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アクマテキ  作者: なん
二章
12/34

傷跡

 魔的対策機関本部からほど近くに位置する病院。

 とある一室で田擦は報告を行っていた。

 俯き気味にぽつぽつ説明する。


「揉短班長、ヰ丁班長、揉短班三名、ヰ丁班三名、三倉班員三名。以上十一名が殉職しました。第二種級デーモン陀付の特性は複製。自身を十五体複製していました。今回の作戦で合計十六体を放逐。機関が調べた限り十六体の中に本体がいたようであれから陀付の複製体は現れていません。今回の作戦は兎に角時間がありませんでした。少ない情報でテレポートの特性だと断定してしまった。情報を精査する時間は必要だったかも知れない。しかし時間を掛ければそれだけ被害も大きくなっていたでしょう」


 人々を守るためとはいえ放逐官が犠牲になるのは耐えられない。

 自分も速く成果を挙げなければと焦り子供が撮影した動画を精査しなかった。

 慢心していたのだろう。実力者たちが揃っている合同班なら必ず放逐出来ると信じていた。信じてしまっていた。


 私がもっと注意していれば。私がもっと慎重だったら。私がもっと強ければ。

 悔しさで手が震える。

 彼らの死は決して無駄にしたくない。彼らの分まで私がデーモンを放逐する。私の人生はデーモン放逐に捧げる。


「今回の放逐は誰かが悪い訳じゃなかったと思います。デーモンが想定以上に強かった。唯それだけだと——」


「君は優しいのだな。知らなかった。いや知ろうとしていなかっただけか。俺は何も知ろうとしていなかった。自分のことばっかりだった。守るべき人々の事など本当は考えていなかったのだ。はは。班長失格、いや放逐官失格だな」


