹底的に仕込んでくれた。
このため私も鉄道趣味を深めていくことが、ごく自然に思えていた。
今から思えば、両親にいいように刷り込まれて(洗脳されて)いただけだったのかもしれないが。
私が生まれた時、両親は本気で名前を「鉄子」か「道子」もしくは「ひかり」か「こだま」にしようとしていたが、双方の祖父母から猛反対され、最終的には「ひかり」→「光」→「光子」→「陽子」という順で、ようやく今の名前に落ち着いたのだった。
そんな環境で育った私だったから、中学に入ったら部活動では当たり前のように鉄道趣味の濃ゆい分野を徹底的に追求しようと思ったのだったが…
しかんしながら部活では、そんなマニアな人材を求めてはいなかったのだ。
この学校の「鉄道旅行クラブ」とは、過去に「鉄道研究会」として活動していたものの一部の鉄道マニアの行き過ぎた濃ゆい活動?で新規の入部者が激減、衰退し、廃部寸前になったため、顧問の先生の英断?でマニア的な要素を徹底的に排除し、「鉄道旅行クラブ」に改名、再出発を果たして、現在に至っていた。
このため私のやりたかった活動(模型製作、写真撮影などを含むマニア的な濃ゆい部分の活動)は徹底的に否定され、クラブでは鉄道などの公共交通を利用した旅行プランを作り、それを元に合宿と称して、みんなで楽しく旅に出かけるだけの活動が推奨されていたのだ。
だが私は、そんなクラブの方針に反発した。
正確には私の背後にいる両親が後押しをしただけなのだが…
でも当時の私は鉄道趣味に関しては誇りを持っており、両親を妄信していたのだ。
「そんなのは差別ですよね?差別を助長するのが、この学校の教育方針なのですか??」
学校で私はそう顧問に迫ると、渋々、マニア的と見なされた活動の再開を同意して貰えた。
だが部内で私に同調する生徒は誰もいなかった。
このため、私は1年生の時から一人ぼっちでコツコツと自分だけの”部活動”を続けた。
文化祭でも周りは仲良く合宿での旅行記を模造紙に書き込んだり冊子などを作る中で、私一人で展示スペースの大部分を使い鉄道模型を走らせるためのレイアウトを作り、壁には旅行記に負けない様に旅先で撮影した様々な鉄道写真を学校の暗室で現像してパネルに貼り、飾ったのだった。
文化祭の来場者(特に小学生以下…)からは、私の展示は好評を博したものの、こうした単独での活動が次第に学校内では悪目立ちをし始めていった。
協調性が無い、根暗、女のクセに気持ち悪いなど、陰では言われ放題だったが、私は気にも止めないフリをしつつ部活動を続けていた。
一方で部活以外で文句を言われない様に、成績は常に学年トップを維持していたが、それが余計に同級生たちを遠ざけていったのかもしれない。
元々、男子生徒が苦手だった私は、ほとんど口を利くことがなかったが、2年生になると、なぜか女子生徒までが私を忌み嫌うように避け始めた。
ある時、私は1年生の時までは、よく話していた同級生女子に思い切って、私のどこが気に入らないのかを聞き出してみた。
そんなに私の鉄道マニアという趣味がいけないことなのか?という思いも込めて。
だが同級生女子からは意外な言葉が返って来た。
「だって美ヶ原さんってさ、女の子らしくないんだよ」
「は?どこが??」
「クラスの女子はみんな、綺麗になることや可愛くなることに一生懸命なのに、美ヶ原さんだけは髪が男の子みたいに短くて身だしなみも全く気にしないよね?それでいて『男子のことは大嫌い!』みたいなバリアーを張っちゃって…結局、誰も近付けなくなっちゃったんだよ。何を話したらいいのかもわからないし、正直、気味悪がる人が増えっちゃったんだよね、女子の間でも。だから私も悪いけれど、今は距離を置かせて貰っているんだ」
「そんな…」
「それに美ヶ原さん、本当は髪を伸ばして女の子らしくすれば、すごく綺麗なのに…最初の頃は女子みんなの憧れだったんだよね…だから部活に打ち込んで、段々と男の子みたいに変わってく美ヶ原さんを見ていて、裏切られた思いの人も多いと思うよ…私も残念に思った」
この同級生は私の中では比較的善良な方の部類だったので、面と向かって言われると、言い返せないくらい納得をしてしまった。
この学校は陽キャラメインの校風で、そもそも文化系クラブは放送部や音楽部などを除けば全般的に根暗趣味と見なされて避けられていたのだ。
だから、鉄道旅行クラブにしても、少しでも陽キャラ生徒を増やそうとした。
私はその流れに一人で逆行していった。
しかも鉄道マニア的な濃ゆい趣味を追求していくと、写真撮影や旅行などでは女の子っぽい服装だと、どうしても浮き上がってしまう。
特に私が中学生になってからは、興味本位なのか、ナンパ目的で声を掛けてくる不貞な大人の男たちの存在で余計に男性が苦手になり、普段着は少年のような恰好に変えて自然と髪は短くなり、日焼け顔も気にならなくなっていった。
その方が鉄道イベントなどの撮影会でも、大勢の男性の中にうまく溶け込んで、私を女の子と気付く人がほとんどいなくなったためだ。
だが、鉄道マニアな活動に特化しすぎた私はいつの間にか学校での居場所を失っていた。
このまま、同じ学校で高校までの残り5年間を過ごすには地獄のような環境で、継続不可能に思えた。
とはいえ、今さら女の子らしく綺麗な恰好をしたところで、鉄道趣味を捨てなければ、より好奇の目に晒されることは確実だったし、勘違いした鉄道趣味の同業男子たちから無用な恋の告白などされたら、それこそ地獄だった。
