4.年号
三人は、勤務表、施設の点検表、来館者名簿等をもう一度見返した。
先ほど、パラパラとめくった時に、月日と時刻が書かれているのは確認していたが、1月1日のページを改めて開いて見てみると、そこには『2023年(令和5年)』と書かれていた。
「れいわ? って読むのかな? ん? これって年号? あれ? 令和だったっけ?」
「いや、昭和だろ」
アキラが答えている間、カズヤは古い帳簿を幾つか取り出し、すごい勢いでページをめくっては止め、また別の帳簿をめくっては止め、を繰り返していた。
「カズヤ、どうしたの?」
「こっちのには『1998年(平成10年)』って書かれてるのがある」
「へいせい?」
アキラは、そう繰り返すと、
「そういや、年号変わったような……平成だったっけか?」
と自分に問いかけながら、古い書類を漁り始めた。
「やっぱり、どれを見ても、1989年の1月8日から平成って書かれてる。で、2019年の5月1日から令和になってるな」
「え……そんな短期間で2回も年号変わる?」
「可能性としてはあるだろうな」
三人は、しばらく押し黙った。が、この間に耐えきれなくなり口を開いた。
「ねぇ、もしそれが本当だとしたら、私たち……未来に来ちゃったってこと? で、あのカプセルはタイムマシーンとか?」
場の空気を変えたくて、少しおちゃらけて言ってみたが、アキラもカズヤも何も言わず、それぞれどこか一点を見つめて考え込んでいるようだった。
ようやくアキラが、
「……かもしれないな」
とだけ答えた。カズヤは、アキラの方をちらっと見たが、何も言わなかった。
「えーっ! イメージと違〜う! タイムマシーンは動く乗り物みたいな感じを想像してた〜!」
と、そこは本気で悔しがっていると、
「お前が引っかかったとこ、そこかよ!」
とアキラは苦笑した。が、少し空気が和らいだことに、皆ホッとしていた。
「まあ、分からなくもないけどな。とにかく、もう少し調べてみるか」
アキラの提案にカズヤも頷き、まだ見ていない書類を各々手に取り、中を確認していった。
残りの書類は、各種設備や備品の取り扱い説明書くらいで、モニター室とカプセルに関する資料は一つも見つからなかった。
(そういえば、まだこの事務机は見てなかったよね)
机下の浅く広い引き出しを開けると、文房具が入っているのみだった。
(こっちは……?)
机の左下に側机が置かれていたので、そこを開けてみた。
「これ、もしかして、入館した警備員の私物かな?」
男性用の黒いポーチが一つ入っている。アキラとカズヤがすぐに駆け寄って来て、引き出しの中を覗き込んだ。アキラは、そのポーチを取り出すと、ファスナーを開け、中を確認し始めた。財布の中から一枚のカードを抜き出して読み上げ始めた。
「免許証だ。高橋裕二、昭和37年6月19日生まれ、交付、令和3年3月16日」
「令和……」
カズヤが呟いた。
「……これ、ドッキリだったりしないかな?」
「だったら、なかなか手が込んでるよな」
自分でも、
(そんな訳ないか……)
とは思いつつも、この状況を飲み込むまでの時間が欲しかった。そして、確証も。
「やっぱり、ここから出て確認しよ? いろいろ……その……今は何年なのかも」
「……そうだな」
アキラが答えると、カズヤも黙って頷いた。
「だがその前に、この免許証の持ち主を探さないとな。そいつから、いろいろ聞き出せるかもしれないし。まだこの中のどこかにいるはずだ」
******
警備員に遭遇した場合に備え、三人は行動を共にすることにした。
「はぁ……トイレにもいないし、やっぱりモニター室にいるのかな?」
「だとしたら、俺たちが書類や私物を漁ってる時点で出てくるだろ」
「……そうだよねぇ。でも、まだ見てないところって、そこぐらいでしょ?」
「いや。まだ見てないところがある」
アキラの投げかけにカズヤが答えた。
「……機械室」
「でもあそこに人はいなかったんじゃ……」
「いや。鍵がかかってたし、鍵自体もキーケースにあったから、僕がそう思い込んでただけで、実際には確認してないんだ」
******
三人は、カプセルが並ぶ部屋を通って仮眠室に立ち寄り、キーケースから機械室の鍵を取り出した。
機械室の前に来ると、三人は姿勢を低くした。アキラは、できるだけ音を立てないように注意しながら、ゆっくりと扉を開け、中を覗き込んだ。二人に、
大丈夫だ
と目で合図を送ると、アキラに続いて二人も機械室の中に入り、大きな機械の陰に隠れた。
機械室の中には、たくさんの大きな機械が並んでいたが、思いのほか静かだった。
物陰にも目を配り、一通り見て回ったが、やはり警備員は見当たらなかった。
「もうしゃべってもいい?」
小声でアキラに尋ねると、
「あぁ、もういいだろ」
「ふ〜っ。緊張したぁ。結局、ここにも警備員いなかったね」
「あぁ」
アキラが難しい顔をしていると、カズヤが少し先の壁の方を見ながら
「待って。あそこにもう一つ……」
と言いながら、立ち尽くしていた。
カズヤが指差した先に、扉があった。
お読みくださり、ありがとうございます!
次回、扉の向こうで見たものは……
ご感想、ブックマーク、評価、大変励みになります!
どうぞよろしくお願いします!