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9.思い出の旗

「まだ連絡はつかないのか!」


男は語気を荒げて言った。


「も、申し訳ございません! 何度も電話しているのですが、ずっと電波が届かないところにいるという応答ばかりでして……。現地に人も送ったんですが、一昨日の大雪で今も足止めを食らっているようで……」



ブブブッ、ブブブッ、ブブブッ


萎縮している男のジャケットの内ポケットに入れてあるスマホが、音を立てて小刻みに揺れた。


「誰からだ?」

「あ……現地に送ったスタッフからです」

「出ろ」

「はい、失礼します! もしもし、何か分かったか? ……そうか。……あぁ、着いたらまた連絡してくれ」


電話を切ると、男は少しだけホッとした顔をし、


「警備員の電話が呼び出しをするようになったそうです。ただ、何回かけても電話に出ないと……。雪が止んだので、これから研究所に向かうそうです」


そう報告を受けた男はぎろりと睨みを利かせ、


「何か分かり次第、すぐに報告しろ」


と凄みのある低音で言った。




*******


どれぐらい歩いただろうか。太陽が大分上の方にあるところを見ると、恐らくもう昼近いのだろう。



「はぁ〜。道路に出たはいいけど、ここどこだろ? まず何県?」


歩いても歩いても雪と木々しか見えてこないこの状況に少し不安を覚えて漏らすと、


「こんなソリが常備してあったぐらいだから、雪国なんだろうな」


二人分のソリを引きずりながら、アキラが答えた。


「……ざっくりだね」

「仕方ないだろ。他に手がかりがないんだか……」


アキラはそこまで言いかけて、突然、道路脇に走り寄った。


「どうしたの?」


カズヤも一緒に後ろから覗き込んだ。


「これ……」


アキラが木の枝に括り付けてあった何かを取って、二人に見せた。旗の端切れのようだった。アキラはそれを裏返して見た後、確信したように言った。


「スラロームの旗だ……俺がつけた」

「アキラが?」

「あぁ。俺スキーやってたんだ。スラロームの練習に、ここらの木に旗付けて、よく滑ってた」



その旗を見るアキラの瞳があまりに温かく、ドキッとした。アキラは、その旗を大事そうにポケットにしまった。何だかそこには触れない方が良い気がして、話を別の方に持っていくことにした。



「じゃぁ、ここ、どこだか分かるの?」

「あぁ、俺の庭だ。ここからなら、こいつで行けば、余裕で日が暮れる前には着けるぜ」


と、ソリを持ち上げてヒラヒラと振って見せながら、ニカッと笑った。


「え、庭? どこに着くの? ていうか、またソリ?! せっかく私の美貌が戻ったところなのに〜!」

「え? それで戻ってんの?」

「ちょっ……失礼過ぎ! カズヤも何か言ってやってよー!」


と振り返ると、カズヤにまたスイッチが入ってしまったらしく、


「ぷはっ! ハハハハハ! ハハハハハ……」


と、お腹を抱えて笑っていた。


「も〜う! 二人ともいつかギャフンと言わせてやるからね!」

「ギャフ……ふははははは! ハハハハハ……」


もはやカズヤには何を言っても笑いの餌にしかならないようだった。


(カズヤって、見かけによらず笑い上戸なのね……)



二人のことを知れる度に、心にすっぽり空いてしまった大きな穴が少しずつ埋まっていく気がした。




 再びソリを連結させたアキラに、


「前」


と一言、ソリに乗るよう命ぜられた。


「……はーい」


と渋々乗り込むと、


「早く着きたいんなら、スピードアップも可能だけ……」

「いいえ! ノーマルスピードでお願いします!


若干被り気味に答えると、やっと下火になってきていたカズヤの笑いが再燃した。


「……そんなに笑ってると置いてくわよ!」

「お前が言うか?」


アキラまで笑い出した。


「あーもう! 好きなだけ笑え〜!」


と言いながら、自分も一緒に笑った。




 そこからは、水を得た魚のごとく、アキラは楽しそうに木々の間を滑り抜けていった。時々、自分が括った旗を見つけると止まってはそれをしまい込む、ということを繰り返していたが、それがカズヤが追いつくのに、ちょうど良かった。




 どこかの屋敷らしき建物の裏側が見えて来ると、アキラが、


「……ここだ」


と言ってソリを止めた。


「カズヤが来るまで、ここで待っててやってくれ」


そう言うと、アキラは建物を右から回り込み、正面の方へと歩いていった。アキラの姿が見えなくなり、少し怖くなってきたところに、カズヤが上から滑り降りて来るのが見えた。大きな声を出しても大丈夫か分からなかったので、両手を大きく振って、ここだよアピールをした。


ほどなくカズヤが到着すると、


「ふぅ〜っ。 あれ? アキラさんは?」


と聞いてきた。思わず、


「え?」


と返してしまった。


「えって、何かあったの?」


とカズヤの顔が険しくなった。


「あ、そうじゃなくて、カズヤがアキラのこと名前で呼んだの初めてでしょ?」

「……そうだっけ?」


カズヤはそっぽを向いたが、その耳は赤くなっていた。


(あ、これツッコんじゃいけなかったやつだ)


とニマニマしていると、振り返ったカズヤから一言、


「気持ち悪い」


と言われた。


「何ですって〜!」

「ハハハハハ! ハハハハハ……」


カズヤがまた笑い転げていると、アキラが少し息を切らし、汗を拭きながら戻ってきた。


「何か面白いことでもあったのか?」

「……何でも面白く感じる年頃なのよ。そっとしておいてあげて」

「あいつ、一回笑い出すとなかなか止まらないからな」


と苦笑するアキラの表情は、とても優しかった。



「アキラこそ、どうしたの? その汗」

「ちょっと、こいつをな……」


と言いながら、アキラは小さな鍵を見せた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、アキラの素性が明らかに?!


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