「三倉班長——」


 云いかけるが言葉が詰まる。

 悲痛に項垂れる彼に掛ける言葉が見当たらない。

 灰の様に成った彼に私は何もしてあげられない。

 私は本当に無力だな。何も出来ない。何も成せない。


「報告有難う。田擦。……済まなかったな」


 何故謝るのだろう。謝るのはむしろ私の方だ。

 だが言葉が出ない。脆い彼に触れてしまうと壊れてしまいそうだったから。


「……失礼します」


 悔しさを噛みしめながら部屋を出る。


「機関に戻らなきゃ」


 自分の脚が勝手に院内を歩く。まるで自分のものじゃないみたいだ。

 全身の力が抜けていて何度か躓く。

 院内の電灯がいやに眩しくて目を伏せながら歩いた。



 機関に戻った田擦は伊達寺と合流した。

 報告書を書かねばならず機関の作業スペースで端末のキーボードを叩いていた。


「お腹すきましたねえ」


「そうだな」


「ご飯いきましょおよー」


「これが終わったらな」


「いつ終わります?」


「伊達寺が手伝ってくれたら速く終わるな」


「まあ待ってあげますよ」


「手伝いはしないのな」


「ええ。俺そういうの苦手なんで」


「まあ最初から期待してないが」


「ひでーー笑笑」


 キーボードをたたく音が断続的に響く。

 この作業スペースには田擦と伊達寺と離れた席に数人の放逐官が居た。

 比較的静かで作業に向いている場所だ。

 田擦は掛けていた眼鏡のフレームを人差し指で押した。

 普段は眼鏡を掛けないが書類を書く際は眼鏡を掛ける。


 伊達寺はというと傍で机に身を預けていた。

 何やらぶつぶつ云っている。

 寝そべりながらふと此方を見る。

 伊達寺の瞳がぼさぼさの茶髪の隙間から覗く。

 瞳が交差する。

 なんともいえない緩んだ空気が流れた。


「そういえばよ」


 離れた机に座っていた一人が声を上げた。


「揉短班長いるだろ。あの人しんだらしいぞ」


 三人の屈強な男がファストフードをつまんでいた。

 この場所は作業する為の場所でありご飯を食べる場所ではないのだが。

 ともかく何か話している。

 無視すればいいのにどうしても言葉を追ってしまう。


「あー揉短班長な。俺らと同じくらいの年で第二種放逐官だろ。優秀だったのになあ」


 不思議と彼らに死を悼む雰囲気を感じなかった。


「優秀だったけどなんかイキってたよな。無駄に偉そうっていうか」


「あー分かるわー。俺はお前らとは違うって雰囲気出してたわ」


「でもあの人、裏で頑張ってたぽいぜ。毎日トレーニングして刹魔の制御訓練もして」


「へえーすげえじゃん」


「まあどれだけ頑張っても死んだら世話ねえよ」


「確かにな。死ぬってことは弱いってことだろ。なんか第二種放逐官って大したことないんじゃねえか。俺でもなれるんじゃね」


「いやいやお前じゃ無理だろ」


「俺は強いから揉短みたいに死なねーって」


「うわひでー」


 無視だ。無視しろ。気にする必要は皆無だ。

 彼らは知らないだけだ。陀付の強さを。揉短班長の強さを。

 気にするな。目の前の事に成長しろ。


「放逐官の階級ってさ、機関とか一般市民への貢献度で決まるだろ?強いデーモンを放逐できても出世できる訳じゃない。つまり弱い奴が第二種放逐官になる場合もある」


 確かに放逐官の階級は純粋な強さだけでは決まらない。実際放逐の得意な伊達寺が第四種放逐官なのだから。だが階級が上がるということは実力が認められているということだ。そして揉短班長は確かに強かった。


「弱い奴が出世してたのかー。なら遅かれ早かれ死んでたんじゃね?」


「弱いくせに偉そうにしてたのかよ。なら死んで当然だな」


 ぶつっ。

 何かが切れた。


 全身が熱くなり何も考えられなくなる。

 憤怒が全身を突き破り噴き出しそうだった。

 勢いよく立ち上が——。


「すいませんー」


 いつの間にか伊達寺が男たちの前に移動していた。

 にやつきながら頭を掻いている。


「あ?」


 知らない男がへらへらしている様子を見て男たちは機嫌を損ねている。


「こわっ。いやあ大したことないんですけどね。まあ大したことないのはあなたたちなんですけど」


「へえ」


 男達は三人とも立ち上がり伊達寺を囲った。


「なんだ喧嘩売ってんのか?」


「いい度胸してんなあ」


「こういう馬鹿は痛い目見ないとわかんねんだよ」


 一人が伊達寺の胸倉を掴んだ。


「俺も同じ考えです」


 男達の動きが止まる。


「あ?ああ!揉短の話か!なんだよお前もあいつが気に食わないのか?分かるぜえ弱いくせにイキって死ん——」


「いやそうじゃなくて。馬鹿は痛い目を見ないと分からないってやつです。ほんとに馬鹿なんですね。おもろ」


「ああ!?」


「うるさっ。いいからとっととかかってこいよ雑魚三匹」


 伊達寺の煽りに三人は同時に激昂した。


「殺す」


 丸太の様に太い腕が掲げられ大きな拳が放たれた。

 伊達寺は首を傾げて避ける。

 つぎに男二人の髪を握り締め顔どうしを激突させた。


「ぐっ」


「ぎっ」


 呻き声が漏れた。

 鼻が曲がり二人の唇が合わさっている。


「ここはイチャつく場所じゃないですよ」


 掴んでいた二人を放り捨てる。


「てめっ」


 残った一人は伊達寺に突進しぶつかる。

 掴まった伊達寺は壁に打ち付けられた。

 即座に肘を後頭部に打ち下ろす。


「がっ」


 悶絶する男の首を掴み上げ傍にあった机の角に思い切りぶつけた。

 声にならない声を上げ男は倒れた。


「伊達寺……」


 何事も無かったかのように田擦の傍に座りまた机に突っ伏す。


「やりすぎだ」


「先輩があいつらぼこったら問題になるでしょ。そしたら誰が報告書書くんですか」


「っ。はあ」


 大きく溜息を吐いた。

 伊達寺なりに気を使ってくれたのか。だとしてもやりすぎだが。


「伊達寺——」


「先輩は」


 田擦の言葉を遮り伊達寺は云う。


「先輩は生きてます。そしてこれからも生きていく。生きてデーモンを殺していく。こんなところで躓いていられないでしょう?」


 伊達寺の言葉が胸に突き刺さる。

 そうだ。私はデーモンを放逐しなければならない。そして一人でも多くの人を救わねばならない。それが私が生まれてきた理由。


「はあ。そうだな」


 溜息を吐きながらも田擦の表情はどこか澄んでいた。


「ああそうだ。伊達寺」


「なんですか?報告書終わりました?」


 真っ直ぐ此方を見てくる。

 その顔に少しだけ微笑んだ。


「デーモンは殺すじゃなくて放逐な」


 直後、通りかかった放逐官が人を呼びちょっとした騒ぎになった。

 どうやら三人の男は仕事をさぼってばかりの問題児らしかった。

 彼らは班長にこっぴどくしごかれた後に改心して活躍していく。

 それはまた別の話。

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