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アクマテキ  作者: なん
一章
5/34

一撃

 「ひっさしぶりだな!つか怪我ねえか?」


 自分の身を案じる彼は唯一の同期だ。

 昔から明るく誰からも好かれる様な性格で伊達寺とは大違いだろう。

 本来なら伊達寺の同期は十人以上いた。しかし伊達寺と地場の二人以外全員死んでしまった。其の事に何も思わない訳ではないが伊達寺は感情の機微が一般的な人間より鈍い。

 哀しみや怒りは特に感じ辛いのだ。

 そんな伊達寺を地場は認めてくれている。


「悪いんだけどよ、ちょっと手伝ってくんね?」


「勿論。別に後ろで見ててもいいけど」


 伊達寺は巨大デーモンを当たり前に一人で放逐するつもりだった。


「はっ冗談だろ。あのデーモンの所為で建物にも被害が出てる。責任は取らねえと」


 地場の刹魔は相当な力を持っているらしい。

 純白の刹魔が陽光を跳ね返す。

 存在を誇示するように煌く。

 じたばたしていたデーモンはゆっくり起き上がり咆哮した。


「whhhhhhhhhhh!!」


 叫びの振動が全身に響く。

 全てのデーモンが共通して持つ鋭い牙が覗いた。


「じゃあ行くかー」


「ああ。ひっさしぶりの共同戦線だな!」


 雲が太陽の前を通過し二人を照らし直す。

 二人の刹魔は眩しい程煌いていた。


 どっ。


 三者同時に走り出す。

 デーモンは巨体を揺らしながら跳ねるように突進する。

 白怪獣が駆ける度地面が抉れた。

 放逐官二人は高速で脚を回転させ疾駆する。

 危機を自ら求める様に突き進む。

 引力に引かれる様に三者は激突した。


 地場の拳とデーモンの巨足が交わり衝撃が拡散する。

 直後弾かれた様に巨足が退く。

 超質量の脚を弾き飛ばした。地場の刹魔はやはり強大な力を秘めている。

 バランスを崩すまいと耐える片足を拳が捉える。

 両足を弾かれ巨体がバランスを崩した。


 再び倒れ込もうとするデーモンの顔に伊達寺は飛び掛かる。

 巨体からちょこんと出た白い顔の中心に刹魔を突き刺した。

 肉を抉る感覚が手に伝う。

 噴水の様に溢れる鮮血が白い躰と黒いスーツを汚した。


「wwwwhhhhhhhhhhh!」


 痛みに耐えかねじたばた叫び散らす。

 足場が揺れたので跳躍し刹魔を構える。

 躰を回転させ刹魔に力を加える。

 着地ざまに落下と回転の勢いを乗せた刃を顔面に見舞う。

 凶悪な顔が両断され鮮血が噴射する。

 デーモンはもう叫び声は上げなかった。


 どっ。


 跳ね跳んだ巨体が伊達寺を覆う。

 影に吞み込まれるような感じがした。

 咄嗟に後退し圧殺を逃れる。

 衝撃と轟音が拡散し伊達寺は煽られ吹き飛んだ。

 すぐさま受け身を取り体勢を立て直す。

 無理に受け身を取ったため皮膚が幾らか地面に持って行かれた。

 熱と痛みが同時に手を襲う。

 気にせずデーモンを注視する。


 のっそり動いているところを見ると顔面は急所ではなかったらしい。

 薔薇の様に裂いた顔面からは尚も血が垂れている。


「急所は中か」


 丸い躰は弱点を守るためだと推察した。


「伊達寺あ!無事か!こいつの弱点は恐らく中だ。太った躰をぶち破るには溜めた拳が要る!」


 巨体を跨いで地場の声が聞こえた。

 地場も弱点に気付いた様だ。流石地場だ。


「おっけー!隙作るわあ!」


 叫び返しダッシュ。

 地場の拳でもあの巨体は壊せない。力を溜めた拳ならぶっ壊せるらしい。地場が力を溜めるのもそうだが刹魔が力を溜めるという意味合いが大きいだろう。

 兎に角注意を引く必要がある。

 斬りかかろうとする伊達寺を無視して巨体は百八十度回転した。

 狙いを地場に変えたのだ。


「ちっ」


 伊達寺の刹魔が大きな脅威ではない事をデーモンは直感したのだろう。

 伊達寺は舌を打った。


「おお!こっち来るのね」


 地場が何やら騒いでいる。

 大質量が地場を吞み込もうとする。


「ふっ!」


 打!と地場の拳が炸裂しデーモンが吹き飛んだ。

 浮いた巨塊が伊達寺の頭上を通過する。

 流れ星を見る様な気持ちでその光景を眺めていた。


「すげえ」


 思わずそう漏らした。

 接近していた伊達寺を跨いで巨塊が地面に激突する。

 衝撃と土埃が舞う。

 隙を見逃さず伊達寺は接近する。


「使うか」


 刹魔を流し見て云う。


 刹魔には拡張機能が存在する。

 其れを使えば刹魔の素材と成ったデーモンの特徴を活かした機能が使用できる。第二種級以上のデーモンの素材を用いている刹魔は特性を活かした機能が使用できる。

