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第12話 高校生トオル君の恋の悩み

僕、兼満トオル16歳、現在は開明高校2年生で最近、友だち以上恋人未満の関係だが初めて異性の知り合い?が出来た。

名前は滋味美緒さんという桐友女子高校に通う同じ16歳で2年生だ。


出会いは電車の中での偶然のハプニング。

そしてお互いの家が近くだったため一緒に通学をする中で、お互いに惹かれあっていった…筈だったのだが…

僕の家の引っ越し後に誘った初デートで大きく、しくじってしまった…


今まで電車の中でしか会っていなかったので、いきなり喫茶店での二人きりという場面で、僕は緊張のあまり上手にコミュニケーションをとることが出来ず、かなり気まずい雰囲気になってしまったのだ。

幸い、彼女の機転で連絡先を交換するところまで盛り上がることは出来たのだが、そのことで僕に対して彼女は幻滅をしてしまったのではないか?


しばらくの間は、友だち関係でいよう、というペナルティー?を科された意味って何なんだろう?

美緒さんとしては、幻滅した僕をいきなり振るのも可哀そうだから…と単に執行猶予期間を設けただけではないのだろうか?というネガティブな考えばかり浮かんで、考えれば考えるほど、僕は自己嫌悪に陥った。


このような状況下でも僕が出来る唯一のことといえば、手紙を書くことだった。

ただ、ひたすらに僕という人間をもっと知って欲しい、という思いで手紙を書き続けた。


ただし字がかなり下手くそな僕。

やむを得ずワープロ(筆者注:ワードプロセッサーの略で、パソコン=PCがまだまだ高価な時代、文書作成を担ったプリンター内蔵の専用機械で現代では、ほぼ消え去っている前世紀の遺物)を使っていたのだが…彼女にはワープロの手紙では冷たく感じてしまわないだろうか?と一抹の不安を覚えていた。


ワープロは父の書斎にある家族共有のものを使用。

ただし家族に見せたくないので、手紙を書いた証拠すら残さぬよう、データ用のフロッピーディスクやインクリボンカセット(筆者注:これもワープロや古いPCを動かすために存在した前世紀の遺物のような消耗品)まで密かに購入して、自分の部屋に隠していた。


とはいえ両親は共働きで弟は塾に通っているため、平日、この家にいるのは僕だけだった。

昔は祖父母も家に居たのだが、今は祖父は亡くなり、祖母は老人病が進んで専門の施設に入っていた。

このため幼い頃から祖父母に可愛がられていた僕にとっては、今の家はあまり居心地が良くなかった。

母は弟の方だけを可愛がり、父は仕事一筋で家族には無関心だった。


普段、両親と弟が夜遅くに帰宅するまでの間、この広い家を占有できたが、土日は家族が揃っていることが多かった。

このため土日になると昼間、家族が揃っている時間帯に僕はたまに図書館に出かけていた。

だが、最近では毎週土日、決まって図書館に向かっている。

きっかけは、弟から美緒さんのことを尋ねられたからだ。


「トオル兄さん、ちょっといい?」

「何?」

それは手紙のやりとりを始めて間もない日曜日の昼間だった。

小学校6年生の弟、サトルが言いづらそうに僕に近寄って来た。


「あのさ…兄さんにカノジョが出来たって本当?」

「え?誰がそんなこと??」

「母さんがね…なんか女の人から兄さん宛に手紙が来るって、気にしてた」

僕にほとんど関心を示さなかった母がそんな反応をするなんて正直驚きだったが、

「へえ…”あの人”もいちおう気にするんだ」

僕にとっては愛情の薄い母は親というよりは、ただの同居人という印象だったので、普段から”あの人”と呼んでいる。

そんな母でも息子に異性の知り合いができることは気にかかることなんだろうか?


