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アクマテキ  作者: なん
一章
4/34

接敵

 数分前。

 某所。


 伊達寺削鍬は欠伸をした。

 人混みを避けつつビル群を縫い歩く。

 高層ビルが落とす影で涼みながら色々と考える。

 先輩に探知機を設置しろと指示された。しかしこれで何が変わるというのか。こういうちまちました作業は苦手なのだ。


 其の探知機を軽く投げ上げながら空を仰ぐ。

 デーモンを放逐するのは得意だ。

 目の前に出てくれば直ぐにでも殺してやるのに。


 ゆらゆら歩きながらゆらゆら考える。

 伊達寺はデーモンを殺したいと考えてはいるが探して殺したいとは思っていない。

 ある意味矛盾ともとれる厄介な性格。

 接敵しない限り彼の強みは発揮されないのだ。

 目的も無くふらふらと進む。

 人混みは苦手な様で人通りの少ない場所へ自動的に移動している。


「あ」


 ここで持っていた探知機を落としてしまった。

 田擦がその場に居たら拳骨ものである。

 コロコロと転がる其れは曲がり角へと入り見えなくなった。


「もー」


 牛みたいな音を奏でながら探知機を追う。

 角を曲がるとそいつは居た。

 いや。デーモンでは無かったが。


「いいじゃん?一寸だけお茶しに行こ?」


 優秀な優秀な第二種放逐官、揉短班長。

 オレンジの髪を弄りながら女性に迫っている。

 黒髪ショートカットの女性は壁に追い詰められたじろいでいる。

 んー?あの人どっかで見たことある様な。

 揉短の事は知っていて当然だが伊達寺が注視しているのは女性の方だ。

 あの女性、どこかで誰かに紹介された様な。


「んんー?」


 記憶の底を精一杯掘り出す。

 思わず首を傾げた伊達寺に揉短はいち早く反応した。


「なんだお前か。安心してよこの人うちの下っ端だからさ」


 柔らかく女性に説明する。

 下っ端という表現に含みを感じる。

 含みを感じたのは迫られていた女性だけだったが。

 獲物の女性から離れ此方に近づく揉短。


「どうしたの?仕事中でしょ?俺は休憩中だけど。まあそう硬くならないでよ。この前のことはお互い忘れよ?」


 既に忘れている伊達寺にそう諭す。

 肩にぽんと手を置き顔を近付ける。


「ここは空気読んで下っ端はどっか行ってくれる?」


 嘲りを含め耳打ちする。

 怯えた顔を想像し笑みを浮かべる揉短。

 財力、権力、筋力。力は全てを解決するぅ。

 にやつく揉短を歯牙にもかけず伊達寺は前進した。


「は?」


 肩から思わず手が離れる。


「どっかで会ったことありませんか?」


 女性の前に立ち聞いてみる。


「え、えと」


 女性はナンパの仲間が来たと勘違いし、恐怖で顔が見れない。

 震える手を握っている。


「俺ですよ俺」


 詐欺等に使われる文言に一層警戒心を強めたが恐る恐る顔を見る。

 強張った顔が少し緩んだ。


「あれ?もしかして」


「おいおい!なに邪魔してくれてんの!」


 強引に割って入り伊達寺の胸倉を掴み上げる。

 怒り心頭といった表情だ。

 下に見ている相手に二度も無視されたのだ。

 プライドが許さないだろう。


「前から思ってたけどさ、お前何なの?下っ端は仕事しろよ。下っ端は強いデーモン放逐出来ねえんだからせっせとサポートしとけよ」


 嘲る様に吐き捨てる様に言い放つ。

 自然と胸倉を掴む手に力が入る。

 前々から気に食わなかったのだ。

 実力も功績も無いくせにへらへらしやがって。

 俺は死に物狂いで努力して今の地位にいるんだよ。


「ザコはすっこんでろよ」


 自然と出た言葉だった。


 隙ありといった感じで逃げる女性。


「ああ行っちゃった」


「ああ!?」


 いつまでコケにするつもりだ。

 この俺を無視しやがって。

 怒りに囚われる。

 女の子は後で追いかければいい。今はこいつだ。

 どうにかして舐めた態度を矯正せねば。


 どうして胸倉を掴まれているのか伊達寺は分かっていない。

 放してくれないかな。邪魔だな。

 そんなことを考えていた。


「ていうか」


 ここで伊達寺は決定的で単純な疑問を口にした。


「誰ですか?」


 ぶちっ。


 揉短の何かが切れて一気に体温が上がる。

 反射的に拳が振り上げられる。

 構えられた拳を伊達寺は見詰めていた。

 目の前の怒った顔と準備された拳に何だか困ってしまう。


「はあ」


 吐いた溜息と同時に拳が発射される。

 一直線に伊達寺の顔面に直撃——せず壁に激突する。


「ぐっ」


 思い切り殴ったのでその分痛みも大きい。

 拳が割れた様な感覚がして咄嗟に拳を庇う。

 拳がジンジンと痛み熱をもつ。

 振り向き伊達寺を捕捉する。

 先程迄壁に追い詰めていた。


 突き出した拳は避けようがなかった筈だ。

 だがこいつは一瞬で背後に移動した。

 歪んだ顔で睨み付ける。

 いくら何でも速すぎる……!