そして私は決意した。
もう、いっそのこと、女子校に転校しよう…
できればこの学校と違って、陰キャラでも生きられる出来るだけ地味な女子校に…
こうして私は部活動を早々に引退し残りの中学校生活を次に行く高校探しとその勉強、残りの時間は更に鉄道趣味を深化させることに全力を注いだ。
そして今の学校、地味だけど、それなりの進学校である桐友学園女子高校に無事合格した。
当然のことながら、女子校であるこの学校には、鉄道研究会やそれに類する部活動は存在しなかった。
でも部活で中学校の時のような悪目立ちをもうしたくはなかったので、帰宅部に徹することにした。
その一方で、中学での反省から、今度は髪を伸ばして身なりを女子らしく整えて、隙のない女子校生を演じることにした。
もちろん趣味はそのまま継続して、相変わらず鉄道写真を撮影する際は、男装をしている。
最近では、伸ばした髪を誤魔化すため、髪を束ねバンダナを巻きサングラスや付け髭をしてガラの悪いオッサンのような格好に進化していったため、周りの男たちからは、違う意味で避けられるようになっていた。
こうして私は今の学校で安息の場を無事に得られたのだが…この環境が余りにも落ち着きすぎていることに気付いた。
そして学校では気心の知れた程度の友だちすら私にはいない事を認識し驚愕した。
この学校も中学からの一貫校だったのに加えて、友人関係もほぼ部活単位でまとまっていたため、少数派の高校外部入学の生徒たちは皆、慌てて、とにかく何らかの部活に入って、どこかのグループに所属しようと躍起になっていたのだ。
私がそのことに気付いたのは、1年生も終わりごろになってからだったが、すべてが手遅れだった。
これなら、半ば幽霊部員になってでも最初から写真部か美術部くらいには入っておくべきだったか…
次に私は、なるべく同級生たちとの会話に入っていこうと試みたが、昨日見たテレビドラマの話や芸能人の話題、ファッション雑誌の話など、鉄道の趣味以外は政治、経済の話題くらいしか興味のなかった私にとっては未知の領域ばかりだった。
更に私が無理に女性らしい気品ある恰好をしてしまったばかりに、地味な生徒が多いこの学校では、いつの間にか「綺麗系女子高生の代表格」「桐友学園美人ナンバーワン」「孤高な秀才美少女」などと勝手にレッテルを貼られてしまった。
たまに話しかけられる同い年の同級生たちから、
「美ヶ原さん!今日も素敵ですぅ!!」
「美容院はどんなところに通っているんですかぁ?」
「あの…今度、私たちと一緒に写真に撮りませんか?」
などと、まるでアイドルのように敬語まで使われ一段上の扱いまでされると、この学校でごく普通に友だちが出来ることなど、もはや不可能にすら思えて来たのだ。
ただ前の学校に比べれば、十分すぎるほど居心地は良くなったのでまぁ、これでいいかな、とも思った。
こうして私は、学校では孤高な綺麗系アイドル女子高生?を演じ、家に戻るとひたすら趣味の模型や写真に打ち込む日々を送っていた。
そんな状況のまま、2年生になったある日のことだった。
「美ヶ原さん、あとでちょっと話があるんだけどいいかな?」
突然、同級生の一人が声を掛けて来た。
滋味美緒という運動部に所属している地味キャラな女の子で、今まであまり話したことがなかった。
少し前に部活中の事故で生死の境をさ迷ったということを聞いてちょっと心配した程度の間柄だ。
「来てくれてありがとう、美ヶ原さん!」
放課後、待ち合わせの場所に行くと、美緒が既に来て待っていた。
「私は部活もやってないヒマ人だったから別にいいよ…それよりも身体の方は大丈夫なの?」
共通な話題も無かったので、まずは美緒の体調を気遣ってみた。
「うん、ありがとう…部活は当分休むけど、私は大丈夫…で、話っていうのはね…美ヶ原さんに、私とお友だちになって欲しいの!」
「は?なんで、あなたと?」
私にとっては、美緒とは面識こそあったが、どう考えても私とは合わないタイプだと思っていた。
いつも同じ部の仲間と一緒にいて、それ以外の世界には興味すらないものと私は勝手に考えていた。
その美緒がどうして私なんかと友だちに??
意味がわからなかった。
美緒が言うには、高校入学組の私と同じクラスになった時に素敵な人だと思い、いつか仲良くなれたらと考えていたが、部活の事故で生死の境を漂う中、あのまま死んでいたら、永遠にその機会が訪れないことを悟り、学校に来たら最初に私に今の気持ちを伝えようと思ったことなどを静かに語った。
よく生死の境をさ迷った人が、何かを悟って生き方が変わるという話は聞くが、美緒はまるで別人のように性格まで変わってしまったということなのか?
それにしてもなぜ、私なのか?
私は困惑した。
「滋味さんにとって、私のどこがそんなに良いと思ったの?友だちもいない、こんな根暗な私のことを…」
「そんなことない!あなたのそんな孤独も平気で周りに一切媚びない誇り高き姿に私は惹かれたのよ…」
美緒は満面の笑みでそっと私の手を握り、静かに囁いた。
「そう、なんだ…」
私は悟った。
きっと美緒も私の同じように、学校では見せない別の顔を持っているのだろう。
私たち、たぶん同じなんだ。
だからきっと、友だちになれる。
私はそう思って、美緒の手を微笑んで握り返した。
この日、高校に入って、初めての友だちができた…