「別にカノジョっていう訳でもない、単なる女友だちだよ…それで母さんは何か言ってた?」

とりあえず僕は事実を告げるのみだった。

本心ではカノジョみたいなのが出来たんだ!と自慢はしたかったのだが…自信が無かった。


「うん…『これから僕が中学受験なのに兄さんが女の子なんかと変な関係になるのは迷惑だ』って」

「え…」

僕は絶句した。

やはり"あの人"らしいな…母にとって弟の将来は案じても僕の事なんて、やはり興味がないのだ。

分かっていたこととは言え、この現実は僕にとっては、ちょっと辛い…


「で、サトルは、そのことについて僕に文句を言いに来たってこと?」

僕はサトルを睨め付けた。

その向こう側にいる”あの人”=母を睨みつけるように。


サトルはハッとして、首を横に振った。

「ち、違うよ…僕はどうしたらカノジョが出来るようになるのか、それが知りたかっただけなんだよ!」

「え?なんで??」

サトルの意外な答えに僕はきょとんとした。

「ちょっと塾で、気になる子ができて…」

そう言って、顔を真っ赤にして俯くサトル。


そうだった、サトルは僕以上に純情で、まだ11歳の子どもだ。

懐くとまでは言わないものの、両親よりも僕との関係は、比較的良好だった。

「だからトオル兄さんに相談に乗って欲しくなって…」

「ゴメンよサトル、本当にまだカノジョじゃないんだ…」

「そうなの?カノジョでもない人から、わざわざ手紙なんて来るの??」

そう言われると、まあ、その通りなのだが…


「もちろん今はカノジョではないけど、いずれは、お付き合いできたらと思って今、一生懸命に努力をしている…だからさ、もしお付き合いができたら、その時はサトルの相談に乗るよ!」

「本当に?じゃあ僕も兄さんを応援しているから頑張ってね!」

「ああ、ありがとう」

家族で唯一、弟にだけは応援をされ、僕は少しだけ嬉しくなった。

が、その後、サトルと顔を合わす度に応援をされるのが何とも辛くなり、良い結果が出るまでは図書館に籠ろうと心に決めたのだった。



図書館は自宅から自転車で20分程の距離にある中央図書館を使っていた。

広い公園の中の静かな場所に建っていて、上のフロアの閲覧エリアが広くて僕はこの場所が気に入っている。


手頃な閲覧席を見付けると腰かけた僕は手紙の下書き用ノートを開いた。

本当ならワープロ本体を持ち込みたいくらいだが、家のワープロは15kg以上の重さがあり、しかも電源が無いと動かない旧式だ。

いずれは持ち運びが便利なバッテリーでも動くノートPCをお金を貯めて買いたいところなのだが、30万円以上するものなので、高校生の僕では、まだまだ先のことになりそうだ。

しかも〇太郎などのワープロソフトやプリンターまで買うとなると、いくらになることやら…

そんな訳でしばらくは旧式のワープロ専用機で我慢だ。


まあ、そもそも僕の字が人に読んでもらえる程度に綺麗だったなら、手書きがいちばんであることは間違えないのだが…

もしかして美緒さんからの返事が少ないのも、やはりワープロの手紙があまりにも素気ないから、なのだとすると、僕の努力は徒労に終わっているだけなのかもしれない。

…またしても、ネガティブな思考になっているな、と僕は大きく溜息をつきながら閲覧テーブルに突っ伏した。


「君、なんでさっきから、そんなに辛い顔してるの?」

不意に声をかけられた僕は思わず起き上がって正面を見た。

いつの間にか僕の目の前に綺麗な女性が座って微笑んでいる。

年齢は二十代の前半といったところだろうか?

図書館に来るには不似合いな洒落た服装の大人な女性だった。


「え?と…僕の知り合いでしたっけ?」

「うん、たった今からそうだよ!」

明るくそう答えた、難波エリと名乗る女性は僕と同じように時々、図書館で勉強などをして時間を潰しているとのことだった。


こんなに綺麗な人がしかも着飾って、いきなり僕に話しかけて来るなんて何か、おかしい。

もしかしたら壺を買わされたり、怪しいセミナーに連れて行かれたりするんじゃないだろうか?と最初は警戒をしていた僕だったが、話しているうちに自然と打ち解けて、いつの間にか美緒さんとの微妙な現状をエリさんに打ち明ける羽目になってしまったのだ。


エリさんは僕とは違い、異性に対しても、それなりに経験が豊富みたいで、僕の話を親身になって聞いてくれた。

「でも結局のところ僕って、なんの取柄もなくて…だからもう、彼女から振られても仕方ないんじゃないかな、って諦めているんです…」

僕は弱気になっていた。

初対面の人に僕は一体、何を曝け出しているんだろう。

「トオル君、恋愛こそが人を成長させる原動力なの!ここで弱気になったらダメよ!」


エリさんは、そっと僕の肩に手を置いた。

「君、十分、魅力的だな…って私は思うよ。その子は君の価値に気付いてすらないんだよ」

「え?」

「だって、お互いに男子校、女子校で異性に慣れていないんでしょ?よくある話よ、単に電車に乗り合わせて偶然トラブルに巻き込まれたのを運命の出会いだって、最初は盛り上がっただけなんでしょ?」

