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第10話 地味系JKの昇天

俺、兼満トオルは三十年前に転生した事について混乱していた。

しかも転生相手の女子高生は俺の初恋相手で、これから三十年前の俺との初デートに向かっている。

一体、どうなっているんだ。


『いろいろと手違いがあったみたいで申し訳ございません、兼満トオルさん』

美緒の意識化に潜った俺に念話で話しかける聞き覚えのある声。

自称、寿命審問官のあのじいさんだ。

『おい、俺の名前を呼ぶな、彼女に聞かれたらどうする?』


俺は反射的に美緒の視線に意識を戻した。

彼女は電車の窓に映った自分の姿を凝視しながら、俺と審問官の会話など気にした様子もなく前髪を一生懸命に整えている。

『心配はご無用です。今はあなたにしか聞こえないように話しています』

『そうか』

俺は安心した。

初デートに全ての神経を集中させている美緒に余計な情報を入れたくはなかった。

『おじさま…さっきから、おじさまの気配をあまり感じなくなったんですが、どうかしましたか?』

俺の気配に気づいた美緒が話しかけてきた。

やはり初デート前は不安なようだった。


もし彼が待ち合わせ場所に来なかったらと急に不安になったようだ。

いや過去、待ち合わせ場所に来なかったのは美緒の方だったのだが…

俺はともかく美緒を励まして安心させると、審問官との会話に戻った。

いちばんの疑問を聞き出したかったからだ。

『なんで俺が転生したのが現在ではなく、三十年前なんだ?』

『それなのですが、いろいろ複雑な事情がありまして…』


審問官によると、魂と肉体にも相性というものがあって、俺の元いた時間軸上で代わりになる肉体が都合よく見つからなかったらしい。

『で、並行世界…つまりは時間軸が異なるよく似た別の世界をいくつか見繕っているうちに、あなたから見て三十年前に心室細動で亡くなった彼女の肉体がたまたま、あなたの魂との適合性が高かった、という訳なのです』


なるほど、そこまではわかった…としよう。

だが、死んだはずの滋味美緒という女性が今日、デートをすっぽかされる運命にあった、高校時代の俺と会ってしまうと歴史が書き換わらないか?

『並行世界、といった筈ですよ兼満さん。よく似た世界で、ちょうど三十年前の時間軸上であっても元々あなたのいた世界と全く同じである必然性もないんです。少しくらい違っていても誤差の範囲内であれば影響は少ない』

そんないい加減でも良いのか?


でも違う時間軸の世界とはいえ、同一世界に複数の同一人物が存在することは出来ないのでは?と、昔、量子力学やらなんやらを勉強していたSF好きの知り合いから、そんな話を聞いたことがあった。

このままでは三十年前の俺と現在の俺が待ち合わせで遭遇することで、何かとてつもないパラドックスに陥る危険とかはないのか?


『これから会う三十年前の兼満トオルさんとあなたは、本当に”同一人物”なのでしょうか?中身の人格は同じかもしれませんが、すでにあなたは滋味美緒さんとして転生しているので、傍から見えれば全く別の人物と世界からは認識されますので、これも問題ありません』


それならば、このまま元いた世界では実現しなかった俺と美緒との初デートが成立してしまうということなのか?

『ええ、それが元の身体の持ち主である美緒さんとのお約束でした…ただし、ですよ、問題の本質はその後なのです』


『それって、どういうことだ?』

『美緒さんの思いが叶って無事にデートが出来たとすると、約束通り、美緒さんの身体は兼満さんが完全に引き継ぐことになりますよね』

『ああ、そういう約束だからね』

『となるとですよ、仮に今日のデートで美緒さんと三十年前の兼満トオルさんの交際がスタートするとします…明日からあなたはどうされますか?』

しまった、そういうことか…

俺は三十年前の俺自身と交際する、ということになる??