 伊達寺の刹魔は第三種級の素材を用いており機能を拡張すればリーチと殺傷能力が向上できる。

 但し機能拡張には条件が在る。

 条件は使用者の血液を与える事。

 使用者の血液を吸うことで刹魔は覚醒し真価を発揮する。

 力を手に入れる代わりに自身の血と確かな制御が必要となる。


 拡張機能を制御しきれず死亡した例が在るくらいだ。

 危険が伴うその機能を伊達寺は迷わず使用する。


()——」


 刹那。

 目が異常事態を捉える。

 小さな男女がデーモンの傍に佇んでいた。

 逃げ遅れか興味か。

 どちらにせよ危険だ。死ぬ可能性が在る。

 助けるべきか?思いが伊達寺の胸に去来する。

 疑問は遅延を生む。


 立とうとしたデーモンの足が子供達に迫る。

 立つ。その何気ない行為が悪と成る。

 このままでは潰れて死ぬ。

 泣き叫ぶ女の子を男の子が必死に庇う。

 助けに向かう伊達寺を彼は追い越した。

 この場で最初に危機に反応したのは伊達寺だ。

 但し最初に助けに動いたのは間違いなく彼だった。

 人命が彼にとって最優先。

 地場念正は愚直なまでに正義を行う。


 巨足が命を二つ圧し潰す直前に地場は抱えて跳んだ。

 勢い余って転がった。

 しっかり胸に抱いていたので二人の子供は軽傷だった。


「大丈夫か!直ぐ逃げろ!」


 二人の背を押し促す。


「う、うん!ありがとうっ!いこっ、ひーちゃん!」


 怯えながらも男の子は女の子の手を引いて走り出した。

 振り返り再びデーモンと相対す。


「っ」


 脚が痛み震える。

 子供達を救ける際にデーモンの足が掠めたらしい。

 脚の奥に痛みが響く。

 これでは踏ん張りが効かず全力の拳が出せない。


「まずったか」


 顔を(しか)める。

 だが。


「関係ねえ!」


 拳を構える。

 一際痛むが歯を食いしばって耐える。

 依然デーモンは地場を脅威としており迫って来る。

 小さな眼球がぎょろぎょろ動いている。

 今の状態ではデーモンの一撃を弾けるかどうかも怪しい。かといって攻撃を躱そうにも痛む脚が逃げを許さない。

 やるしかない。

 踏ん張りの効かない脚で真っ向から迎え撃つしかない。

 ズンズン迫るデーモン。

 地場は息を吐き拳を構えた。


「ここが正念場ってことか」


 デーモンが足を振り上げる。

 攻撃を弾くのではなくいなす。もし地場の力が足りなければ圧し潰されて死ぬ。

 地場には恋人が居る。大切な仲間も居る。

 こんな所では死ねない。


「来いよ」


 正直絶体絶命の状態である。死ぬか致命傷を負うか。軽傷のまま放逐は出来なそうだ。

 それでも地場の顔に浮かんだのは笑みだった。

 気持ちは決して負けていない。

 質量が凝縮された足が振り下ろされる。

 空気を押し退け人間を踏み潰さんと迫る。

 直撃する寸前。


 突如影が飛来した。


 その影はビルから一直線にデーモンに突進した。

 咲いた花を刈るが如くデーモンの首を刎ねる。

 よろけたデーモンはあまりの痛みに暴れまわった。


 地場に振り下ろされた足は軌道を変え傍らの地面を抉った。

 刈り取られた顔面がぼとりと落ちた。

 血が噴き出し白い躰を汚す。

 よろけながらもまるで子供の様に走り回り建物に激突する。

 瓦礫の雪崩が覆い被さりデーモンは沈黙した。

 飛翔した影は地場に駆け寄った。

 影の顔を確認し地場は納得した表情を浮かべる。


「地場、無事か」


「ええ。伊達寺が居るからもしかしてと思いました」


「あ、先輩」


 デーモンの首を刎ねた影——田擦は手刀で伊達寺を小突く。


「まさか地場が居るとは。心強い。其の脚大丈夫か?」


 不安そうな顔で地場の脚を見詰める。


「ええ。大丈夫です。掠っただけです」


 痛々しい笑みを浮かべる。


「そうか。おい伊達寺。お前は何してんだ」


 複雑な表情からムッとした表情に切り替わる。

 怒った顔も美人だな、などと地場は思った。


「何って。ほーちくしてました」


「こういう時に限って放逐云うな。放逐は重要だが場所は共有しろよ。あと探知機はちゃんと設置したんだろうな?」


 眉間にしわを寄せながら手刀で小突く。


「いやあ。目の前のデーモンを殺すのに精一杯っていうか。次からはきおつけます」


「気を付けたこと無いだろが」


 田擦は暫く口を曲げていたが諦めた様に溜息を吐いた。


「まあいい。今はあの巨大デーモンだ。視覚を失ったからとにかく暴れ回るだろうな。策を練るぞ」


 視覚を失った影響でデーモンは暴れ回る。それにより周囲の被害も拡大してしまう。

 今は瓦礫に敷かれ沈黙しているがじきに起きるだろう。