「最初は、そうかも、ですね…」

「で、いざ二人きりで会ってみたら、そうでもなかったって一気に冷めただけなのよ」

「そんな…でも、そうなのかも」

「でもね、本当の恋って、そんな呆気なく終わるものでもないのよ」

「え?そうなんですか??」

「そう、もっと互いの事が気になって、知れば知るほど、話せば話すほど、その気持ちが深まっていくの」

「そう…なんですね。僕たちの方は残念ながら、そこまでの関係になってないです」


「それはね、若すぎたんだよ、お互いが…だからさ、君の方がもっと先に大人にならないと」

「大人?…なれるでしょうか?こんな僕が…」

「もっと自分に自信持ちなさい…そうだ、私がさ、もっと君に自信を持たせてあがるよ!」

「どうやって?」

「大人の私に任せなさい!」


エリさんは笑顔でウインクをすると早速、作戦を立ててくれた。

僕はエリさんのアドバイスに従い、美緒さんへの手紙にエリさんとの出会いを書き込んでみた。

「まずはカノジョが私に嫉妬するかどうか試してみて、本当にトオル君に気があれば『私というものがありながら…』と怒るはずだから、そうなら脈アリよ」

なるほど、と思った。

もし美緒さんが僕とエリさんの関係に嫉妬なんかしてくれたら…その光景を思い浮かべると、怖くなったが同時に少し楽しみでもあった。


が…しかし、美緒さんからの返事はあまりにも素っ気なかった。

しかも僕がエリさんの事を女性として気になるのなら、友だちとして相談に乗るよ…とまで。

『ありゃりゃ、それは…もう脈ナシかもね…』

慌てて電話を掛けて事情を話すと、エリさんもちょっと驚いた様子だった。

「そ、そんな…」

『でも、ちょっと待って…君のカノジョってさ、本当に同い年の恋愛初心者なの?』

「カノジョ…じゃないですけど、僕同様、全く慣れていない感じ…でもない時もあったりして」

『どういうこと?』

僕はエリさんに初デートの時、会話に行き詰まると、それまでぎこちなく話していた美緒さんが急にテキパキとコミュニケーションをとって仕切り直してくれた時の話をした。


『ふーん、それは面白いね、どっちが本物のカノジョなんだろうね?』

「どういうことですか?」

『二重人格者?あるいは、どっちかが演技だったりして?…いや普通はそんなことないよね』

エリさんもあれこれと考えているようだった。

『そうだトオル君、次のデートの時に私も同席させてくれないかな?』

「えーーー?さすがにそれは…でも、どうしてですか?」

『ちょっと、そのカノジョさんに会ってみたくなってね…そこで白黒はっきりさせようよ!』


結局、次のデートはエリさんの作戦で、ファミレスに美緒さんを呼び出して、僕と彼女との関係をはっきりさせることになった。

その時、エリさんは隣のテーブルで待機して、美緒さんの分析する…


次のデートの誘いへの美緒さんからの返信はいつになるのだろうと、思いながら今回は要点のみを簡潔に手紙で書く僕…これもエリさんの作戦だ。

結果、今回は速攻で返事か来た。

しかも手紙でなく、非常時のみに使用するはずの電話を使って…

慌ててエリさんに報告の電話を入れると、

『カノジョ、恋の駆け引きの出来る、相当の手練れかも…ね』

「まさか…」

『まあカノジョの化けの皮が剝がせるかも…楽しみね』

エリさんが電話の向こう側で楽しそうだった。


デート当日、エリさんと僕は、本来の待ち合わせ時間30分前にファミレスに集合した。

「じゃあ打合せの通りにね…」

「あの…なんでエリさんは僕のためにここまで…」

一瞬、驚くような表情をしたエリさんは、すぐに余裕のある笑顔で微笑んだ。

「そうね…強いて言うなら、暇つぶし?かしらね??」

「え?」

「冗談冗談、君もそうだけど、カノジョさんにも、ちょっと興味が出てきただけよ」

そう言って、エリさんは隣のボックス席に移動した。


しばらくして現れた美緒さんは、いつもと違い険しい表情をしていた。

僕は落ち着いて作戦どおりに話を進めようと心掛けたが、それに対して、美緒さんはいきなりエリさんの話を切り出して来た。

「で、誰なの?兼満君と一緒に私を試すような悪巧みを考えたのは?」

美緒さんは急に大きな声を出した。

まさか今回のデートの作戦を美緒さんは全てお見通しだったのか?


僕が驚いて、何も答えられずにいると、僕らの前にエリさんが現れた。

「はじめまして、南波エリって言います」

そう微笑みかけるエリさんと驚いて睨みつけるような視線を送る美緒さん。

まさか二人は知り合いだった?…訳ないよね。


エリさんはゆっくりと僕の隣に座ると美緒さんを睨みつけた。

「あなたよね?思わせぶりな態度で純情なトオル君を弄ぶ悪い女って…」

「はあ?あなたの方こそ、純情な高校生を誑かそうとしている悪い大学生なんじゃないの?」


場の空気がさらに険悪になった。

こんなにきつい言い方をする美緒さんを初めて見る僕は恐怖した…

もしかして、これって恋愛につきものの修羅場…っていうんじゃないのか?

僕の恋は一体、どこに向かって進んでいるんだろうか??

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