『その通りです。先ほど申し上げた通り、滋味美緒さんの身体に転生されたあなたは、既に兼満トオルさんではなくなるため、矛盾は生じないのですが、あなたが三十年前の自分自身と交際関係になった場合、あなたは精神的にその事実を受け容れ、耐えることができるのでしょうか?』

待て待て待て!!それはいくらなんでもムリだろう。

よほど自己愛が強すぎても、自分自身と恋愛関係になるなんてあり得ない…が。


美緒の視点に戻るとちょうど彼、兼満トオル君との待ち合せが無事に出来たことがわかった。

目の前には満面の笑みを浮かべた三十年前の俺が立っている。

『ああ…本当に会うことができたんだ、良かった』

これでこの時間軸での彼は、美緒と会えなかったことによる失恋やその後の荒んだ人生を送らずに済むのかもしれない。


ということは、結果的には今の俺ではない、もう一人の兼満トオルが滋味美緒と付き合っていけば、俺の望んだ人生やり直しが出来るのではないだろうか?

つまり今後の滋味美緒の中の人は俺自身である必要が無い。

むしろマイナス面ばかりが出そうだ。

この身体を元の持ち主の美緒に返して、俺が成仏すればよいのではないだろうか?

俺はそう決意した。


『おい、寿命審問官!』

『どうしましたか?』

『今日で死ぬのは俺の方に変えることはできないのか?』

『なるほど、そう来ましたか…』


悪霊になる覚悟までして初デートに執着した滋味美緒と、彼女との出会いで人生が俺の望んだ方向に向かってくれそうなもう一人の兼満トオル君。

俺は純粋に、この二人の未来のために命を投げ捨てても良いと感じたのだった。


『つまりは俺の人生の残り時間を元々の滋味美緒に渡すということはできるのだろうか?』

『今まで自分勝手な人生しか送って来なかったあなたの口から、まさか人を思いやるような発言を頂けるとは正直驚きです』

余計なお世話だ、だがもしかしたら可能なのか?と俺は一縷の望みを託してみたかった。

『…お願いできるのか?』

『残念ですが…すでに寿命の尽きた方に他の寿命を燃料のように継ぎ足すことは理に反しますので』

『そこをなんとか!せめてもう少しだけ、二人のための時間を作って貰えないだろうか?』

俺は必死に食い下がった。

『滋味美緒さんには特例を既に認めています、だから今日まで現世に居残ることができたのです』

『だけど明日から、俺が彼女に代わって三十年前の俺の交際相手になるなんて、どう考えてもムリだろ?あんたも言ったじゃないか』

『…それを決めるのは、あなた自身なのですよ、兼満トオルさん。いや明日からは滋味美緒さんとしてですかね?』

『そんな…』

『でも、そんな心配すらする必要はないのかもしれませんね…ククク』

審問官の不吉な笑い声に俺は慌てて、美緒たちのデートの様子を注視した。


高校時代、俺がよく通っていた喫茶店に座る二人…とても初デートに連れて行けるような店じゃなかったが…しかも会話がぎこちなく、途切れ途切れで空回りしている。

どっちも必死に練習してきたデートのセリフをうまく話そうと試みているが…棒読みだ。

お互いの顔も満足に見られずに緊張の中、必死になって自分のアピール試みる美緒とトオル君。


見ていて歯痒くなる俺だった。

コミュニケーションスキル無さすぎだろ!

『はは、全くの恋愛初心者では、こんなものかもしれませんね…』

嘲るような口調の審問官にイラっとする俺。

『ずいぶん冷ややかなんだな』

『いえ、こちらの方があなたにとっては、むしろ好都合なのではないですか?』

『どういうことだ?』


『このデートが盛り上がらずにこのまま終わったとして、次も会いたいと思えますか?』

『いや…普通に考えて、ないな』

そうか、このまま残念な状況でこのデートが終了して、次に会う約束すら出来なければ、これで終了。

明日から俺は、三十年前の俺、兼満トオル君の事など気にもせず、自由に生きていける。


『性別が変わったとはいえ、せっかく手に入れた若い身体と人生なのですから、今までのあなたのように好き勝手使って生きるのも良いものですよ、兼満トオルさん』

確かに審問官の言う通りだ。

俺なりに美緒のデート準備には協力をしてきたし、これで残念なデートになっても美緒の自己責任だろ?

