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アクマテキ  作者: なん
二章
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 某所。午後。


 陀付が潜んでいると思われる地点からほど近くの建物が密集する地点。


 三倉班長、揉短班長、ヰ丁班長がそれぞれ自身の班員と話し合っている。

 全員が刹魔を身に着け戦闘態勢を取っている。

 三倉班の班員は堅実に班長の話を心に納めている。

 揉短班の班員は奔放な雰囲気だが確かな実力が垣間見える。


 ヰ丁班の班員は班長への信頼が滲んでおりヰ丁は班員の近況や冗談を適当に返している。

 田擦達の所属する磊磊落班は班長が不在なので二人でミーティングをしている。

 それぞれの班が情報共有を終え合同班全体で意識を共有する。

 総括しているのは三倉班長だ。


「えーこれより第二種級デーモン陀付の放逐作戦を開始する。陀付は離れた場所を一瞬間に移動する特性を持っている。差し当たって機関のドーム型刹魔で活動範囲を制限し放逐を行う」


 胸を張り全員の目を眺めながら三倉は続ける。

 彼の肩には重い責任感が乗っかっている気がした。


「各班定められた地点にて待機しドームの縮小が終わるまで離れず移動して欲しい。班同士フォローできる距離でドームの縮小は終わる。本格的な放逐はそれからだ。相手は第二種級、全員気を引き締めて放逐を行って欲しい。以上」


 この作戦はドーム型刹魔を展開することから始まる。展開したドームの直ぐ内側に合同班が等間隔で待機する。ドームが縮小を始めると等間隔を守って移動する。ドームの縮小が終わるのは班同士がフォローしあえる距離まで来た時。四つの班で連携しつつ放逐を行う。一つの班では死角が生まれる可能性が在りドームの中では応急処置しか行えない。つまり合同班で被害を最小限に抑えつつ放逐を行う。これが班長達が出した作戦だ。もし一つの班が先に接敵した場合近くの班が援護に向かう。決して深追いせずドームの縮小が終わるまでは身の安全を最優先にする。


 確実で堅実な方法だ。この方法ならデーモンの逃亡を防ぎつつ密接な連携を取れる。問題は其の連携だ。


 一人でも連携を乱せばこの作戦は瓦解しかねない。

 田擦は切なる眼差しを伊達寺に向ける。

 視線に気付いた伊達寺はきょとんとしていた。

 本当に大丈夫だろうか。

 緊張と一抹の不安が胸に去来する。

 緻密な連携が必須のこの作戦において伊達寺は機能するだろうか。一人で突っ走って輪を乱さないだろうか。


「大丈夫ですよ。俺が絶対殺すんで」


 田擦の心境に感づいたのかそう語る。その俺が不安要素なのだが。

 そして早速不安の種は発芽した。


「おい」


 低く鋭い声が掛けられる。

 音の方を向くと険しい顔をした三倉が此方を睨んでいた。

 厳密には伊達寺を睨んでいる様だった。


「今何と云った?」


 その一言で空気が一気に張り詰める。

 不味い。会議等で関わっていく中で三倉が真面目な事を田擦は知っている。揉短の様々な発言を訂正する様子から細かい事が気になるのだろうと思う。


 真面目とも堅実とも云える三倉にとって伊達寺は無視できないだろう。確かに伊達寺には色々と問題は在るが作戦が終わるまでは大事にならないことを祈りたい。

 下手なことを云わないでくれよと哀願の眼差しを伊達寺に向ける。

 伊達寺は三倉の眼力を歯牙にもかけず首を傾げる。


「何のことですか?」


 三倉の皺が更に深くなる。


「今、デーモンを殺すと云ったな?」


「それがどうかしましたか?」


 三倉は怒りを込めて睨めつける。


「お前、放逐官の自覚は無いのか」


 些細な言葉遣いの話ではあるが三倉の信条が許さないのだろう。

 放逐官は皆『放逐』という表現を徹底している。其れは魔的対策機関の方針でもあり様々な意見が錯綜する世間に対する配慮でもある。

 新人も猛者も平等に『放逐』という言葉を用いている。

 放逐官として当たり前の行為が出来ていない伊達寺を三倉は無視できないのだろう。


「ほーちくかんの自覚ですか……」


 伊達寺は俯いた。

 落ち込んでいるのか?伊達寺に限ってその可能性は薄いだろうが放逐官の自覚について真剣に考えているのかも知れない。

 ぼさぼさの前髪に遮られて顔色は窺えない。

 不意にぱっと顔を上げた。


「放逐官ってデーモンを殺せればいいんじゃないですか?」


 三倉の顔が驚愕の色に染まる。


「どれだけ強くてもどれだけ弱くてもデーモンを殺せたら立派の放逐官でしょう。それ以外に必要な物ってあります?言葉遣いが良ければデーモン殺せるんですか?」


「なっ」


 想定外の言葉に言い返せない。

 底知れない何かに触れて思わず後退る。


「なん……だと。お前何を云っているか分かっているのか?お前は第四種放逐官だろう」


「階級でデーモン殺せたら楽ですね」


 ははと嘲笑う様に空気を漏らす。

 田擦の背に嫌な汗が伝う。

 堪える様に目をキュッと閉じ「後で話す」と背を向け去っていった。


「はーい」


 間延びした返事に冷や冷やするが三倉は振り向きもせず歩き去る。

 一気に不安が膨張して田擦は項垂れた。

 作戦開始はもう直ぐだ。大きな被害を生むことなく放逐を終えることを切に願った。

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