第13話 中年ナンパ師vs派手系JD
俺、元兼満トオル46歳は紆余曲折あって30年前の時間軸に移った上で、当時の初恋相手だった滋味美緒16歳に転生中だ。
美緒からの引継ぎで30年前の俺(兼満トオル16歳)とのデートを継続することまでは合意したが、友だち以上の関係にはならないつもりだった。
今、俺はこの転生で美緒としての人生やり直しよりも、30年前の俺が将来、最低ナンパ師にならないように育てる?ことを優先させている。
その方が志半ばで世を去った、先代の美緒への供養にもなるし、前世の俺が美緒への勘違い失恋でねじ曲がった性格のせいで、その後たくさんの女性を弄んでしまった罪への償いになるような思いがあったからだ。
だから今はトオル君が、美緒以外の女性と出会って健全な交際が出来るようなるまで"友人"として全力でサポートをしようとしていた。
当初はトオル君が前世ではなかった図書館で女子大生と知り合うというイベント?が発生したため今後、恋に落ちた場合は応援しようと考えていたのだが…
だが俺は徐々に、この女子大生の存在に何か違和感を持ち始めていた。
トオル君に女性との恋の駆け引きなど、ナンパ師になるための手ほどきをしているようにしか思えなかったからだ。
このため俺はなるべく早めにトオル君に会って、この女子大生の正体を見極めようと試みることにした。
一方の女子大生の方でも俺のことを探ろうとしていたようだった。
そして俺の目の前に現れたその女子大生は南波エリと名乗ったが、その女性は、前世の俺にとっては初めて交際した女性、エリだったのだ…
これは一体、どういうことだ?
「どうして、あなたがここにいるんですか?」
美緒になった俺は、驚きながらも冷静を装って、エリの出方を探ろうとした。
「どうしてって?困っている”友だち”を助けようと思ったからに決まっているでしょ?」
「そうですか…”お友だち”ですか?」
「そうよ、今のところは…だけどね」
エリは不敵な笑みを浮かべながら答える。
前世の俺は夏休みに失恋旅行で北海道に行き、そこでエリに出会った。
その後、彼女に口説き落とされて、俺の"初めて"を全てエリに捧げた挙句に弄ばれ、振られてしまったのだ。
高校2年生の2度の手痛い失恋で俺の性格は完全にねじ曲がり、最低ナンパ師として見事に成長?してしまったのだ。
そのため今回は俺が美緒という”異性の友人”として、トオル君をサポートし最低ナンパ師にならないように阻止を試みている。
これにより手痛い失恋をしない予定の今のトオル君は夏休みに北海道へ行かずに、エリとも出会うことがないハズだった。
だが今回は予定よりも早い夏休み前にトオル君とエリが東京で出会ってしまった。
やはり歴史の流れには逆らえないのだろうか?
「今のところ…って、まさか兼満君と付き合おうと考えているんですか?」
「まあそうかもね、あなた次第…かな、美緒さん?」
トオル君の前に素敵な異性の相手が現れたら、すぐにでも身を退こうと考えていた俺だったが、相手がエリなら事情が変わってくる。
恐らく俺がここでトオル君から退けば、エリが美緒にとって代わるのは明らかだった。
そして同じ歴史が繰り返されて、肉欲に溺れた挙句にボロボロになって捨てられるトオル君の姿が容易に想像できた。
冗談じゃない…その事態だけは、なんとしても避けたかった。
そのためにも、まずはエリの企みを探る事が優先だ。
「でも不思議ですよね?あなたのような派手で大人な女性がなんでわざわざ、私たちみたいな高校生に手を出すのか?なんてね…」
俺が北海道で出会った時のエリは男だったら誰でも良かったハズなのに…今回は、なんでわざわざ図書館にまで現れて、トオル君にちょっかいを出そうと思ったのか…俺には疑問でしかなかった。
そもそもトオル君とエリとは5つも歳が離れている、成人が高校生に手を出すのは、前世の二十一世紀では漏れなく犯罪だったが、二十世紀のこの時代でも世間的には許されない事案だ。
「私も不思議よ、なんでトオル君みたいな高学歴のイケてる男の子が、わざわざ、あなたみたいな地味で平凡な子に恋をしているのか?ってね」
俺は思わず頭に血が昇った。
悪いかよ、エリのような恋多き女よりも、地味でも真っ直ぐに生きた美緒の方が数段良いに決まっているだろ!