そう思って明日から心機一転、俺は女子高生としての青春を送って、大学に入ったらイケメンな大人の男性に口説かれてみるのも良いだろう…男の時とは違う人生を試すこともできるのだ。

…だが今更、そんなことをしても本当に楽しいのだろうか?


それに…今日消えてしまう美緒にとってはどうなのだろうか?

このデートの苦い結果は次の恋愛には活かせない。

だってこれが最期のデートなのだから。

このまま終わらせるには余りにも不憫だ。


また三十年前の俺でもある兼満トオル君がこの盛り上がらなかったデートによる失恋で更に心が荒んでしまったらどうなる?

すっぽかされた時の方がまだマシな結果になるのなら、何とかしてあげたい。


ついにトオル君が美緒に向かってデートの終了を告げようとしている。

『どうやら盛り上がらなったデートはこれで、お開きになるようですね?』

審問官は楽しそうに囁いた。

俺はなんだか腹が立ってきた。

『さあ兼満さん、お二人が解散次第、美緒さんの身体の最終引継ぎ作業に入りますよ…』

『いや、あと少しだけ待ってくれ!』

『え?』

『ちょっと美緒と交代して来る』

俺は美緒から湧き上がる、悲しみや絶望の感情に、これ以上耐えることができなかった。


「場所を変えない?そろそろお昼なんだし!」

強制的に美緒から主導権を乗っ取った俺がデートの仕切り直しを宣言した。

トオル君も素直に俺の誘導に乗ってくれた。

最初は戸惑う美緒だったが、俺の真意を汲み取り任せてくれた。

美緒から感謝と感動の暖かな気持ちが俺に流れ込んで来る。

やっぱり美緒は素直で良い子だ、さすが俺の初恋相手だ、とあらためて実感する俺だった。


二軒目は西口側にあるデパートの屋上近くのレストラン。

地味だが落ち着いて話せる眺めの良い店だった。

ここで俺が主導し、トオル君の本当に興味のある事や将来の夢などを聞き出せた。

一生懸命に目を輝かせながら自分のことを語るトオル君にはもう、先ほどの緊張感など嘘のように無くなっていた。


『おじさま凄い!男性の心まで開かせるなんて、やっぱり史上最強のナンパ師だったのですね!』

まあ目の前に座っているのは三十年前の俺自身でもあるので、何を考え、どのように行動するか手に取るようにわかるだけなのだが…そもそも前世では男に対しての興味は微塵も無かったのだから。

『感心ばかりしていないで、今度は美緒の番だからな』

主導権をスイッチする俺に、テンポよく自分の会話を始める美緒。

これでようやくデートらしくなってきた。


明るく会話が弾む、美緒とトオル君。

それを微笑ましく美緒の中で眺める俺。

『デートが盛り上がっているところすみませんが兼満さん、この後はどう収拾するお積りなんですか?』

審問官が不安そうな声になって聞いてくる。

『まあ待ってくれ、俺にちょっと考えがある』


トオル君はあらためて美緒の方に向き直った。

「さっきはゴメン、やっぱり今後もこうやって僕に時々会って欲しいんだ…ダメかな?」

やっぱりそうなるよな、と俺は心の中でガッツポーズをした。

『どうしよう…おじさま』

『いいから、まずはトオル君と連絡先を交換しろ』

『いいの?ね』


お互いの自宅の住所と電話番号を交換する二人。

ただ普段のやり取りは原則手紙で行い、直前の予定変更など緊急時のみ電話を使うというルールもこの時に俺が決めさせた。

手紙を出し合うことで、家族に対していきなり電話ではなく、同世代の異性がいることを徐々に認識させるためだ。

交際未経験のこの二人を結びつけつけるのは、まずはこうした地道な文通からで良いだろう。

この時代、インターネットがこれから普及していくような段階で、メールよりもこうした手紙のやりとりの方がまだまだ有効な交流手段でもあったのだ。


「それでさ…僕たち二人の関係って、どうなんだろう?つまりは…」

「友だち!…からでいいかな?」

俺は、すかさずトオル君の告白紛いの発言を遮った。

「私たちって、たぶんだけど、お互いに強く惹かれあっているとは思うの。でもそれって恋なの?単に異性と知り合ったというだけで変に意識をしちゃっているだけなの?どっちだか兼満君はわかる??」


