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29.別れ

「キャッハハハハハハハ!!」

突き刺された腹と口から大量の血が吹き出して、ケイター目の前を真っ赤に染め上げる。

「お前みたいなガキが俺様に勝てる訳ねぇんだからこんな汚ねぇ血撒き散らしてんじゃねぇーよ、クソが!」

 ケイターが不快そうな様子で剣を引き抜こうと力を込めようとした時、

「ハッハハハハハハハ」

 アルの乾いた笑い声が村に反響する。

「ケイター、テメェの負けだ」

「あ?負け惜しみとは見苦しいな。今殺して、、あれ、、」

 剣を動かそうと力を入れても岩の様に重く、動かせない事に気づく。

「おい、な、に、、し、、、、」

 話出そうとした言葉が思う様に口が動かずしまいには、一言も話すことができなくなってしまう。

 ―どっなってやがる!!―

 動かない口、動かない体、その事実が動かないのは剣ではなく全身であらことを知らせる。

 鉛の様に固まった体で立ち尽くしたまま、かろうじて動かすことの出来る眼球を使いアルを睨みつける。

「やっと気づいたか」

 腹に剣が刺さったままの状態で静かに話し出す。

「俺の血液には俺自身身体能力を向上させる為の猛毒が大量に練り込まれている」

 ケイターの瞳が僅かに泳ぐ。

「だがこれは俺の身体的特徴に合わせて調合して生み出した特注品だ、これだけ大量に浴びればどんな優秀な魔法師でも指一本動かすことはできない」

 一歩踏み出す。

 グチュ、という生々しい音を立て、剣はより深くあるに突き刺さり、2人の距離が近づく。

 「ケイター、、お前の負けだ」

 アルの顔がゆっくりと近づく。

 眼球を必死に動かし必死で何かを訴えてい見るも虚しく、アルの日本の鋭い牙が皮膚を貫いた。

 ……!!!

 声にならない絶叫を滲ませるケイターを横目に、一気に血を吸い取る。

一瞬ルルに血を送ってもらった時の様に焼ける様な痛みに襲われるかと身構えたが、幸い痛みはなく、寧ろ高揚感とお腹の底から何かが湧き出る様な感覚になる。

 そしてそれは段々強くなっていき、10秒ほどかけて全ての血液を吸い出し、ミイラや様に干からび絶命したケイターを見つめながら湧き出てきたものの正体が魔力であることを知る。

魔力の総量は元来、生まれた時に決まり、不変であるとされている。

 そしてそれは人間だけでなく全ての生物に共通する通説であった。

 よって、今アルの身に起こっている現象はいわば魔力の常識に対するアンチテーゼであり、これが知り渡ればヴァンパイアという種族はより一層恐怖の対象として悪名を高めるであろう世紀の発見をしてしまう。

しかし、アルはこれを発表する気など毛頭ある訳もなく、静かに、そして密かにスターリングと王国に対抗しうる力を手に入れたことに強く感激した。

 剣をお腹が引き抜くと、魔力と血液が大量に消費されると同時に徐々に穴が閉じていくのがわかる。

 ―改めてヴァンパイアの治癒量は凄まじいな―

 自分の体ながら感心しつつ、静かに辺りを見渡した。

 転がるいくつもの村の人たちの死体。崩れた家々、うずくまり動かなくなった兵士。

 僅か1年という月日であったが、数えきれないほどの思い出がそこかしこに転がっており、先ほどまで怒りによって忘れかけていた悲しみが、一夜にして無くなってしまった実感がアルを襲った。

