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第14話 派手系JDの望み

私は南波エリ、早智大学の4年生。

出身は北陸地方にある海の良く見える場所。

子どもの頃は、春先の海から浮かび上がる独特な景色…蜃気楼を眺めるのが大好きだった。

海から浮かび上がる現実には存在しない幻の風景は、日ごろの面倒事を全てを忘れさせてくれた。

でも、いつまでも幻にばかりに頼れなかった。


初めて恋をした相手は、地元の中学校の同級生で片想いだった。

眼鏡の似合う知的な彼は、勉強が出来て気配り上手なクラスの人気者だった。

当時の私は、少しでも彼に近付くために勉強を一生懸命に頑張った。


そして学年トップの成績を彼と争うことで、顔と名前も自然に覚えて貰い、挨拶くらいは交わせる関係になった。

あとは更に一歩前進して彼との関係を深められるのではないか…そう考えていたある日、彼にカノジョが出来た事を知った。


相手は同じクラスの地味な女の子。

特に勉強が得意だった訳ではなかったし、ルックスでいえば明らかに私の方が上だった。

一体、そんな女子のどこに彼が惹かれたのだろう?

私は失恋のショックから早く立ち直れるために、彼に思い切って聞いてみた。


「そうだなぁ、彼女といるとなんだか落ち着けるんだよ…」

はぁ?たった、それだけの理由で??

私は彼に裏切られた気持ちになった。

なぜ、いつも傍にいた私が見向きもされなかったのか?

そんなに落ち着きたければ、勉強なんかしないで、どこかでカノジョとのんびり過ごせばいいのに!

彼なんて私の視界から消えてしまえばいいのに、とさえ思った。


そして、それが現実となった。

彼はカノジョと県内の中堅高校に共に進み、卒業と同時に家業を継いで結婚したのだ。

私は県内トップの進学校に進み、ひたすら勉強を続けた。

早く彼の存在を自分の中から消し去るために…


このため大学も地元から離れた東京の大学を目指して受験をした。

親からは地元の大学への進学を望まれたが、私は断固として拒否し、私学のトップ校である早智大学に合格したことで、親への説得はできた。

ただ私の家は裕福な部類ではなかったので学費や仕送りは最低限に抑えられ、あとはアルバイトをしながら自活をしていくしか道がなかった。

しかも地元では優等生として持て囃されていた私も日本中から秀才が集まるこの大学では、すぐに埋もれてしまった。


私は今、何のためにここにいるんだろう?

そんな漠然とした思いで日常に埋没していくことに私は恐怖心すら覚えた。

そのため私は懸命に自分の居場所を探し大学のサークルやバイト先をさ迷った。

だがそんな不安定な時に、決して良い縁なんて生まれない。


「俺が話を聞いてあげるよ」

そう囁いて私に近付いてきたサークルの先輩は、早い話が人間のクズのような男だった。

男女の交際に対して全くの初心者だった私は、そのことを見抜けず、その先輩と恋に落ちた。

先輩は最初こそ優しく振舞っていたが、大学の授業にもロクに出ないで私のアパートに転がり込むと、容赦なく搾取を行い、抵抗すると暴力さえも振るうようになった。

気付けば、私は身体も心も財産も、そして生活基盤さえも…全てを先輩に奪いとられていた。


そして先輩が私名義で作った借金の返済と自分自身の生活費を稼ぐため、私は夜の店で働くしか道が無くなっていたが、幸い?にも勤めていたお店の伝手で、その筋(所謂、反社会的勢力?)の方に介入して貰い、ようやく先輩は姿を消してくれた(生死不明)のだった。


そんなこともあったけど、銀座の高級クラブで働くようになってからは、社会的地位のあるお客さんとの関わりや会話から得られる様々な知見は私を賢く変えていった。

最初は生き残っていくために得ていた知見が、徐々に生活を向上させ、次第に財産を築き上げていく知見へと進化していった。


そして次に考えたのは、より高みを目指すために自分を磨いて更に魅力が増すためには何が必要なのか?

得られた結論は、外見だけでなく様々な知識や話術を基本としたコミュニケーションスキルも向上させること。

このような思考は学校の勉強だけでは決して得られない経験に基づくものだった。


気付けば最初は、いいように弄ばれていた男女の関係も逆転して、いつの間にか多くの男性を虜にするような術が我が身についていた。

ホステスとしての収入以外にも特定の裕福なお客さん複数と個人的な繋がり(まあ、愛人ともいうけれど)も深めて、私自身もかなり贅沢な生活を送れるようにもなってきた。


全てが順風満帆で充実した生活を送れていた。

だけど…私の人生って、これで本当によかったの?

