15.周魔
翌日久しぶりにヴァイトと一緒に訓練場に来るとヴァイトが張り切った様子で指示を飛ばす。
「今日から新たに修行をする…その名も周魔だ」
「周魔か」
ここ1ヶ月近く魔術関係の本を読んだ事でスムーズ話が入ってくる
「本で読んでたから知ってると思うが改めて説明すると、周魔は魔力を体全身に循環させる魔術だ。上手く体内で動かせる様になれば自己強化以上に身体能力を上げられるし、怪我の治りなんかも早くできる」
「ようやく魔術を実践できる!」
奴への復讐に向けた一歩が進みだし、沸々と興奮と憎悪の感情が魔力のようにお腹の底から湧き出す。
「ああ、それに周魔は探魔ができた奴なら基本的に全員習得できるから安心して修行に専念しろ。
そういう事でとりあえず今月の目標は鳩尾辺りに溜まってる魔力を胸の辺りまで動かしてみろ」
自分の両頬を力強く叩きパンッと破裂音を訓練場に響かせ気合を入れると、探魔のように坐禅を組んで自分の魔力と向き合う。
魔力は魔力源から温泉のように湧き出し尚且つ、毒属性が多いため禍々しいオーラをした水の様だった。
今まで魔法を使う時は意識などしなくても唱えれば使えていた魔力であったが、いざ体の中で動かそう心の中で両手で掬い上げるようなイメージをしてみるも、指の間をすり抜けて上手く捉えることができない。
その後2時間ほど時間が経ち何度も試すも結果は変わらなかった。
「ハァハァ、探魔の修行で集中力と体力には自信がついたんだが、思っていたよりも疲れるな」
「探魔はあくまで魔力を探す段階だから実際に魔力を使うわけじゃないが、周魔はそれに比べると動かすことが出来なくても魔力は消費していくからな。より疲れるはずだ」
「なるほど。魔力が水みたいで捉え所が無いんだがコツとか無いか?」
ヴァイトがこめかみを指でトントンと叩き俯きながら考える
「これは俺の場合だか無理に魔力を掴もうとせずに流すイメージで俺は移動させてる。他にも魔力の外側に魔力で膜を作るイメージで動かすって奴もいたな。まあ兎にも角にも、探魔と同じで自分なりのイメージ固めて、やりやすい方法を見つけるのが結果一番いいな」
ヴァイトの真面目なアドバイスを受け頷くと、再び周魔に取り掛かる。
その日は結局6時間ほど修行をして訓練場を後にした。
翌日からは探魔の時と同様にヴァイトが狩りに出かけている間に訓練場で修行をすることになった。
周魔に関しては習得出来ない不安などは無いため精神的に安定して修行を開始したがやはり体力、魔力ともに座っているだけで大幅に奪われていく感覚にはなかなか慣れず、探魔とはまた違った難しさを感じていた。
昨日に引き続きヴァイトのアドバイスの通り魔力で膜を作り包み込む事をイメージしてみるも膜をうまく作ることが出来ず、出来てもすぐ破れてしまい魔力を運搬することは叶わない。
「クソ!ダメだ」
時間だけが無慈悲に過ぎ去っていき、この場所で何度吐いたか分からない言葉が宙を舞う。
「まあそう結果を焦るなよ」
いつの間にか後ろに立っていたヴァイトから慰めの言葉が飛ぶ。
その後家に戻る途中、ルルからお勧めされていた本を
読み終えたため図書館に寄ることにした。
「こんにちはルル」
ルルが本のページを捲る手を止め、顔をあげると微笑みを纏った表情がこちらに向けられる。
「こんにちは、アルくん」
「マゼラン大陸史読み終わったよ。少し難解だったけどルルの言う通り面白かった」
「それなら良かった!二巻も今日借りていく?」
「そうするよ、そういえばルルに一つ聞きたいことがあって、ヴァンパイアは噛んだ相手を眷属にして種族をヴァンパイアに変える技を持っているって昔聞いた事があるんだけど、何故かそんな便利で強い技なのに本の中で一度も出てこなくて、なんでなのかなって?」
「それは単純に眷属化がアルが思ってるほど便利な技では無いってだけだよ」
「と言うと?」
「眷属化は血操魔術の一種なんだけど消費魔力と消費血液が多い上に噛んでから24時間しか対象をヴァンパイアにすることは出来ないの。正確に言うなら噛まれた相手は24時間以内に100人以上を吸血しないと死んでしまう。
それで仮に100人分の血を吸えて生き残ったとしても今度は完全なヴァンパイアになってしまうから噛んだ者の眷属からは外れちゃうんだ。
しかも、眷属にしたところで逆らう事は防げるけど行動を全て操るみないな事は出来ないしね。
だから例え生き残ろうとも死んでしまっても24時間しか味方に出来ないからそれだったら普通に戦ったほうが良いって言うのがヴァンパイアの共通認識なんだ」
「そうだったのか…昔ヴァンパイアの最も恐ろしい技って教えられたけどそんな制限があったなら使わないのも納得だな」
「もちろん使い方によっては強力なんだけどね。
少なくともルヴァン村にいる人達はそもそも非人道的な技だから使う事は禁止しているんだ」
「なるほどな。色々教えてくれてありがとう」
「いえいえ、また何か聞きたいことが有ればいつでも聞いてね」
その後はいつものように少し雑談をして本を借り、図書館をあとにした。