 建物にぶつけて動きを封じても良いがそれでは大変な被害に成ってしまう。

 何とか動きを封じ仕留める必要が在る。


「俺に考えがあります」


 二人を見詰める地場。

 瞳には決意が浮かんでいた。

 地場の頬に伝う汗が煌きながら落下した。



 沈黙していたデーモンがじたばた起きる。

 顔を失った激痛に苛まれる。

 視覚を失い暗闇の中だがとにかく立ち上がろうとする。

 巨体を持ち上げて立ち上がった。

 直後無邪気に無差別に駆け回り次々と建物に激突していく。

 兎に角走る。奔る。

 放っておいたら周辺は更地に成ってしまう。


 そんなデーモンの腹に何かが奔った。

 直後痛みと熱が襲う。

 血が零れるのが分かった。

 痛みから逃げる為走る。

 追う様に幾つも痛みが奔った。

 暗闇の中声を発することもできない。

 兎に角逃げる。

 執拗に奔る痛みから逃れる為大きく飛び上がる。

 暗闇の中上手く着地できるか分からないが最優先は痛みからの逃亡である。

 地面に叩き付けられようと構わない。

 躰に当たる空気を退けて地面に激突した。


 何か違和感。

 大地が足を押さず突き抜けてしまう。

 崩壊した地面に躰が嵌まる。

 デーモンは何が起きたか理解できない。

 暗闇の海を藻掻くことしか出来なかった。



 数分前。


「落とし穴作ります」


 いきなりそんなことを云う地場第二種放逐官。

 その表情は真剣そのものだ。

 思わずふっと笑う伊達寺を非難する地場。


「いやふざけてる訳じゃなくて(汗)。あの巨体の動き封じるにはでかい落とし穴に落とすしかないかなって」


「落とし穴っていう方法は良いと思う。地場ならデカい穴を空けられるだろう。けど問題はどうやって落とすかだ」


 デーモンが暴れ回っていればいつかは穴に落ちるかも知れないが穴に落ちる迄周囲に被害が出ることになる。だからといって穴を複数作れば地面が大きな被害を被る。つまり相手の視覚を利用せず一つの穴に誘導するしかないのだ。


「問題はどう誘導するかだが」


「ケツ斬りまくればいいんじゃないですか」


 伊達寺がデーモンを眺めながら提案する。


「どういうことだ?」


 訝しむ二人に続ける。


「あのデーモン痛みに敏感なんで後ろから斬りまくれば誘導できると思いますよ」


 なんでもないように云う伊達寺に田擦は共感した。


「確かにあのデーモン痛みに強く反応していたな。なら私と伊達寺で誘導して地場が穴を掘るか」


 掘る訳じゃないんですけどね、と地場が軽く挟む。


「じゃあいきますか。そろそろ動きますし」


 デーモンが蠢き瓦礫が零れる。


「頼んだぞ地場」


「たのんだ」


「はい。お願いします。二人とも」


 三者はそれぞれ散開した。

 田擦と伊達寺は分かれてデーモンに接近する。

 地場は後退し穴を空けるタイミングと場所を見極める。

 立ち上がったデーモンの背後に回り込みめいめいに斬りかかる。

 予想通り地場の方へ向かって来るが目前で跳躍した。


「まじか」


 走って向かって来れば穴に嵌めるだけで良かった。

 だが相手が跳躍した為落下点に穴を空けなければならない。


「丁度いいか!」


 落下予測地点を叩き地面を砕く。

 直ぐに転がり体勢を立て直す。


 地場の負傷した脚では地面に大きな穴を空ける為に無理をする必要が在った。だがデーモンの着地の衝撃が大きい為地面を脆くするだけで穴に嵌める事が出来ると判断した。

 身体に無理をさせずデーモンの動きを封じれた為デーモンの跳躍は僥倖だった。


 白い巨体が着地と同時に地面が瓦解し自身の空けた穴に嵌まる。

 重い振動が響く。

 デーモンは混乱しているのか頻りに躰を捩っている。

 躰の半分が埋まってしまい抜け出せない様だ。

 目の前の巨体には腕が備わっていないので抜け出す方法は皆無だろう。


 戦いの幕を下ろす為最後の一撃を構える。

 関節に付いた歯車の装飾が回転し全身の刹魔が力を蓄える。

 大地が震動し大気が嘶く。

 力の激流が全身を駆け回る。

 ゆっくり息を吸い拳を装填した。


「ありがとう。二人とも」


 同期とその先輩に感謝を馳せて。

 拳を発射する。


 打‼


 力の塊がデーモンの腹に炸裂する。

 デーモンの腹に衝撃が突き抜けはためいた。

 衝撃に煽られた躰が凝縮され一気に爆発した。


 血肉が拡散し降り頻る。

 目の前には砕けた骨が残っていた。

 歪な其れは他の生物とはまるで様相が違う。

 純白の刹魔の色が段々変わっていく。

 血の雨が辺りを濡らし戦いの痕を赤く染めていた。

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