 更に表情を歪ませる揉短を伊達寺は無言で眺める。


 何だか可哀想だな。

 その瞳は同情か。軽視か。

 弱いって可哀想だな。

 目の前の瞳から滲む感情に揉短は猛烈に反応した。


「見下してんじゃねえぞおおおおおおお!」


 肉食獣の如く突進する。

 手を広げ相手を拘束しようと接近する。

 が。

 伊達寺の瞳が一瞬だけ色が変わった様な気がした。

 そう感じた時には揉短の意識は暗闇の中だった。



 何だかざわざわしているので音の方へ行ってみる。

 本来なら人混みは嫌いだがデーモンが出てざわついているのかも。

 建物の影から出る。

 隠されていた太陽が姿を現し光が伊達寺を突き刺す。


 滲む視界を瞬きで鮮明にして辺りを注視する。

 女性陣が何やら騒いでいる。

 手で双眼鏡を作り女性の輪の中心に目を凝らす。

 囲まれているのは長身で美形の男。

 有名な俳優だったか。

 どうやらプライベートで見つかってしまったらしい。

 相当人気なのか人がわんさか集まって来る。


「きゃー金城さんぶくぶく」


 輪の中の一人が泡を吹いて倒れた。

 別の悲鳴が混じる。


「なあんだ」


 明らかに気を落としまた影に舞い戻ろうとする。


「きゃあああああ!?」


 明らかに異質な悲鳴を鼓膜が捉えた。

 一瞬で振り向くとそこには誰もが避けたい光景が広がっていた。

 見上げる程の白い巨体がどこからか飛んできて建物にぶち当たる。

 文化の塊は一瞬で瓦礫と化し人を襲う脅威と成る。

 叫びながら逃げ惑う人々。

 巻き上がる土埃。

 むくりと立ち上がる巨大デーモン。

 誰もが避けたい光景。

 伊達寺が待ち侘びた敵。

 きた‼



 コンクリートの地面を蹴り飛ばし一直線に突進する。

 デーモンの体躯は十五メートル程度。

 見上げる程だ。

 大きな丸い躰に短い脚。手は無い。

 白い球にびっしり覆われた皮膚は風船を集めて造形した様だ。


 スーツの胸ポケットに手を突っ込み其れを取り出す。

 放逐官はデーモン放逐の専門家である。

 デーモン放逐には専用の兵器を用いる。

 現代兵器が効かない訳ではないがデーモンの血肉を素材に開発した其れは大きな殺傷能力を持つ。そして個人に合った造形に生成することでより効果を発揮する。

 其の兵器の約一割はデーモンの血肉で出来ている。

 逆に一割に抑えなければ扱いが難しくなる程だ。

 その兵器の名は。

 刹魔——さつま——。


 取り出した刹魔はライター程の大きさで片手で握れる。

 未だ真の姿ではない。スイッチを押し込み起動させた。

 一気に膨張した刹魔は生物の様に蠢いている。

 渦を巻きながら其れは武器の形をとった。

 魚の(ひれ)の様な白い刃を持つ槍。

 其れが伊達寺の刹魔の真の姿だ。

 戦闘形態とも呼べる。


 片手で回しながらデーモンに接近する。

 巨大な脚が迫り圧迫感に圧し潰されそうな感じがする。

 大きく踏み込み一閃。

 裂かれた皮膚から鮮血が零れる。

 この巨体だ。さほど大きな傷はつけられない。

 急所を狙う必要が在る。


 繰り出される蹴りを横に跳んで避ける。

 豪!と白い塊が目の前を通過した。

 掠っただけで体が持っていかれそうだ。

 ビリビリした緊張が皮膚を刺激する。

 高速で通過する巨足に刹魔の刃を合わせる。

 幾つか切り傷をつけたが致命傷には成っていない。

 どうやって急所を狙おうか。

 冷静に思考する。

 様々な作戦が浮かんでは消える。


 踏み潰さんと落下してくる足を転がって避ける。

 一度距離を取ろうか。

 脚に力を込める。

 刹那、伊達寺の考えを晴らすようにデーモンは吹き飛んだ。

 大きく吹き飛んだ訳ではないがデーモンはこけた。

 相当な力を与えないとこうは成らない。

 いったい誰が。


「大丈夫ですか?加勢に来ましたっ」


 溌溂とした声が掛けられた。

 その方を見ると白い鎧を纏った男がいた。

 動きやすさを重視した厚すぎない鎧。顔は隠れていない。

 目を合わせると相手の真剣な顔が少し緩んだ。


「って伊達寺!久し振りだな!」


 漆黒の短髪に爽やかな表情が良く似合う。


「ああ。地場じゃん」


 巨大デーモンを吹き飛ばした男の正体は伊達寺の唯一の同期。

 史上最速で第二種放逐官に出世した男。

 地場念正——ちば おもただ——。

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