 強い虚無感に支配され一歩も動けずにいると、背後から小さな咳が聞こえた。

 急いで振り返り、視線を送るとそこには顔と体の半分を失ったヴァイトが横たわっており、急いで駆け寄る。

「大丈夫かヴァイト!!」

 心の底から湧き出る安堵と焦燥。

「その、声はア、ルか、」

「よかった……本当によかった…………」

「逃げろと…言った……のに、ゔぅ、バカな奴め……」

 苦しそうな中、僅かに口角が上がり、呆れた様なそれでいて何処か温かみのある声が耳に触る。

「無理に話さなくていい!今治療するからな!!ルル!そこにいたらこっちに来てくれ!」

 洞窟の隅で隠れていたルルがおぼつかない足取りでこちらに向かってくる。

 2人で治療を心みるも、見るからに大きすぎる損傷は手の施しようのなさを残酷に主張する。

「2人とも……手を止めてくれ……俺はもう…助からない……」

 2人で示し合わせたように聴こえないふりをして、必死に傷口を何度も止血しようとしてみても、血は一向に止まることはない。

「2人とも…ありがとうな…」

 苦しみを感じさせない穏やかな声でゆっくりと話出す。

「アル…お前と出会った時のことは今でも昨日のことの様に思い出せる…」

「やめろ!そんな…そんな最後の別れみたいなこと言うなよ!……頼むよ…ヴァイト…死なないでくれよ…」

 ぼやける視界の先でヴァイトが微笑む。

「ごめんな…アル、ルル、でも自分のことだ、もう時間が無いことはわかる…話を聞いてくれるか…?」

 今にも溢れ出そうとする涙を堪え、そっと頷く。

「初めて会った時のお前はボロボロの身体なのに今にも攻撃してきそうなほど敵対心剥き出しで、それでいて今にも崩れそうな危うさを纏っていたな」

 僅かに目を開き虚空を見つめ、ぽつりぽつりと語り出す。

 まるで一年前の俺に語りかけている様に。

「でもすぐにそれはお前の内側に存在する大きな優しさから生まれるものだと分かった。そしてその時雷で打たれた様に俺の中でお前を1人にしてはいけないって天啓がきたんだ。

 今までろくに神なんて信じてこなかったんだがな、この時ばかりは初めているかもしれないって思ったよ」

 何か返事をしようにも言葉を思うように出す事ができず、腹話術の様に奇妙に口だけが動く。

「それで一丁前に保護したつもりだったが、これまで狩りと魔法以外碌にやってこなかったから、お前には色々迷惑をかけたな」

 懸命に首を横に振ると、ヴァイトが静かに笑った。

「アル、生涯孤独だった俺に家族を、そして愛を教えてくれてありがとう。

 あの時に本当に助けられていたのは俺だったんだな」

ヴァイトの瞳が僅かに動きルルの方を向く。

「それにルルもありがとな。俺1人じゃアルの孤独をわかってやることは出来なかった。お前が居たからアルは本来の自分を取り戻せたはずだ。

 これからもこいつの孤独に寄り添ってやって欲しい…」

 止めどなく溢れる涙を何度も拭いながらルルは大きく頷く。

「ゔぅ、、ぐはっ」

「大丈夫か!ヴァイト!」

 大量に吐き出された血は辺りをより凄惨にする。

「ははは、まずいな、体の感覚がなくなってきやがった」

「そんな……待ってくれ……」

「そんな悲しい顔するな2人とも。死ぬ間際に看取って貰えるだけで俺は幸せもんだよ……。

 アル最後のお願いだ、俺の血をもらってくれないか……」

「それって……!」

 ヴァンパイアは古くから自分が亡くなる直前に家族に自分の血を吸ってもらう習わしがあると、以前ルルに教えてもらった事を思い出した。

高まる感情を抑え、もはや顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた顔の上に、なんとかちぐはぐな笑顔を作る。

「ああ!もちろん!」

大きく頷き答えると、今までで1番の笑顔がヴァイトの顔に咲く。

 ゆっくりと肩に顔を近づける。

 ヴァイトの口が僅かに動く。

「出会ってくれてありがとなアル、愛してる」

「ああ、俺も愛してる」

 2本の牙が皮膚を貫いた。

———————————————————

これにて第一章完結です。

第二章も開始まで今しばらくお待ちください。

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