大学も何とか留年せずに4年生まで進級できた時、ふと立ち止まって考えてみたくなった。

結局、私にとって東京という街での学生生活は、思い通りにならなかった地元での惨めな記憶から逃れるための現実逃避の場所…そう蜃気楼のような存在だったことに気付いたからなのかも知れなかった。


そんな時だった。

新緑の時期のある日の事、大学に向かう途中の道に占い師のおじいさんが机を出して座っている姿が目に入った。

どうして、わざわざ歩道も無い道端に大きな事務机を出して、あの占い師は座っているのだろう?

あまりの不自然さに思わず立ち止まる私。


「あ、みて差し上げましょうか?」

声を掛けてきた占い師は顔面が白い髭で覆われて、山高帽を深々と被り顔がよくわからなかった。

どうみても胡散臭そう…そう思って立ち去ろうとする私に、

「あなた…今、人生の転換点に立っていらっしゃいますよ…」

と言われて、思わず歩みを止めて、占い師の方を振り返る。

普段なら、こんな怪しい男は絶対にスルーするのだが、何故だかこの時、魔法にかけられたかのように勝手に身体が動いて占い師の前に立ち止まる私。


「あの、どのように変わるのでしょうか?」

思わず聞いてしまう私。

占い師は怪しく微笑んで私の前に手を差し出す。

「ここから先は鑑定料を頂く事になりますが…」

占い師が机の上に書かれた料金表を指さした。

「い…一万円?!高くないですか??」

「これで、あなたが望む幸運が訪れるのなら、お安いものでしょう?」

「私の幸運って?…今でも十分、生活は充実しているわよ」

「ククク…本当にそれがあなたにとっての幸運なのでしょうかね?」

占い師は痛いところを突いてくる。


「私には、あなたが本当に望んでいるものが見えるのです…」

「それは何?…答えによっては出してもいいわよ?」

私は財布から、1万円札を取り出して占い師にちらつかせる。

占い師はニヤリとほくそ笑むと静かに言った。

「それは真実の愛…」


「はぁ?バカにしてるの?男は間に合ってるのよ…」

私がお札を財布に仕舞い掛けると、

「それは残念…私があなたに示したいのは、今の偽りの恋愛ゲームではなく、あなたが昔から望んでいた本物の恋愛が手に入るかもしれない、というものなのですよ?」


本物の恋愛?…それって私が中学時代に封印してしまった、あの想いのことなの?

「く、くわしく聞かせて!」

私は占い師の前にお札を置いた。

「まいど!」


占い師が言うには、これから夏にかけて私の運命が大きく動く。

だから長期の旅行に向かうと良い出会いが待ち受けている、らしかった。

この占い師は旅行会社の回し者か?と最初は思ったのだが、場所は北海道で、鉄道を使った一人旅を続けると、そこで私好みのメガネが似合う高校生の男の子に出会って恋に落ちるのだと具体的な内容だった。

なんで私の好みまでわかるんだ?

この占い師、やはり本物なのか?

半信半疑だったが、ちょうど私も将来の進路を決めたかったため、ホステスの仕事をしばらく休もうかと考え始めていたところだった。


私は思い切って店に長期で夏休みをとる交渉をして、お盆前後であれば、まとめて1か月くらいの休みを貰えることになった。

意外と簡単に休みをとれたのは不思議だったが、やはり人生の転換点だからなのか?

あとはいつ北海道に行って、どの列車に乗れば良いのか?など、あの占い師から詳しく聞き出そうと思ったが、それきり私の前に姿を現さなかった。


もしかして単なる冷やかしだったのだろうか?…梅雨の季節に入り、落ち込みかけていたある日、占い師がいつもの道路脇にいるのを見付けて、私は思わず駆け寄った。

「あの…この前の話の続きを聞きたくて!」

「ああ、ちょうど、あなたにお会いしたいと思っていたところでした」

それはこちらのセリフだ、と私が言い返そうとしたところ、

「こちらが予測していた運命の歯車に少々狂いが生じてまして…」

「はぁ?」

私は愕然とした。

それって私の人生の転換点が変わるって意味?