「あ…それは、うん、そうだよね。僕は正直よくわかってなかったのかも」

やはりトオル君は三十年前のコミュニケーションスキルゼロの俺だった。

こういう時は優柔不断になって決断できなくなり相手に流される傾向も強かった。

「だからね、まずはお友だちとして定期的に会ってみて、いろいろ話してみない?その上で恋人になれるのかどうか決めたいと思うの。どう?」


正直、相手が俺自身ということを除いても三十歳も年下の同性の恋人ができること自体、かなりの抵抗があったので、友人がギリギリ妥協できる関係だった。

今後の事については…まあ、今後ゆっくり考えればいいさ。

相手は、俺自身なのだから俺が責任を持って誠心誠意対応をしていけば良い。


一瞬、逡巡したトオル君だったが、

「わかった、まずは友だちとして…よろしくね、滋味さん」

そう言って、手を差し出す。

「こちらこそ、よろしくね、兼満君」

トオル君の手をぎゅっと握る俺。

『お見事な締めくくりです!兼満さん』

審問官が感心したように言った。

『本当にありがとう、おじさま』

美緒がそっと呟いた。


そして、トオル君とJRの改札口で別れた後、都庁の展望室に昇った。

生憎の梅雨空ではあったが、最期になるべく高いところから東京の景色を眺めたいという美緒の希望で。

『で、どうだったんだ、デートの感想は?』

『たぶん、おじさまの助けがなければ、こんな最高な形でデートを終わらせることが出来なかったと思う…でもね、今後どうするつもり?トオル君との関係は??』

まあ美緒が気にするのも無理はない。

男子高校生と中年ナンパ師のカップルなんて、あまり想像したくもない。


『大丈夫、俺の方は彼とは友だち関係以上に発展させる気は毛頭ないから』

『そうだよね…きっとおじさまならうまくやって貰えるよね。あと、お願いだから今後、もし告白された時もスマートにトオル君をあまり傷つけないように、フッてよね』

『安心しろ、俺を誰だと思っている?』

『うん、史上最低のナンパ師だもんね、おじさまは』

俺の正体が三十年後の兼満トオルだったと明かしても良かったのだが、美緒を絶望させてしまうことを恐れて止めておくことにした。

それに少なくとも今のトオル君が三十年後に俺のような荒んだ人生を送ることが無いような気もしてきたからだ。


『では、そろそろ、お別れの時間ですが…』

審問官の声が静かに響いた。

いよいよ最期の時がやってきた。


『…さよなら、私』

美緒の意思で、自分自身の身体を抱きしめた。

美緒の熱い気持ちが痛いくらいに俺の心に流れ込んでくるのがわかる。

俺は美緒から引き継いだ身体でそっと目を閉じて、更に自分自身を強く抱きしめた。

『美緒…さよなら』

そして美緒の感情に満ちあふれていた身体から、徐々に美緒の気配が消えていく。

『私、幸せだったよ…できれば、おじさまと…』

そこで美緒の気配が途切れた。

目を開けると展望室の窓からは奇跡的な晴れ間が覗いていた。

その晴れた空に向かって美緒の魂?のような光が吸い込まれて消えていく。


さようなら、俺の初恋の人…

俺は、この人の身体を受け継いで、今後は出来る限り長い時間を使い、現世のトオル君に寄り添って生きていけたらと切に願うのだった。

【第1部 終】

これで第1部は完結です。

ここまで読んでいただいた皆さまに感謝するとともに、今後、第2部以降は年明けで仕事が忙しくなる関係上、公開までの間隔が伸びる予定(目標週1回以上更新!)ですが、また時々、読んで頂けると嬉しいです!

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