第三章 振り返ってみた
なんだかんだ、この数年間とんでもなく大変だったり暇だったりして、さっさと現世に帰りたいという気持ちがまた強くなってきた頃のこと。僕はこの、物を持つことができて意識をすれば字を消すことができるこの能力を使って、手の平を使いここまでのことを整理してみようと思った。この世界に来たが所々忘れていくのは、何故かやってはならぬことなのではと自分の第六感がそう叫んでいた。
・祖父と思われる人物の夢を見たので曾祖父の家に行き祖父について話を聞こうとした
・曾祖父の家に来てまずは大掃除をした
・祖父の部屋を掃除しながら何かないかと探したら壁が倒れて階段が出現した
・降りてみると祖父の書いた日記が大量に発見された。
・読んでみると気づいたら過去にいた
という感じになった。
(改めて確認してみたけど何か運命を感じるのはなぜだろうか……もし僕が友行さんの夢をお父さんに話していなかったら、もし大掃除を念入りにやっていなかったら、もし日記を読まずお父さんやひいおじいちゃんに言っていたら全部運命は違った気しかしない)
ここまでくると偶然とは思えなくなってくる。必然だったのだろうか。神のみぞ知るところだがきっと必然だったのではないかと僕は思う。いや、この世界に、過去にタイムワープしたのは人知を超えたものである。今思えば神様という存在は本当に存在するのかもしれない。タイムワープしたことに加えてこの過去の世界にいる人からは僕が見えないこと。そして意識をすれば字を消せること。こんな超能力は人間が持てるものではないというのは確かだ。不思議にしか思えないがもしかしたら神様に懇願すれば現世に戻れるかもしれない。でも前にも言った通り僕はこの世界に居ることができるのであれば長く居たい。そうすれば曾祖父の知らない祖父の姿を見ることができるかもしれないから。それに僕の祖父と会える最後の機会かもしれないから。なぜかといえば現世に戻ったところでまた同じような状況で過去に戻ることができるという保証はどこにもないからだ。だから改めてこの世界で曾祖父の知らない祖父の姿を見てみたいと強く感じたのだ。そのころになると、もう自分には現世に戻りたいという気持ちよりも祖父の人生を見てみたいという気持ちのほうが圧倒的に強くなっていたのだった。
振り返っているうちにある共通点が見つかった。それは掃除に関して他の人よりも真剣にやっているというところである。
(友行さんも僕もなぜか掃除のところに関して似ているところがある気がするな……そういえばあの日記の置いてあった棚を見つけたきっかけも掃除だったな。なんで掃除に関して縁が深いんだろう……)
もし僕が壁のところを掃除しなかったらそもそもあの日記の置いてある棚が見つかることもなかったのだ。こればっかりは全くわからない。もしかしたら運命なのかもしれない。ただこれに関しては何か伏線になるようなことはこの人生路線を見ている限り、ないような感じがした……。でも祖父も掃除が得意だったということが分かって、自分と血がつながっている気がして嬉しく感じた。
(でもあの人は清掃業ではなくて別の職に就いたんだよね、あの人は一体どんな夢を持っていたんだろう)
友行さんは警察官になったという。我が家は家系的に警察になる人が多かったのでお父さんから祖父の職業について聞いたことがあるのだ。この時代の警察官のことはよく知らないが、怖いイメージがある。当時の警察は国家権力に逆らうものに対して容赦なく証拠の女王である自白を引き出すために拷問にかけ、ひどいときには虐殺したと習ったからだ。
(いやそれは特高か。それにせよ何故、そんな当時国民から恐れられていた警察官になったのか不思議だな……)
そう考えていると、ふと自分が現世で見た祖父の夢を思い出した。
(警察官といえば、僕があの時見た夢の中に友行さんが出てきたときに辞表を出したと言っていたけど何かあったのかな……)
あの時見た夢は普通のとは違いとても高い精度で記憶に残っているのだ。友行さんを殺した犯人は何故か名前で呼んでいた。このことから友行さんの知り合いと考えられるが、友行さんは恨まれるような人ではない。口が軽く怒られることは多いがそれで人に恨まれるほどのことをする人ではないのだ。最近はその口の軽さもなくなってきて、秘密をしっかり守れる人になってきた。そんな人が恨まれるとは。可能性としては冤罪事件のときに捜査をしていて逮捕にかかわったとか……それぐらいしか思いつかない。でも何かそれも腑に落ちない。あの正義感が強く聡明な人が冤罪事件を起こすなどとは。もしかしたら同僚が関わっていたのかも……いや、だとしたら友行さんが絶対にそれを許さないはずだ。これもまた調べてみようと思った。
あの人の人格を見るとなんで死んでしまったのか。友行さんは当たり前のようにこの世界にいるが、現世ではもういないのだ。お父さんは僕の祖父が死んだとき何を思っていたのだろうか。言葉には表せきれない辛さがあったはずだ。ましてや祖父は殺されたのだ。普通の死より受け入れがたかったと思う。それなのにお父さんはいつも元気にふるまっている。そのお陰で僕らの家庭には笑顔があふれている。
そんな偉大なお父さんに今の僕にはこれしか言うことが出来ない。
「お父さん、がんばっているんだな……」
何かと自分の性格と似ているせいか親近感がわいてくる。そのせいでさらに胸が締め付けられていく。僕のお父さんは本当につらかったんだろうなと感じさせられる。帰ったら何をすることが出来るか考えてみようと思う。
おじいちゃん殺した犯人は誰なのか。だんだんと怒りがわいてくる。あんなに優しい祖父の姿を見て何の恨みを持ってあんなにひどいことをしたのか。犯人を問い詰めたいと思う気持ちがわいてきた。だがここでふと、祖父について聞きたくなったきっかけの夢を思い出す。
(あの時犯人は自殺していたんだよな……ならなんで犯人は自殺したんだ?もしかしたらおじいちゃんが最期まで優しくて自責の念に追いやられたのかそれとも……)
早く犯人を見つけたい。その時が来れば犯人はわかるはずだ。だが時間が過ぎれば過ぎていくほどおじいちゃんと一緒に過ごせる時間が減っていくと思うと、皮肉な世界だと感じざるを得なかった。