冗談じゃない、金返せ!と思う私だったが、占い師の話では、私が出会うべき運命の男の子の側で何らかの事情で違う運気に引っ張られている…らしかった。


「どういうこと?」

「まあ、ひらたくいえば他の女性の影が現れて、もしかすると彼はこのまま北海道に行くことが無くなりそう…という状況になってまして」

ふざけるな、私の方は休みを取ってまで、その出会いに賭けたのに…

「ですので、どうでしょう?その運命の彼と、もっと前倒しで出会ってみるというのは?」

「はぁ?運命の出会いの前倒しって??そんなこと本当に出来るの?」

「はい、もちろんです。それも近日中に、この東京で…」

「どこに行けば会えるの?」

「それは…」

占い師は黙って料金表を指さす。

「今日は5千円?あぁ、値下げをしたのね…」

「はい、当方の手違いのお詫びも兼ねまして」

一瞬、この占い師は単なる詐欺師ではないか?と疑ったが、乗りかけた船だ。

これで出会えずに騙されたら、次を考えればよい。

どちらにせよ、これが大学生活最後の夏なのだから。


私は占い師の示した方向…本がたくさん置いてある場所(たぶん図書館のこと?)にその週末の午後向かったのだった。

中央図書館と呼ばれている建物の閲覧室に入ると既にたくさんの人が座っている。

本当にこの中に"彼"はいるのだろうか?

半信半疑で見渡す私。

だが、すぐに気付いた。

あ、あれか…あれが、その”彼”か!


ノートを開いて深刻そうな顔をしているメガネ姿の高校生。

どこか、中学時代に片想いをしていた彼に似ている。

私は胸の鼓動の高まりを感じながら”彼”の座る机に向かう。

そして私は"運命"を信じて"彼"の前に思い切って座った!


「え?」

驚く彼に私は思い切って、微笑みかける。

「君、なんでさっきから、そんなに辛い顔してるの?」

水商売で培った私のコミュニケーション能力で最初はドギマギしていた"彼"、兼満トオル君は徐々にリラックスして話せるようになり、いろいろと話を聞き出せるようになっていった。


そして今、トオル君が気になっている女性との関係がうまくいっていないことを打ち明けてきた。

ちょっぴり妬けたけど、これが占い師の言う"女の影”というならば、私はこれを取り払ってトオル君と付き合い始めればいいだけではないのか?と思い、親身になって相談に乗ることにした。

私は将来、カウンセラーを目指した時期もあったので、人の話を聞いたり、その人物を分析することが好きでもあり得意だったからだ。


だけど…と私は思った。

トオル君の想い人、滋味美緒なる女性が彼の話を聞けば聞くほど、よくわかなくなってきた。

トオル君と美緒との運命の出会いから、初デート、その後の手紙のやりとりまで詳細を根掘り葉掘り聞き出した後にプロファイルを試みたのだが…

まるで一貫性が無い。

強いて言えば、異性慣れしていない乙女な女子高生と、異性慣れした手練れの恋のハンター?の二人がいるんじゃないだろうか?美緒という女の中には??


今までバイトも含めて私が関わって来た多くのクセのある人たちと照合してみても、一人の人物として絞り込むには無理がある。

まさか二重人格者?そう思うと美緒にも私は興味が湧いてきた。

こうなったら私も美緒に会ってみよう!


私がデートに同席することに最初は驚いたトオル君だったが、今、彼が頼れるのは私しかいない事は明らかなので、すぐに同意してくれた。

やはりトオル君は初心だが頭の切り替えが早い…中学時代の彼みたいに…


デート当日、トオル君と事前に待ち合わせると、

「あの…なんでエリさんは僕のためにここまで…」

神妙な面持ちのトオル君が可愛らしい。

絶対に私のものにしてやると心に誓った。


隣のボックス席に移動後、しばらくして現れた美緒という女性を確認する。

何よ、本当に見かけは地味ね…私は中学時代に彼を奪い取った地味な同級生を思い出して腹が立った。

今度こそは負けるものか!と。


そうしているうちに美緒は、私の話を出してトオル君を揺さぶり始めた。

「で、誰なの?兼満君と一緒に私を試すような悪巧みを考えたのは?」

わざわざ、大きな声で私に聞こえるように。


それも嫉妬から来る怒りの声ではない。

美緒からは余裕すら感じた。

それが、いかにも初心で異性慣れしていない外見の女子高生の態度か?

大した手練れね、と思いながら私は覚悟を決めて、立ち上がる。


「はじめまして、南波エリって言います」

美緒にそう微笑みかけると驚いたように私を睨みつけた。

「どうして、あなたがここにいるんですか?」

何よ、知り合いみたいに言わないでよ!

あなたに会うのは今日が初めてでしょ?

まあいい…

私はこれから滋味美緒という異物と対峙して追い詰め、その化けの皮を剝がすのだ。

そしてトオル君を私のものにする。

それが今の私の望み…


「ククク…南波エリさん、なかなかいい仕事をしますね。この先も楽しみですよ」

遠くで様子を伺っていた審問官は立ち上がって店から立ち去ろうとしていたが、いつの間にか顔面は髭だらけになり、山高帽を被ると、あの占い師の姿に変身をしていた。

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