第七章 運命の相手探し②
翌日に目が覚めるとそこには昔、草野球で出会った平岡龍の姿が!
「ごめん、迷惑をかけて……」
「大丈夫だよ、困った人がいたら助けるのが当たり前だよ」
「ありがとう。ところでここは?」
何故か、すごい豪邸だ。
「今まで黙っていたけど、僕は華族なんだ。でも結構自由だよ。理由はわからないけど、血筋じゃないかな……」
「え、だったらなんでお前はあのとき俺たちと野球していたの?ここからだと結構遠いよ」
「走って東京まで来たお前が何を言える」
「なぜそれを知っている⁉」
「寝言で『まだ走らなければ、まだ走らなければ、運命の人を見つけなければー!』って叫んでいたよ。疲れ具合から見ても電車で来たような疲れではなかったからな」
滅茶苦茶恥ずかしかった。
「理由があるとすればおじいちゃんと縁が深かった場所だからね」
「いったい何の縁があって?」
「よく分からない、知る機会すらなかったしね」
「そうか……まあ、あの時は楽しかったから別にいいけど」
「ありがとな」
元気な彼の姿が見ることができて何よりだった。そしてその流れでふと浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「……今も野球をやっているのか」
「無理だよ。あの時は暇だったから」
しばらくお互い黙りあってしまった。
気まずい雰囲気の中、平岡が
「俺は華族だ。身分が違う……身分が違うんだよ……俺は勉強しなくちゃいけないんだ。この国のために。他の人とは違うんだ。だから……」
彼とは友人だった、だから分かる。此奴の言っている『身分が違う』は俺への軽蔑ではないと。みんなと一緒に遊ぶ自由すらないことに対して無理やり自分を納得させている感じだった。
「……四民平等って言葉は、政府の言う戯言に過ぎないのかもしれない。でも、四民平等は人が追い求め続けた究極の自由だと思う。今は変わることはないかもしれない。でも、変わり続けるという不変の真理がある限り諦める必要はないよ」
「カッコ付けか?」
「ああ、そうだとも。それとも他に何か欲しい言葉でもあるのか?」
「充分だ。ありがと、話を聞いてくれて」
自分でもだいぶ気障な言葉を言ったとは思うが、僕の色々な信念のうちの一つだ。この理想を話すことは初めてだったけど恥なんかじゃない。恥ずかしいけど、胸を張って言える。俺はそのために警察官になるんだ。この日本を改革を
するために。
「だからこれからもタメ口許してくれるか?」
「旧友だからな、ただ親しき中にも礼儀ありという言葉を忘れるなよ」
「ありがとな!」
「ところで運命の相手は見つかったのか?」
「見つかっていたらお前さんには会っていないよ」
「そりゃどうも、何だったら紹介するか?」
「…………え」
「さっきの礼だ。まあ紹介状を書くだけだけどな!」
棚から牡丹餅とはまさにこのことだ。
「マジでか。ありがとう」
「侯爵だからな、見分は親の百倍はある」
「それはお前の才能だろ」
「さすがに騙されないか、信じられないくらい物知りな地主の子だな」
「地主は偶然だ、というか小作人は一切雇ってないから地主ですらないぞ。てかちょっと待て俺は一言も親のことなんて……」
「そうかそうか、まあそこで待っていろ。今から話に行くから」
はぐらかされた。絶対にアイツ何か知っているな。後で問い詰めてやろう
しばらく待っていると、世話係がやってきた。奇麗な人だった。俺はそんな質ではないがドキッとしてしまった。これが世に言う一目ぼれなのだろう。平岡がいなかったために恥じらいがなかったせいか思わず口から本音が出てしまった。
「一目ぼれしました、僕と付き合ってください」
「………………え⁉」
しばらくの間無言が続いたのは言うまでもない。
「で、お前はうちの世話係に一目ぼれしたわけか。相談しなくてもよかったな」
僕が告白したところは見られてはいなかったのだが両方とも黙り込んで目を合わせようにも合わせづらい気まずい状況を察せられてしまった。こうなるとなかなか進展しないから一回、龍と二人きりで話すことにしたのだ。
「というか本当に運命だな。お前がここまで走ってきて、気を失って、たまたま俺に拾われて。そしたら君が一目ぼれした相手に出会ったと。どんな偶然が続いたらこうなるんだよ。本当に意味が分からない……」
「言っちゃ悪いがこっちも同じ気分だよ。心が晴れ渡っている感覚がするけどな」