俺はそう叫びたくなったが、正体がバレたらまずい(審問官に植物状態で眠らされる)ので、ここは堪えた。
「まあ、確かに私は地味かもしれませんが、あなたのような、ド派手なキャバ嬢みたいな女性がトオル君に相応しいとも思えないですけどね?」
「はぁ?…なに人を見掛けだけで判断してるのよ!失礼ね!!」
今まで余裕の表情だったエリが”、キャバ嬢”というキーワードに露骨に反応した。
「え?違ったんですか??それだけブランドもので固めていたので、てっきり六本木あたりで、ご活躍をされている方なのかなぁ…と思って」
一人暮らしの女子大生が持つには身分不相応なブランド服やバッグなどで身を固めたエリを普通の大学生と思うには無理があるだろう…当時、高校生だった俺では全く気付かずに騙された訳だが…
「違うわよ、あんな下品な連中と一緒にしないで!」
まあ確かに銀座高級クラブのホステス(※ただしヘルプ)のエリにとっては、六本木のキャバクラ嬢と一緒にされるとプライドを傷つけられたのだろう。
客層は確かに違うかもしれないが、傍から見れば、水商売の女の違いなんてわからないと思うのだが…
「失礼しました…じゃあ銀座で働くホステスさん?でしたか?」
「そうよ…それが何だっていうの?」
エリという女性は悪女だが、嘘だけはつけない正直な性格だった。
だから昔の俺は、彼女の良い面しか見えずに騙された訳なのだが…
「いえいえ、やはり大人の女性なんだ、素敵だなぁ…って思って…そりゃあ、私みたいな女子高生じゃ、子ども扱いされても仕方ないのかな、って」
「え?エリさんって、水商売の人…なんですか??」
きょとんとした顔でトオル君がエリの方を見る。
「違うのよ…本当は、ちょっとバイトでお手伝いをしているだけなの…」
まあこれも正しいな…銀座の高級クラブでは学生バイトはヘルプと言われ、月々の売り上げを担当別で計上して収入が決まるホステスさんたちとは明確に区別され、日割りで定額の給料を貰う場合がほとんどだった。
それでも当時で実働3~4時間で3~4万円の日給は貰っていたので、十分にお高い給料ではあったが…
もちろん六本木などのキャバクラ嬢は指名による歩合制なので、学生バイトでも売れっ子嬢はそれ以上に稼いではいたが、それ以外の場所で今一つの売り上げの店だと時給2~3千円で軽く倍の時間は働かされていたので、確かにクラブホステスとキャバ嬢は明確に違うのだが…まあ正直どうでもいいことだが。
そもそも、なんで俺がそんな事を知っていたかって?
