21.和也の家
「しばらくこの生活続けることになるのかな……」
「まぁ……そうなるかな」
三人は、昨日とは違うファミレスに入り、夜を明かすことにした。
奏は、両親が亡くなっていたことを知り、ショックを受けていたようだったが、『原因を突き止めて元の世界に戻る』という目標を打ち立てたことで、気持ちを前向きに保っているようだった。
「次は、晶ん家?」
と振ると、晶はフイッと目を逸らし、
「あ……いや、あんまり東京に長いこといると見つかるリスク高まりそうだから、次は和也んとこにしないか?」
と言ってきた。和也は、最後だと思っていたのに、不意に自分の番が回ってきたので、一瞬、驚いたような顔をしたが、
「あ……じゃぁ」
と言うと、嬉しそうな顔に変わった。晶は、その様子を見てホッとすると、
「千葉のどの辺なんだ?」
と聞いた。
「成田。父さん、航空整備士なんだ」
『成田』と聞いて、奏も晶も一瞬止まった。和也も自分で言っておいて、何か引っかかったようだった。少し考えた後、和也が、
「そうだ! 僕、合格発表見に行って、その後……」
と言いかけたところで、奏が、
「そっか。受験生だったんだもんね!」
と言うと、すかさず晶が、
「お前もだろ」
とツッコんだ。奏は、晶にうるさそうな顔を向けた後、
「和也は、どこ受けたの? あ、でも私、千葉の高校聞いても分かんないかも……」
と苦笑いすると、
「あ、いや、東京の高校受けた」
と言うので、
「え? どこ? もしかして後輩だったりして?」
と聞いてみると、ボソッと、
「開正……」
と答えた。
「え? カズヤ、開正受けたの? で、受かっちゃったっとか?」
「……まぁ」
「へぇ、じゃぁ、俺の後輩だ」
と晶が割って入ってきた。
「へ? 晶って開正出身だったの? えーっ! 二人とも頭良かったんだぁ!」
「僕は、入試の日が大安だったから……たまたまだよ」
「そんな訳ないじゃん……そしたら、皆んな合格になっちゃうでしょ」
奏が冷めた目でそう言うと、カズヤは、何かを思い出したようで、ぷっと小さく吹き出した。
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「カズヤ、お前持ってるなぁ! 入試日、大安じゃないか! こりゃ、合格間違いなしだな!」
カズヤの父親は、開正高校の募集要項を見ながら、嬉しそうに言った。
「父さん……そしたら、その日受ける人、皆んな合格することになんじゃん」
「あ? そんな細かいこと気にしなくていいんだよ。ツイテル、ツイテル、俺はできるって思っときゃいいんだよ! お、合格発表の日は先勝か。カズヤ、午前中に見に行くといいぞ。そしたら、お前の番号が出てるから」
「父さん……発表は正午だから、朝行ってもまだ出てないよ」
「家を朝出りゃいいんだよ。そしたらちょうど昼に着くだろ」
「そんな適当でいいのかよ」
「いいんだよ! ガハハッハッハハ!」
そんな父さんを見て、僕もちょっとつられ笑いをした。
僕は正直、地元の公立高校でいいと思ってた。私立なんて、学費も高い上に、東京まで通うことになったら、交通費だってかかる。部活も続けたかったから、通学時間も馬鹿にならないと思ってた。
でも、他のことなら何でも僕がやりたいようにやれと言っていた父さんが、
「お前は地元で燻ってていい奴じゃない。せっかく母さん似のいい頭受け継いたんだ。それ生かさなくてどうする!」
と、これだけは譲らなかった。
父さんは、航空整備士だ。
「俺は、頭は使えんが、腕と体力には自信があるからな!」
と、太い腕をパンパンと叩いて見せながら、よく笑っていた。父さんは、そんな風に謙遜していたけど、大手航空会社の整備士になるのに、かなりの難関をくぐり抜けてきたはずだった。けど、そんなことをおくびにも出さない父さんは、皆んなからの人望も厚く、そんな父さんは僕の自慢だった。
母さんは、客室乗務員だったっらしい。写真には、父さんが整備した飛行機の前で、客室乗務員の制服を着た母さんと父さんが肩を並べ、二人とも笑顔で写っている。明らかに父さんの方がデレデレと嬉しそうな顔をしているけど。
母さんは、息子の僕が言うのもなんだけど、とても美人だ。授業参観の時、友達の母さんが来ているのを見て、うちの母さんが来てたら、絶対一番綺麗で目立ってただろうな、なんて想像したこともあった。でも、振り向くと、そこにいるのは、ニッと笑ないながら手を振っている父さんだった。だけど、どんなに忙しくても、必ず来てくれる父さんがそこにいてくれるだけで、僕は嬉しかった。
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「成田って、結構遠いんだね。ここから東京まで通学しようとしてたの?」
「うん」
三人は、和也の記憶を元に町を歩いていると、古い団地にたどり着いた。
「あった……」
和也の顔が嬉しそうに綻んでいる。和也は、自分の家の前まで来ると、
「あ……」
と一点を見て固まった。
「どうしたの?」
和也が見ている先には表札があった。和也は、
「あれ? ここだったはずなんだけど、間違えたかな?」
と辺りの表札を確認し始めた。
「和也って、苗字なんて言うの?」
「鈴谷」
「オッケー!」
その団地は古かったが大きく、加えて三棟あったので、三人は手分けして探した。最初に来た家の前で待ち合わせをしていた三人が再び集まった。
「私が見たところはなかった」
「俺の方も。和也はどうだった?」
和也は黙って俯いている。『鈴谷』の表札を見つけられなかったのだろう。沈黙が続く中、一人のおばあさんが、買い物袋を携えて、エレベーターから出てきた。三人が道を開けると、すぐ隣の玄関扉に鍵を差し込んだ。和也は、隣の表札をもう一度チラ見すると、急に思い出したように目を見開き、
「葛木さん?」
と呼んだ。突然、自分の名前を呼ばれたそのおばあさんは、少し怪訝な顔をしたが、
「何か用かい?」
と答えてくれた。
「あの、隣って、鈴谷……さんじゃなかったですか?」
和也は、自分の今の状況を考え、慌てて自分の苗字に敬称を付けた。
「そうだけど……あんたは?」
「僕は……鈴谷さんのむ……」
息子と言いかけたが、
「孫です」
と言い直した。するとおばあさんは、
「あら、お孫さんがいたの? でも、あんた何も聞いてないのかい?」
「その……ちょっと、長いこと海外に行ってたんで……」
「あぁ、そうだったの。鈴谷さんなら、何年か前に施設に入られたわよ」
「施設? 施設って、何の……」
「私もよく分からないんだけど、施設に入ることになったからって、引っ越しの挨拶に来てくれて。その後のことはねぇ……。この荷物下ろしたいから、そろそろいいかねぇ?」
おばあさんが、買い物袋を重そうに揺すって見せた。
「あ、あぁ、ごめんなさい! ありがとうございました」
和也が頭を下げてお礼を言い、くるりと向きを変えてエレベータの方に歩き始めたとき、
「あぁ、そうだ。あの人なら、詳しいこと知ってるかもしれないわ。ちょっと待ってな……」
と言い、一旦家の中に入ると、少しして、メモを持って出てきた。
「ここ行ってみな。そこのママと仲良かったみたいだから」
と、今急いで描いてくれたらしき地図を手渡してくれた。
お読みくださり、ありがとうございます!
次回、和也の父の居所を知ることはできるのか?!
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