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第15話 中年ナンパ師の告白とトオル君の選択

俺、元兼満トオル(46)は、30年前の初恋相手だった女子高生の滋味美緒(16)に転生中だ。

30年前の俺である別人格の高校生のトオル君(16)からの想いをいちおうは受け止めつつ、美緒とは恋仲にならないように且つ、トオル君が自暴自棄にならないように適度な距離感で見守ろうとしていた。


だが過去に失恋で自暴自棄になった俺を北海道で餌食にした女、南波エリがなぜか予定よりも早く東京でトオル君の前に姿を現した。

このままでは、美緒=俺との恋愛が進展せず、自暴自棄になったトオル君がエリと深い関係になった挙句にボロボロに捨てられ最低ナンパ師に進化する、というバッドエンドに向かってまっしぐらだ。


これを阻止しようにも、トオル君と"お友だち"状態が続いている美緒=俺では立場がやや弱かった。

しかも俺は今、エリから、トオル君に思わせぶりで不誠実な対応をしている性悪な女子高生として追い詰められつつあった。

しかもトオル君の方では、美緒が初デートの頃まで会っていた人と中身が違うんじゃないか?ってことに薄々気付き始めているっぽい。

この場を何とか切り抜けないと、いろいろマズイことになりそうだった。


「美緒さん、あなたって解離性同一性障害なんじゃないの?」

心理学を学ぶエリが導き出した結論は、美緒=俺が解離性同一性障害=二重人格者という病ではないか?ということのようだった。

確かに未来の世界からやって来た中年ナンパ師が女子高生に転生した、という結論は普通の人間では考えつかないだろう。


俺は今までの矛盾点の辻褄合わせのため、エリの考えに乗っかろうと思いついた。

既に今までの美緒とは別人格であるということに勘付かれている以上、二人を納得させる”正体”を示す必要があったからだ。

リスクは高いが、俺が転生者という正体がバレて審問官に植物状態で寿命まで眠らされるよりはマシだった。


「あーあ、バレちゃいましたか…さすがにご優秀ですね、エリさんって」

「え?滋味さん…まさか本当に?」

「どうやら観念したみたいね…美緒さん、あなたの話をもっと聞かせてくれない?」

俺は早速、美緒が学校の部活中に心室細動で倒れて、生死の境をさ迷った後に、もう一人の自分=つまり俺の人格が出現したこと、医者にも二重人格が疑われたが、本来の美緒の人格と、なんとか意思疎通をしてうまく誤魔化したことなど、あくまでも美緒の中に発生したもう一つの"疑似人格"のフリをして一部作り話を加えて説明をした。


「でも不思議よね…解離性同一性障害って大抵は、人格が入れ替わっている間は、お互いの記憶が共有されないみたいなんだけどね?」

エリはしつこく食い下がる。

「え?そうなんですか??私の場合はもう一人の人格が出てくる時もうっすらと記憶が残っていたので…」

完全にデマカセだが、嘘の中にも少しずつ本当のことを混ぜながら俺はエリの様子をうかがう…詐欺師が良く使う手だ。

「まあいいわ、確かに症例によっては、そんなことを話す人もいるようだけど…」

そうなんだ、とホッとする俺。

だけどトオル君の反応は違った。


「それじゃあ…僕の知っている美緒さんは今、どこに」

まあ、先代の美緒は既にこの世にいないのだけどね…だけど今、その事実を告げる訳にはいかない。

俺の正体がバレる上に、トオル君のモチベーションがダダ下がりになるだけだ。

「それがね…初デートが終わってから出てこなくなっちゃったんだ…」

とりあえず事実だけは伝えよう。

既に美緒の魂が昇天されたことは伏せて…


「そうなんですか…それって、もしかして僕ともう会いたくなかったから…ということなんでしょうか?」

「そんな訳ない…兼満君との初デートのために彼女は当日、話すことを何度も一生懸命に練習していたんだよ!…だから無事にデートが終わって、ホッとして今は休んじゃっているんじゃないかな…って私は思ってる」

これが嘘だとしても、それは、俺の願望でもあった。

もしかして、どこかで先代の美緒が見守っていて、そのうちにひょっこりと出てきてくれるんじゃないだろうか?と。


「まあ確かに、新しい方の人格だけで、そのまま生活をしている例もあるから、待っていればそのうちに元の人格が出てきてくれるんじゃない?」

「そう…ですよね…」

エリがトオル君を慰めるようにフォローしてくれる。

ありがたいが、この女、何を考えているんだ?


