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アクマテキ  作者: なん
一章
3/34

設置開始

 「兎に角今はデーモン捜索だ。私たちの役割を果たすぞ。揉短班長が仰った様にデーモンは身体が薄く見つかり辛いだろう。班長達が作戦を立ててくれてる。私達はすこしでもデーモンの出没エリアを絞るぞ」


 清々しい晴天の下、ビルの屋上に立った田擦は伊達寺に呼び掛ける。

 吹き抜ける風が心地良い。纏わりつく残暑を攫ってくれる。

 屋上の端に立つと文化の結晶と景色を一望できる。純粋に綺麗だと思った。


「探知機は持ったな?それはデーモンを感知する探知機だそうだ。効果範囲はそこまで広くない。穴が無いよう均等に配置していくぞ」


 腰に装備した探知機を摩る。

 小型軽量探知機。デーモンの発する熱を感知して捕捉できる。

 通常使用するには申請が要るのだが揉短班長が気を利かせ支給してくれた。

 驚く程優秀である。


「私は上から設置していく。伊達寺は下から頼む。質問は有るか?」


「ないです」


 耳に装着した端末越しにくぐもった声が聞こえた。


「良し。行くぞ」


 音声を切り助走をつける。

 素早く駆け出し屋上の縁を蹴る。

 全身が浮遊感に包まれ自然と高揚する。

 死の狭間を飛び越して隣のビルに飛び移る。

 屋上にしっかり手を着いて転がる。

 硬い衝撃を受け流しゆっくり立つ。

 先刻の屋上とは色が少し違うなと思った。


 まるでばねの様に次々と建物に飛び移り探知機を設置していく。

 仕事中ではあるがこの時間は案外好きだった。

 颯爽と飛び回るこの時間。

 まるで違う生き物に成れたような自由に成れたような感覚を味わえる。

 風に成ったような。風に去ったような。


 吹き走る最中気になるものを見つけ静止した。

 纏った風が解けていく。

 見ると保育園児くらいの男の子と女の子が喧嘩していた。

 男の子が何やら怒っており女の子の目がうるうるしている。

 素早く飛び降り建物の凹凸をうまく利用し着地。

 子供たちに近寄って声を掛ける。


「こらこらどうしたの?きみたち」


 近付いて視線の高さを合わせ優しく語り掛ける。

 女の子は潤んだ目を擦りながら此方を見ている。

 男の子はむっとした表情で何かを握り締めていた。


「ひーちゃんがうそつくのがわるいんだ」


 小さな手を女の子の方へ向ける。

 女の子はひーちゃんと呼ばれているらしかった。


「わたしうそついてないよ。ひろくん」


 目を赤くした女の子は小さな手で服の裾を握っている。

 ひろくんと呼ばれた男の子は納得いかないようでまだまだむっとしている。

 ひーちゃんの頭を撫でながら田擦は促した。


「まあまあ。何があったか話してくれる?」


 ひろくんは口を尖らせながら持っていた端末をむんずと掲げる。


「ひーちゃんがうそつくのがわるいんだ。これにしょーこあるもん」


 ?今一要領を得ない。

 ひーちゃんに語り掛けてみる。


「なにがあったか教えてくれる?」


「デーモンがいたの。それをひろくんにいったらうそだって。おなじじかんにおなじデーモンみたって」


 同時刻に同じデーモンを見たのか。しかし其れは在り得ない。

 今まで形質の同じデーモンは発見されたことがない。

 似たデーモンには遭遇したことがあるが全く同じ個体など何処を探してもいない筈だ。

 考えられるとすれば何らかの特性を持っているか。つまりそいつは第二種級以上のデーモンということだ。


「デーモンを見たの?君たちは何ともない?」


 うんとそれぞれ無事を肯定する。


「ぼくはどうがとったんだ!」


 えっへんと云わんばかりに胸を張る。

 動画に収めただと?下手すれば第二種級以上のデーモンを?


「何してるの!直ぐ逃げないと!今大丈夫でも次大丈夫かは分からないんだよ!」


 思わず語気を強めてしまった。

 しまったと思った時にはもう遅い。

 二人ともぽろぽろ泣き出してしまった。


「ごめんね。でも危ないからもうしたらダメだよ。私は放逐官だからよかったら詳しく聞かせてくれる?」


「「ほーちくかん」」


 二人して放逐官の言葉に反応している。

 仲は良いのかも知れない。


「えっとね。まえにデーモンをみつけたからどうがとったの。みんなにジマンしようとおもって」

「どうがみたらおなじじかんにわたしもおなじデーモンみたの」


「ぴったり同じ時間だった?」


「ううん。でもほとんどいっしょ」


 殆ど、か。

 もし陀付ならば移動速度が速いから二人が近い距離に居ればほぼ同じ時刻に同じデーモンを見ることができる。

 別のデーモンが出現した可能性も在るが。

 どちらにせよその動画とやらを見なければ分からないだろう。

 結果的に云うならばこの動画は大きな効果を(もたら)した。


 小さな端末を三人で覗く。

 灰色の建物群のなかで小さな白い物体が現れては消える。

 遠くて細かい所迄は見えないがこの形質は恐らく私たちが追いかけているデーモン、陀付。

 其れがあちこちを移動している。一瞬間に。


「しゅんかんいどうしてるんだよ。すごいでしょ」


 瞳を輝かせて呟くひろくん。

 瞬間移動。テレポート。

 明らかに特性持ち。

 この特性なら離れた場所でもほぼ同時刻にデーモンを見れる。

 中々見つからない訳だ。

 第四種級だと思っていたデーモンが第二種級以上だったのだから。

 ましてテレポートの特性持ち。


 改めて確認する必要は在るがこれは大きな発見だろう。

 作戦を立て直す必要が在る。

 急いで共有だ。


「有難う二人とも。お陰で放逐が大きく進んだよ」


 めいめいに喜ぶ二人に大事な事を伝える。


「ひろくん。男の子は女の子を泣かせるんじゃなくて守ってあげるんだよ。いいね?」


 ひろくんは頷きひーちゃんに頭を下げた。


「ごめんなさい」


「いいよ」


 もじもじしながら許したひーちゃんの頭を撫でる。


 手から純粋な心が伝わってくる気がした。


「ひーちゃん。守られるだけじゃだめだよ。苦しい時は支えてあげて。間違ってたら怒ってあげてね」


 こくりと頷く。


「よし」


 にかっと笑って立ち上がる。


「二人とも有難う。気を付けて帰るんだよ。それじゃあね」


 手を振って別れる。

 子供たちは大きく手を振ってくれた。

 空いた手は相手の手を握っていた。

 すぐさま伊達寺に連絡を取る。


「伊達寺。分かったことが幾つかある。一度本部にもどっ「先輩!」


 言葉が遮られた。

 端末が何やら騒々しい。


「今デーモンと戦ってます。また連絡します!」


 ぶつっ。

 端末が無音を発する。

 込み上げる様々な感情を溜息と共に吐き出す。


「ったく!」


 田擦は駆けた。

 遥かな太陽が通りすがりの雲に遮られる。

 滲むように辺りの世界が少し暗くなった。

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