6.雪
扉の向こうには、別の部屋か何かが続いていると思い込んでいただけに、いきなり外の世界に通じる門が開かれたようで戸惑った。
が、霧が晴れたように澄んだ夜空に無数の星が散らばっている様は、形容し難いほどの美しさで、皆しばらく無言で空を眺めた。
「キレイだな……」
アキラがそう言うと、返事をする代わりにカズヤが聞いてきた。
「……この人は、どうする?」
「本来は警察に通報すべきなんだろうが、電話が見当たらないんだよな。それもあって、先に出てた人もひとまずカプセルに戻したんだが……今は他に空いてるカプセルもないし、といって、このままにしとく訳にもいかないしな」
(そうだよね……まず通報だよね。なんかいろいろ忘れちゃってるな……)
自分の中からいろいろなものが抜け落ちているのをまどろっこしく感じながらも、気を取り直して現状について考えてみることにした。
(電話かぁ……確かに、さっき皆で片っ端から見ていったけど、事務室にも仮眠室にもカプセルがある部屋にもなかった。そうだ、ここは?)
大きな機械がいくつも並んでいるわりには、機械室はそれほど広くなかった。ぐるっと見て回ったが、
「ここにも電話ないみたい」
「やっぱりないか……」
アキラがこちらを振り返って答えた。アキラが『やっぱり』と言うのを聞いたとき、ふと頭によぎったことを二人に投げてみた。
「ねぇ。電話置いてないのって、意図的にここを外部と隔絶しようとしてたってことかな?」
「あぁ。そんな気がするな。この機械室だけ、外から直接入れるようにしてあるところを見ると、外部の業者が点検なんかで来たときに、カプセルのある部屋を見られないようにする為だったとも考えられるしな」
話しているうちに、更なる疑問が浮かんできた。
「……でも、この警備員のおじさんは、何でこんな雪の中、わざわざ外から来ようとしたんだろ? おじさんなら、中を通って来ることもできたはずでしょ?」
「確かにな……」
カズヤが、手に持っているものをじっと見つめて考え込んでいる。
「どうした、カズヤ?」
アキラが声をかけた。
「んー、このレシート……」
「警備員のポケットに入ってたやつか?」
「うん。日時が一昨日の入館前になってるんだ」
「てことは、途中でガソリン入れて、ここまで車で来たってことか……」
「かなって思ったんだけど、この雪じゃ無理だよね」
「……いや、待てよ。俺が、外が吹雪いてるのを見たのは昨日の……時間見ときゃよかったな。とにかく昨日だ。一昨日は、もしかしたらまだ降ってなかったか、車で来られる程度の雪だった可能性もある」
そう言うとアキラは、完全にはどかしきれていない雪を踏みつけ、戸口へと近づいていき、用心しながら顔だけを外に出して、辺りを見回した。カズヤもアキラに追いつくと、
「雪、止んでるね」
と、ボソッと言った。その言葉にハッとした。
(出られるんだ!)
警備員をなるべく見ないようにしながら、遠巻きに避けて扉の方に向かった。二人の後ろから、
「どんな感じ?」
と尋ねると、カズヤが、
「事務室の窓の外と比べると、雪はそんなに積もってない気がする」
恐らく、人の手で雪かきがなされていたのだろう。通路と思われるところに比べて、その脇は土手のように一段雪が高く積もっている。
「本当だ。でも、この雪崩れ込んだ雪は結構すごい量だよね。ここだけ何でこんなに……」
アキラは外に出ると、くるりとこちらに向き直って、機械室側を見上げた。
「あ……これ落ちてきたんだな。この上だけ雪が崩れてなくなってるわ」
「え?」
外へ出てアキラと並んで見上げてみると、機械室の扉上の屋根に、雪の重みで折れたと思われる木が寄りかかっていた。そして、その部分だけ、明らかに周囲より雪が少なかった。
「あの木が倒れた振動で屋根の雪が滑ったか、あの木の雪がのっかって重みに耐えきれず落ちてきたか……」
アキラの推測は、大方正しそうだった。周りに立っている木の枝には、まだ重そうに雪がどっかりとのっているが、倒れている木に積もっている雪は、それらに比べて遥かに少なかった。何にせよ、警備員にとって不運なことが起こったことは間違いないようだった。再び、機械室の中に向かって、手を合わせていると、
「こっちに駐車場がある。多分あれ、警備員の車じゃないかな」
いつの間にか外に出て、建物の角まで歩いて行っていたカズヤの声が聞こえてきた。二人は、カズヤのもとまで行くと、建物を曲がった先に、少し開けたスペースと雪ですっかり埋まった車、というより、車の形をした雪の固まりを見つけた。
「あ〜、こっから脱出するのに使えないかと思ってたんだが、こりゃ無理そうだな」
「え? アキラって、車運転できるの?」
「あぁ」
「へ〜」
(ちょっと尊敬……)
と思っていたら、どうやらカズヤも同じように思っていたようだ。珍しく羨望の眼差しをアキラに向けているのが、見ていても分かった。それに気づいたアキラが、
「二人に俺のカッコイイとこ見せてやれなくて残念だな」
と言って、ニカッと笑った後、思いついたように話し始めた。
「あ……もしかして、おっさん、機械室にスコップ取りに行こうとしたのか? 車の雪か、もしくは公道までの雪かきをしようと思ったとか……」
「あ……それはあるかも。さっき来館者名簿見てた時、毎月、1ヶ月に1回来てる業者がいて、確か今月は、今頃来る予定だったはずだから……」
「え! カズヤ、そんなところまで見てたの?」
「え? うん」
「すごいね。カズヤって頭いい?」
「え?」
カズヤはこちらを見て、少し顔を赤くしながら黙りこくった。
(否定しないんだ)
少し可笑しくなって笑っていたら、罰が悪くなったのか、カズヤが続きを話し始めた。
「……だから、駐車場から機械室の入口まで雪かきしておこうと思ったのかもしれない」
「なるほどな。あり得るな」
三人であーだこーだ推理しながら機械室の入口まで再び戻ってきた。
「そっちの角の向こうは何があるんだろ?」
「見てみるか」
「うん」
三人は、そのまま入口の前を通り過ぎ、角を左に曲がった。
そこには、檻のような扉があり、その奥に上に登る階段があった。
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次回、敵か味方か? 何者かが動き出す!
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