「ところでさ、今の美緒さんって、トオル君の事、どう思っているの?」

俺が警戒をしているとエリは、案の定、核心をついてきた。

なんとかエリの思惑に乗らない様に、うまく話を運んでいかないと、面倒な展開になりそうだ。

間違いなく、エリはトオル君に執着している。


「そう…ですね。私の方は、元の彼女に比べると恋愛そのものにあまり興味を持てないんです」

「なるほどね、それでもあなたがトオル君と関わろうとしているのは、元の美緒さんのためなのかな?」

「もちろん、元の彼女は兼満君に恋してますから、彼女が出てきたら、主導権を渡す予定ですよ」

「それっていつなの?」

「だから、今はそれがわからなくて…」

いや、本当は永久に戻って来ないのだが、エリだけにはトオル君=過去の俺を渡す訳にいかなかった。


「じゃあさ、元の美緒さんの人格が戻ってくるまでの間、私がトオル君と付き合うっていうのはどう?」

エリはトオル君の方に向くと、手をとって囁いた。

「え?」

顔を真っ赤にして驚くトオル君。

「だってそんな中途半端な状況じゃ、寂しいよね、トオル君?」

「いえ…僕は、その…」

「ちょっと待って、トオル君は私と付き合っているのよ!」

ついに本心を露わにしたエリに思わず、テーブルを叩いて反論する俺。

「それって、お友だちとして、でしょ?」

まあ、確かにエリの言う通りだな。

やむを得ず、次の反論を考える俺…あとは。


「そうよ、私はあくまでも友だちとして付き合っているけれど、もう一人の私はカノジョとして、いずれは兼満君と付き合うつもりだったのよ!」

「え?それは本当なんですか?」

トオル君が目を輝かす。

ああ、それだけは間違いなかった、ハズだ、たぶん…


「だから、もう一人が戻ってくるまでは、私は兼満君を誰にも渡さないわ!」

トオル君の表情が更に輝く。

いや、別に俺からコクっている訳じゃないんだから、あまり期待しないでくれよ…


「随分と勝手な言い分ね…それって単にあなたの都合をトオル君に押し付けているだけなんじゃないの?」

全く、エリの言う通りだったが俺としては、エリにとっての時間つぶしの愛欲の犠牲に30年前の俺=トオル君を差し出すつもりは毛頭なかった。

とはいえ、あくまでも選択権は今のトオル君にある。

このため俺は賭けに出ることにした。


「わかったわ…じゃあ、兼満君に選んで貰うのはどうですか?もう一人の私が戻ってくるまでの間、今の私と友だち関係を続けるのと、私と別れてエリさんと交際するのとで」

「え?…それって、つまり僕に今の滋味さんとエリさんのどちらかを選べ…っていうこと?」

「はぁ?何言ってるの?単なるお友だち女子高生と恋人予定の女子大生…トオル君に選択余地はないでしょ?あなた負けを認めたの?」

強気に言い返してくるエリ。


「あ、あのぉ…例えばエリさんがカノジョになっても滋味さんとは友だちのまま、という選択肢はないんですか?」

「ないわ!結果として、兼満君は私でなく、エリさんを選ぶということになるの。私にだって女としてのプライドはあるのよ!」

まあ、ナンパ師の俺に女のプライドなんて全くないのだが…

「そ、そうですよね…」

もしトオル君にエリ以外のカノジョができたのなら、俺は友だちのままでも良かったんだけど、エリだけは、なんとしてでもトオル君からは遠ざけたかった。

エリの色香に溺れたら、今はお堅いトオル君もさすがに理性を失いサル同然になる。

まあ、健全な高校生であれば正常とも言えるのだが、いずれ理性を失うにしても、最初の相手はもう少し奥手の出来れば歳の近い安心な女性を俺が選びたかった…もちろん違う未来の俺にするために。


「で、兼満君はどっちを選ぶのかな?」

「そ…その、今の滋味さんの気持ちを聞いて、正直、僕としては嬉しいんです」

「え?なんで??」

「その…もう一人と違って今の滋味さんが僕に全く興味が無くて、単に曖昧にされているだけなのかと思っていたんですけど、本当は違ったんですね!僕を多少は恋愛対象として意識してくれていたんですよね?…だからどちらかを選べ、なんて言ってくれたんですよね?」

