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3.カレンダー

「まぁ、そういうことだ」


アキラが窓の外を見ながら答えた。恐らく、立っていることすらままならないだろうと思われる程の猛吹雪だ。


「いつから……」


カズヤがボソッともらした言葉をアキラが拾った。


「昨日俺が見たときには、既にこの調子だった」

「そっか。僕、外は見てなかったから……」


あまり表情に出さないタイプと思われるカズヤでさえ、動揺しているのが窺えた。



「事務室から見た方が外の様子が分かる。行ってみるか?」



 アキラについて廊下を幾つも曲がり、階段を上がったり、下がったりしながら進んで行くと、ようやく出入口が見えてきた。入口からすぐにはカプセルのある部屋に辿り着けないようにしてあるようだった。出入口の脇にある事務室に入った。



「大丈夫か?」


へとへとになっているのを見て、アキラが気遣ってくれた。


「大丈夫」


そう言いながら窓の外を見ると、雪が高く積もっていた。



「これじゃ、雪が止んでも出られそうにないね」


と言うと、


「あぁ。ここからは無理だな。だが、ここにずっといる訳にもいかなそうなんだ」

「なんで?」

「もう自家発電が作動してるようなんだ」

「……それって、そのうち電気が止まっちゃうってこと?」

「多分な」



三人は口をつぐんだ。しばらく外の風の唸り声だけが響いていた。



「出よ! ここ出よ! 一緒に! で、外の人に助けを求めて、他の人達も助けてもらお!」


思わず叫んでいた。自分の気持ちを奮い立たせる意味もあった。アキラがすぐに答えた。


「そうだな」

「うん」


カズヤも同意した。



「まずは、ここがどこなのか、何なのか、何か手掛かりになるものがないか探してみよ!」


その呼びかけに、アキラがにっと笑い、カズヤも頷いた。



 事務室は、玄関に面する側に受付窓口があり、その脇に事務机と椅子が一セット置かれている。

 窓の奥の一角が休憩スペースのようになっていて、小さな流しの横に、洗った食器を置くカゴがあり、その横に冷蔵庫が設置されている。その前には、ローテブルと二人掛けのソファが一つずつ、腰の高さほどの食器棚の上には、電気ポットとコーヒーメーカーが置いてある。

 反対の角からは壁に沿って、書類や備品、非常用持ち出し袋等が入ったキャビネットが設置されている。


 その奥の右手にある『更衣室』と書かれたドアを開けると、狭い部屋の中に三人用のスチールロッカーが置かれていた。ロッカー脇の壁にかけられた鏡をふと見ると、自分の姿が映っていた。



 ちょうど眉にかかるくらいの前髪に、顎先ぐらいの長さのボブヘアだが、さっき仮眠室のランドリームで拝借したタオルで適当に拭いたままになっていたため、ぼさっと広がっている。目はパッチリ二重で、口は小さめだ。鼻はそれほど高くない。小柄で、完全にぶかぶかのグレーのスウェット上下に着られている感じだ。


(私……か。そういえば、こんな顔だったかな。何か久しぶりで、変な感じ……)



 二人の目を盗んで手櫛ですすっと髪を整えながら更衣室を出ると、その隣り、つまり、休憩スペースと更衣室の間に『モニター室』と書かれた重厚な扉があり、暗証番号式のカギが付けられ、しっかりとロックされていた。



 ロッカーや置いてあるマグカップの数、見つかった勤務表や施設の点検表、そして来館者名簿等から、この施設に主に出入りしているのは、三人の警備員と特定の業者ぐらいだということが分かった。



 アキラとカズヤが拝借した警備員の制服と、ロッカーに残っている制服から察するに、警備員達の背丈は三人ともアキラとカズヤの間くらいで、うち二人は標準サイズのようだが、一人だけ恰幅が良さそうであることが推測された。


(私が着てるこのスウェットの主が、きっとこの体格のいい人なんだわ)


何度も落ちてくる袖をまくり直しながら、二人に尋ねた。



「二人とも、警備員とは出くわしてないんでしょ?」

「あぁ」

「うん」

「でも、この勤務表を見ると、一昨日入館した記録まではあるよね」

「俺もそれが気になって、今日あちこち探してみたんだが、結局会ったのはお前達だけなんだよな」

「僕がいた仮眠室の奥も、機械室があるだけで、そこも鍵がかかってた。でも、その機械室の鍵は、仮眠室のキーケースに入ってるのが見えたから、機械室にも誰もいないだろうと思って、仮眠室で寝ちゃったんだよね」

「キーケース自体に鍵は?」


アキラがカズヤに確認すると、


「かかってた。でも、そのキーケースの鍵は見つけられなかった」



 カズヤが言い終わると、三人は顔を見合わせた後、それぞれ無言で事務室にも鍵が置かれていないか探し始めた。



「あ。もしかしてこれ……」


配電盤のように見えたそれは、扉を開けると鍵が幾つか並んでいた。



「お。やるじゃん」


アキラが、頭をポンっとしてきた。ちょっと、褒められた気がして照れ臭かった。



 アキラは、それらが何の鍵なのか、一つ一つ鍵のタグを見ながら、二人に聞こえるように読み上げていった。


「キャビネット、更衣室、事務室、事務机、正面玄関、非常口、それから……仮眠室のキーケースの鍵もあるな。機械室の鍵……は、ここにはないが、それは仮眠室のキーケースの中にあったんだよな?」

「うん」


カズヤが答えると、アキラが、


「あ……」


と一瞬止まった。


「何なに?」

「ここ、屋上があるみたいだな」

「屋上? え……今まで通ったところに、屋上に行ける階段やエレベーターとかあったっけ?」

「いや、気づかなかったな」


三人は再び顔を見合わせ後、モニター室を振り返った。



「あと見てないの、あのモニター室だけだよね。屋上と繋がってたりするのかな? ていうか、あそこから、私たちのこと今も見てたりしないよね?」


自分で言っておいてビクついていると、


「俺もその可能性があると思って、昨日はほぼ一日、この部屋を見張ってたんだが、何の動きもなかったんだよな」


とアキラは答えた。ふと、玄関から誰か来たら、という不安に襲われ、窓口の方を見ると、卓上カレンダーが目に入った。



「2023年3月……ん? あれ? 2000とかいってたっけ?」


あまりに思い出せず混乱していると、アキラがフォローした。


「いや、いってないだろ。俺は1969年生まれで20歳だから……」

「え? アキラって20歳なの?」

「……老けてるって言いたんだろ?」

「うん? いや? まさか〜! 思ってたよりちょっと大人っぽいな〜って……」


アキラは、プッと吹き出すと、


「お前に気遣いは求めてねえよ」


と笑った。


(は〜。またやっちゃったよ。何で私ってこんなにうっかりなんだろ……って、それどころじゃなくて!)



「えっと……じゃぁ、今は1989年でいいんだよね?」

「うん。いいと思う。僕は1974年生まれで15歳だから」

「え? ……だよね!」


明らかにびっくりした顔をしてしまっていたらしく、


「別にいいよ。いつも高校生に見られてたから。気にしてない」


と、カズヤにもフォローされた。


「ごめんなさい……」


と、苦笑いしながら素直に謝ると、珍しくカズヤもぷっと吹き出して笑った。それが合図のようになって、三人はあまり声が大きくならないように気をつけながら一緒に笑った。



 一通り笑いきって落ち着いたとき、三人に同じ疑問が沸いた。



「ねぇ。そしたら、なんでこんな先のカレンダーが置いてあるんだろ?」


お読みくださり、ありがとうございます!


次回、カプセルの正体が明らかに?!


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