「嫌味?」
「君と必然への感謝」
「必然って、どういうことだよ」
「とても偶然に近い、『必然』だよ」
「……たまにお前の言っている意味が分からなくなるんだけど」
「それよりも、だ。本当にいいの?」
「こっちのセリフだ、馬鹿野郎。お前、親の意見はどうするんだよ。反対されでもしたら……」
反対って……ああ、そうだ。思い返せば僕らの家族は他の家に比べて異様だった。兄さんは婿入りしたいと言い出したり次男が旅館の経営を手伝って兄さんの夢を叶える手伝いをしたり、大学へ行けと華族と同じような選択肢をくれたりする。そして自由恋愛を認めている。こんな家族は、村の中ではどこも見たことがなかった。俺の親は一体何者なのか見当がつかない。そして……
「おい、どうした。そんなに思いつめた顔をして。やっぱり難しいのか……」
「え……ああ、そっちの方は僕に一任してくれてあるから大丈夫。あとは……彼女の返事だけ」
「一番大変そうだな」
「多分男が抱える緊張の瞬間上位十位には入ると思うぜ」
「俺は親に決めさせられているから。そういう意味だと悩む必要はない」
「……?」
「華族は自由恋愛できるわけがない。いい家柄同士が入籍することを望んでいる、というか利権目的で親
は結婚させるんだよ。子は親に逆らえないもんなのさ。」
「お前は自由恋愛がしたいのか。華族って奴はやっぱり堅苦しい」
「おい、それは俺に対して失礼だぞ。俺は堅苦しいとでも言いたいのか」
「良い意味で龍は例外だよ、性格上破天荒なことをしそうだからね」
「誉め言葉なのか?」
「そのつもりで言ったけど」
「……そうか」
龍は少し嬉しそうな顔をしつつも、その瞳の奥には何か諦めているようなものがあった。
その後も話は続き、爵位やどうやって親の許可を取るかなどを話していった。
「お前の家に爵位が与えられていないのが本当に不思議だよ」
「俺もそう思っているぐらいだよ。まさかこっそりとっていたりして……まさかね。それでいま彼女はどこにいる?」
「君の後ろ」
「‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼(声にならない声)」
「きゃああああああああ!!(椅子をけって横跳びで大ジャンプした僕に悲鳴を上げている)」
こぼしたお茶の片付けなどで結構苦労した。
ビビった。気配を消すのがうますぎだろ。六郎以上じゃねえか。
「六郎より上手く気配を消せる人間が居るなんて思いもよらなかったわ」
「たぶん彼女の方がビビっているよ。椅子を蹴り上げて5メートルくらい後ろに飛び跳ねたのだから」
「すみません、『古畑順子』さん」
「こちらこそ、影が薄くてすみません……」
マズイ、影が薄いのは影が薄いのはコンプレックスだったかな?
「……ところで彼女のどこに惚れたんだ?」
「一目惚れ。彼女が美しかったから。あと……所作がとてもきれいだと思って、一つ一つの物事に真剣に
向き合ってくれそうな人だと感じたからだよ。何かここで逃したらもう次はないと思って」
「……………あ、ありがとうございます」
顔が赤くなっていた。
「まずは、彼女の意見だな。大前提として。古畑はどう思っているの?」
「……わ、私は…………」
「お前、突然答え出せるわけねーだろが、もうちょっと考えさせてあげるってのが筋じゃないのか⁉」
「そういう選択の余地すらない俺によく言うよ」
「私は、悪くないかなって……」
照れながらいう彼女を見て僕は、嬉しすぎて声をあげて泣いた。親の約束なんかとは関係なく、運命の人と愛し合えるかもしれないという感動から。
「泣きすぎ!男がそんなに泣いてどうする!」
「神様に……ひぐっ、会えた気が……ひぐっ、して」
「不安だったんでしょう、東京まで走って来てまで運命の人を探そうとして見つからなかったらどうしようって、怖かったんだと思います」
「ありがとう、ありがとう!」
紆余曲折ありながら有事に運命の人を見つけることができた。後は……親の説得か。まだまだ苦労は絶えそうになかったが彼女のためならばどんな試練にも耐えられる気がした。
ただ、これらの試練は警察に入ってから起きる数々の抗争や事件に比べれば本当に軽いものだと痛感させられた。闇はとことん暗いのだと。
新作です。不規則にしても投稿が半年も遅れてすみません。気に入らなかったら評価最低でもいいので改善点があれば、ぜひお願いします!