おいおい勘違いするなよ!君が悪女の餌食になって、将来最低ナンパ師に堕ちるのをただ止めたいだけだよ…とは、言えないよな…


「でも…すみません今回は僕、エリさんにとても助けられたんです。だからエリさんとも、お友だち関係ではダメなんでしょうか?」

はあ?ダメに決まっているだろ、エリはトオル君のカラダが目当てなんだから…

でも、これでエリが諦めるのは確実だ。

バイト先の休みも限りがあるし、次のターゲットを探すために、これで身を退く決心がついただろう。

俺は勝利を予想した。

が…

「いいわよぉ、私もお友だちで…」

「はぁ!?」

エリのその答えに俺は驚愕した。

この女、一体何を考えているんだ。


俺が30年前に会ったエリとは別人にでもなったのか?

それとも過去の出来事で何か俺に重大な見落としでも、あったのか?

あったとしても当時、肉欲に溺れたサル状態の俺では何も気付かなかっただけなのかもしれないが…

仕方ない、今後は美緒として冷静にエリを観察していこう。


「そ、それならば大切な女性の友だちが二人も出来たっていうことでどうですか?…もう一人の美緒さんが戻ってくるまでの間、そんな関係が続けられたらいいな、って僕は思うので」

まあ、見掛けだけは派手な美人で思いやりのある女性を演じるエリと、地味だけど顔の整った、それなりに思いやりもありそうな別人格の美緒の二人の女性が身近にいるなんて、当時の俺=友だちすらほとんどいなかったトオル君にとっては、この状況は、あまりにも恵まれた環境なのだろう。


「まあ、兼満君がそういうのなら、私はそれでもいいですけど…エリさんはそれで本当にいいんですか?」

「別に私は友だちでも気にしないわよ、正直トオル君以外にあなたにも興味が出てきたからね、美緒さん、これからはよろしくね!」

「ええ、もちろん私は大丈夫ですけど、もう一人の私が出てきたらなんていうか…」

「それは、その時で考えればいいじゃない?」

「そうですね…」

エリに合わせて冷たく笑う俺。

いっそのこと、先代の美緒が悪霊になって出てきて、エリに祟りでも与えてくれないものか…と思いつつ。

でも、まだこの段階では、トオル君にエリは手を出していないので、良しとするべきなのか…

まあ、この先の展開次第だが、俺が傍で目を光らせている間は、何とか乗り切れるだろう。


「ねえ、そういえば夏休みの予定って何か決まっている?」

唐突に身を乗り出して話しかけるエリ、きっとまた何かを企んでいるな。

「あ、大学受験の勉強しないと、ね?兼満君」

とエリを警戒して返す俺=美緒。

「えー、まだトオル君たち高2じゃない、ちょっとくらい、お姉さんと遊びに行こうよ!」

「え?まあ、ちょっとくらいなら」

やはり押しに弱いな、トオル君。

「じゃあ、私もついて行きますけど、いいですか?」

二人きりでお出かけなんてさせるものかと思った俺は、思わず口を挟む。

「もちろん、いいわよ、で、私のオススメの場所なんだけど…」

「エリさんのオススメって?」

「北海道!…どうかな?」


やはり北海道…か。

「えー、北海道かぁ…遠くないですか?うちは親が厳しいんで長期の旅行は…」

「滋味さんの家って、厳しそうだよね…」

とりあえず、俺がエリに牽制を試みると、トオル君も乗って来た。

いい流れだ。だが…


「あ、でも僕はいつか一人旅で北海道に行ってみたかったんです!」

おいおい、トオル君、そこで流れを変えるなよ…

「じゃあさ、美緒さんが難しければ、トオル君と二人で行っちゃおうか?」

「え…さすがにそれは…」


それはさすがにマズイ!…エリにもれなく餌食にされるぞ、トオル君!

ええい、仕方ない!こうなったら俺も行くか…

「じゃあ、私も親をなんとか説得してみますよ…」

「滋味さん、いいんですか?」

「よし!みんなで楽しく北海道旅行に行こう!」

ノリノリのエリ。

目を輝かせるトオル君。


まあトオル君にとっては、派手系女子大生と地味系女子高生二人に囲まれての青春ラブコメみたいな展開だが、その中身は、ドロドロな愛欲大好き悪女と史上最低の中年ナンパ師だ。

俺には地獄の旅行にしか見えないのだが…


これは何とか次の手を打たねば…

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