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28.復讐

今までの無力さ、目の前で全てを奪われた悲しみ、理不尽への怒り、今まで押し込めてきた全ての想いを込め拳を繰り出す。

 ドゴンッ!!、という大きな鈍い音と共に木の破片が吹き飛ぶと、切り開かれた先には30人ほどのアホズラをした人間どもが奇妙な顔をしてこちらを覗いていた。

「おいおい、せっかく逃してもらったガキがまた帰ってきたぞ!馬鹿な奴だハッハハハハ!」

 ケイターの声に釣られて全員が笑い出す。

「血操魔術 五月雨」

 耳障りな声を無視して、血操魔術を唱えると手首から滴り落ちる血液が弾丸となり人間どもを一斉に撃ち抜いていく。

 不思議と血操魔術の使い方は手に取るように理解できた。

 絶叫が再び村にこだまする。

 繰り出された血の弾丸を経てそこに残っていたのは辛うじて魔法で自身を守ることができたケイターだけだった。

「「ゔぁあああああ」」

 そこかしこで上がる絶叫を無視し、ゆっくりとケイターの方に歩みを進める。

 「なに!?」

 「さっさと武器を構えろ外道」

 ケイターの周りを不穏な風が包み込む。

「ガキのくせに調子乗りやがって、、、ぶっ殺す!」

 殺意を込めた視線が俺を貫く。

 油断しているつもりは無かったが、奴の殺意を浴びても心に波風が少しも立たないことに自分のことながら不思議に思いつつ、短刀を構えた。

 

「第五界風魔法 鎌鼬」

 片手ながら器用に幾多もの風の刃を飛ばしてくるが、先ほどヴァイトとの戦闘で一度見てたためか、ヴァンパイヤになったことで動体視力が上がったためか、以外にも簡単に受け流すことに成功する。

「この程度か、今度は俺の番だ

 第四界毒魔法 海月」

 背後に大きなクラゲを作り出し、触手を一斉に向かわせる。

「余裕ぶっこいてんじゃねぇーよ!

 第五界風魔法 風塵の羽衣

 第五界風魔法 風塵の刃」

 浮遊しながら上手く体を翻して触手を避けるとこちらに急接近し剣を振るってきた。

 二つの刃が交錯する。

そしてその瞬間、斬撃の鋭さ、速さ、正確性からケイターは剣術においては僅かに自分に分があることを理解する。

そしてその読みは正しく、徐々にケイターの剣がアルをを追い詰めていく。

 ―利き手を失ってもまだこれ程の剣術を使えるのか―

 宮廷魔法師の底力に驚かされると同時に距離を取ろうと僅かに後ろに下がるも、すぐさま距離を詰められる。

正面からの戦闘はあえて諦めることにする。

今まで全力で受け流していた手をあえて緩めるとケイターの剣がアルの左肩を深く切り裂いた。

「片手が無いだけで俺様に勝てるとでも思ったか!!バカが!」

 ようやく自分の斬撃が届き高揚したケイターが楽しそうに声をあげる。

「これぐらいで勝った気になってんじゃねーよ」

 勝ち気になった事で僅かに前のめりになった所にアルの前蹴りが腹に突き刺り、はるか後方に吹き飛ばす。

 「グァっ!!」

「第三界毒魔法 大蛇」

 地面を転がるケイターに追い打ちをかける様に大蛇が襲いかかる。

 なんとか体勢を立て直し、ギリギリの所で大蛇を破壊するも、大蛇は破壊されると同時に爆散し毒霧を撒き散らした。

 ―クソガキが!小賢しい真似しやがって!―

 苛立つケイターであったがすぐさま魔法を唱える。

「第四界風魔法 嵐」

 ケイターを中心に時計回りに風が舞い、霧を吹き飛ばす。

「正々堂々と勝負しやがれガキが!……何処行きやがった」

 喚き散らすケイターであったがアルが忽然と姿を消した事に困惑した表情を浮かべあたりを見渡す。

「第三界毒魔法 八咫烏」

「!!」

 いつのまにか真上に移動していたアルが急降下しながら8羽の毒々しいカラスと共に迫りくる。

 ―クソ!魔法と刀を同時に対処するのは無理だ!―

 魔法が着弾するコンマ数秒、思考を加速させ寸前のところでバックステップをするとカラスの群れが勢いを保ったまま目の前を過ぎた。

「死ね」

 しかし、安心する間もなく大勢が崩れたケイターにアルの刀が振り下ろされる。

 カキンッッ

 衝突と共に甲高い音が響き渡る。

 なんとか直撃は防いだものの、落下の速度を活かし体重の乗った一撃を完璧に受け止めることは叶わず、鮮血が舞う。

「グァッ」

 ケイターの汚い呻き声が上がると同時に地面に着弾したカラス達が爆散し再び毒霧が2人を包む。

 ―クソクソクソクソ!ガキのくせに!!!―

 自分の方が圧倒的に格上だという意識が気分を逆撫でる。

 しかし、怒りが頂点を超えたことでかえって冷静さを取り戻すことに成功し、視界が悪い中次の攻撃に備え呼吸を整える。

 

―姿は見えないがあのガキが近くにいる以上さっきみたいに魔法を詠唱する時間はねぇ。だがそれは奴も同じ、剣術でも、リーチでもは俺の方が分があるんだ、次に奴が姿を現した瞬間……―

 

 ケイターが思考を巡らせ、時同じくしてアルも刹那の思考に突入する。

 

―流石は宮廷魔法師、片手を失ってようやく互角か、これ以上長引かせても戦況は益々悪くなるだけだな、、次で……―

―”ぶっ殺す”―

 偶然にも両者の目論見は一致し、2人の殺意が最高潮に達しする。

 僅かばかりの静寂が流れる。

 …………

ケイターの左手側の空気が揺れる。

 瞬時に目線を送り、迎撃の体制を整える。

 次の瞬間、猛スピードで毒霧を掻き分け、頭を目掛け突っ込んできた1羽のカラスが視界に飛び込んできた。

「なに!?!?…」

「俺の勝ちだ」

 コンマ数秒の時間差でアルが右手側に現れ、刀を振り抜こうとしたその刹那。

 アルの目の前には笑顔で剣をこちらに構えるケイターがいた。

「……なんてなぁ、バカが俺様の勝ちだ!!」

 飛来するカラスを頭を動かすだけの最小限の動きで避けると、ケイターの剣がアルの体を貫き、鮮血があたりを真紅に染め上げた。

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