最低ナンパ師と呼ばれた俺の最初のターゲットが水商売の女たちだったからだ。
もちろん俺を捨てたエリへの復讐の代わりとして、いろいろと彼女たちの生活を事前に調べ上げたのだった。
そして知ったのは、給料は良くてもノルマは下手なブラック企業の営業よりもキツくて相当にしんどい職業だってことだった。
だが当時の俺は、彼女たちに同情するよりも、いかに弄んで捨てるか…しか考えていなかった。
…本当に最低な男だった。
「でも水商売は水商売…ですよね?やっぱり凄いですね!男女の駆引きなんかもお手の物ですよね?」
更に追い打ちをかける俺。
容赦なくエリを打ちのめして、このままトオル君の前から退場して貰いたかった。
「そう…ね、まあ、あなたみたいな女子校育ちのお嬢様よりは、ね」
徐々に涙目に変わるエリ…やっぱりこの段階ではトオル君には自分の正体を知られたくなかったんだろうな、俺は心の中でガッツポーズをした。
当のトオル君は、この場の険悪な空気をどう取り繕うかとオロオロしている。
だが、冷静さを取り戻しつつあったエリは俺に対して反撃に転じた。
「ところで、あなたって本当に女子高生なの??」
エリは疑うような眼差しで俺のことを睨みつける。
「え?私、どうみても女子高生ですよ」
俺は思わず生徒手帳に載っている美緒の学生証を取り出して、エリに見せつける。
「私が言いたいのはさ、そこじゃないの…」
学生証を一瞥するとエリは頬杖を付きながら更に睨みつけた。
「今まで勉強でもお仕事でも、いろんな人を見て来たんだけどね、私…でさ、あなたって何か変なのよ」
「え?…私、地味で普通の高校生ですよ…」
エリは大学で心理学を専攻していて、確かあの頃は目を輝かせながら将来はカウンセラーになるんだ、とか当時の俺には言っていたよな…結局のところ、プロのホステスとして銀座の高級クラブへ流れ就職をしたのだったが。
だがエリの人を見る目は、学生時代の勉学と水商売で確かに極めたようだった。
そんなエリが俺のことを本気で分析すると、まさか俺の正体がバレてしまう?…訳はないよな。
さすがに心理学のエキスパートでもあるエリが、美緒の中身が30年後のトオルで中年ナンパ師だったと気付くことは、まずあり得ないと考えていたが、万が一でもバレたら俺は即、植物状態だ。
それだけは避けなければ、と俺が警戒をしていると、
「あの…ちょっといいですか?」
完全に存在を忘れ去られたようになっていたトオル君が手を挙げた。
「僕にとってはその、エリさんや滋味さんがどんな方なのか、ということよりも僕のことをどう思っているのか、の方が重要なんですけど…」
まあ、確かにトオル君の言うとおりだ。
うまく話の流れが変わったので、俺の正体は有耶無耶に出来そうだった。
「私は前にも言ったように、まずは良きお友だちからって思っているわ」
「で、彼はその先のことを知りたがっているの、ね?トオル君」
主導権をとって上から目線で俺を詰めようとするエリと横で頷くトオル君。
くそっ、やはりエリは俺の正体を暴くつもりか…
「そもそも美緒さん、だっけ?あなたは彼のことを本当に好きなの?」
しかもエリに、かなりイタイところを突かれた。
はい、本当にトオル君を好きだったのは、先代の美緒さんであって俺ではありません…俺はトオル君の30年後の成れの果て、です。
などと、本当のことは言えないし…
「今は、正直わからなくなって来たんです…」
俺はそう言って誤魔化すしかなかった。
俺自身、自分の事が本当に好きか?なんて聞かれたら、あんまり好きではないだろうし…
「本当に?」
更にエリの顔が俺の間近に迫って来る。
いや、マジに怖いんだけど…
そう思っていたら、エリはクルリとトオル君の方に顔を向けた。
「ねえトオル君、今、私の目の前にいる美緒さんってさ、どっちの美緒さんだと思う??」
え?何を言ってるんだ、エリは?
「そうですね…初デートからは…その、ずーっと、テキパキとしている滋味さんの方だと思います」
「なーるほどね…」
え?何がなーるほど??
まさかトオル君まで俺の正体に勘付いているということなのか?
「私ね…トオル君と話していて気付いたの。美緒さん、あなたって解離性同一性障害なんじゃないの?」
「は?何ですか、それ?」
「まあ、世間では二重人格者って呼ばれているけどね」
そうかなるほど…美緒と俺が入れ替わっていた現象って、傍から合理性のつく説明をしようとすると、二重人格=解離性同一性障害ということになるのか!
なるほど…
俺はこの局面を切り抜けるため、ある作戦を思いついた。
本当にうまくいくかは解らないが、今までどのような修羅場も切り抜けてきた俺の最低ナンパ師スキルを使って…あとは実行あるのみ…




