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11.思わぬニュース

「そろそろ寝るか?」

「そうね。今日は疲れたし」

「うん。僕も眠くなってきた」

「部屋なら二階にちょうど三つあるから……」

「え? 別々?」


(……一人になるのは怖いけど、二人はきっと、別々の部屋でゆっくり休みたいよね……)


俯いたまま黙りこくっていると、


「じゃ、ここで皆んなで雑魚寝するか? せっかく持ってきたこの寝袋の寝心地も検証してみたいし」


とアキラが言い出し、カズヤも


「確かに……」


と言って、寝袋を広げ始めた。別々の部屋でいいよと言ってあげたかったけど、怖さが勝った。今日のところは、二人の優しさに甘えることにした。



 寝袋に入ってじっとしていると、歓談していた時には感じなかった、しんと冷える空気が身に染みた。三人は出来るだけ固まることにし、アキラとカズヤに挟んでもらって川の字になった。



「あ〜、この絨毯の上、極楽だね」

「うん。警備員の仮眠室より、全然いい」

「確かに、事務室のソファよりいいわ」


三人はクスッと笑った後、


「おやすみ」

「おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


と言って眠りについた。



*******



夜が明けて、窓から太陽の光がカーテン越しに差し込んできた。


「……朝?」


目を開けると、目の前に大きなシャンデリアがあった。


(そっか。アキラの別荘に来たんだった)



起きようと思ったが、体が思うように動かせない。


(あ……寝袋か)


寝袋から出ようと、ゴソゴソと格闘していると、


「出られないのか?」


と目を覚ましたアキラが聞いてきた。


「……どうやらそのようです」


と答えると、


「なんだそれ?」


と笑いながら、寝袋からさっと出て、こちらのファスナーも開けてくれた。



 二人の話し声でカズヤも目を覚ました。


「……もう朝?」

「そうよ。おはよ」

「おはよう……」


まだ眠気真子だ。


「眠たければまだ寝てていいわよ」

「……いや、起きる」


カズヤがのっそりと起き上がると、アキラが、


「二人とも眠れたか?」


と聞いてくれた。


「うん。お陰様でぐっすり! スッキリ!」

「そりゃ良かった。カズヤは?」


カズヤはまだ頭が回りきっていないらしく、ぼーっとした顔のまま片手の親指を立てた。アキラは、


「じゃ、この寝袋はひとまず合格ってことだな」


と言いながら畳み始めた。見よう見まねで寝袋を畳んでいると、



「さて、これからどうするかだな」


アキラが口火を切った。



「もうちょっと何か情報があった方が……」


と言うカズヤの意見に、


「だよな」


と答えた後、アキラは、


「あ……そういやぁ、確かこの中に……」


と言って、非常用リュックを漁り始めた。



「あった、あった。これ」


と言って、ある箱を見せてくれた。箱には、『多機能防災ラジオ』と書かれている。アキラは、中身を取り出し、説明書を開いて読み始めた。


「……お。これ、懐中電灯も付いてる。手回し充電に、ソーラー……」

「ソーラー?」

「ソーラー?」

「……お前ら、わざとやってるだろ」


三人で、にっと笑った後、アキラは、


「とりあえず、使えるかどうか、やってみるか」



アキラが説明書を見ながら充電している間、


「こんなラジオあったっんだ……知らなかった」

「俺も初めて見る」

「僕も」


それを聞いて、頭の中に『未来』という言葉がよぎった時、


「でもまぁ、これまで防災グッズとか、そもそも関心なかったから、知らなかっただけかもしれないけどな」


と、どうやらアキラの頭にも同じ言葉が浮かんだようだった。


「そうだよね。これまで、幸い大きな災害もなかったし。非常用リュックなんて、避難訓練のときに担任が背負ってただけで、私たちはヘルメット被るだけだったもんね」


「ヘルメット?」

「ヘルメット?」


カズヤが呟いたあとに、アキラがわざとらしく繰り返した。


(くぅ〜っ! やられた!)


よほど悔しそうな顔をしていたらしく、アキラがあまりに小気味良く笑うので、かえってこちらまで可笑しくなった。こんな軽口を叩いて、いちいち一緒になって笑い合うのが、いつの間にか自然になっていた。



そんな話をしながらも充電のためにクルクルとレバーを回し続けていたアキラが、


「お! これでいけるみたいだぞ」


と、充電完了のランプが点灯したのを見せた。だが、電源を入れても、ザーッという音が漏れるだけだった。カズヤが、


「それ、周波数合わせないと……」


と言って、アキラから説明書をもらって一読すると、サクサクと操作していき、


「はい」


とアキラにラジオを返した。


「カズヤにそんな才能があったんだ?」


と感心して言うと、


「いや、才能は関係ないでしょ。説明書に書いてある通りにやっただけだし。それに僕、ラジオ派だったから」

「へ〜、そうなんだ。何聞いてたの?」

「うーん、大体音楽かな。勉強の合間に気分転換に?」

「勉強? 真面目~」

「いや、俺、受験生だったから」

「あ! 中3?」

「うん」


なんだか急にカズヤが可愛く見えてきた。と、当時に少しずつ思い出してきた。


「あれ? 待って。確か私も受験生だった……気がする……」

「え? 中3?」


カズヤが同志を見るような眼差しと共に聞いてきた。


「違いますぅ! 高3ですぅ!」

「高3には見えねーな」


アキラが会話に割り込んできた。


「どういう意味?」

「ん~、もっと若々しく見えたっていうか?」

「子どもっぽく見えたっていうか?」


と切り返すと、


「まぁ……そんな感じ?」


とニカッと笑った。カズヤまで驚いた顔をしている。


(本気で同級生だと思ったわけ? そんなに私、子どもっぽいかなぁ?)



軽くショックを受けていたとき、さっき付けたラジオから、


「ここからは、ニュースです」


と言って、天気予報や交通状況などについて流れ始めた。それぞれ非常食を取り出して、モソモソと朝ごはんを食べながら聞き流していたとき、突然そのニュースが三人の耳に飛び込んできた。



『一昨日の夜から連絡が取れなくなっていた高橋裕二さんが』


(え?)


三人は顔を見合わせ、耳に集中した。


『今朝、長野市内の自宅前で雪に埋もれた状態で発見されました。近所の人が雪かきをしていたとき、人の足のようなものが積もった雪から見えている、と通報があり、駆けつけた警察官が確認したところ、この家に住む高橋裕二さんであることが確認されました。警察によると、発見された時、高橋さんは既に亡くなっており、すぐ近くでスコップも一緒に見つかったこと、また、屋根の雪がなくなっていたことから、雪かきをしている最中に屋根から滑り落ちてきた雪の下敷きになった可能性が高いと……』


アナウンサーの話が終わるのを待たずに、


「高橋裕二さんって……」

「あのおっさんだな」

「警備員の……」


三人は確認するように言葉をつなぐいだ。



「え……じゃぁ、あそこ、高橋さんの自宅だったってこと?」

「んなわけねーだろ」


アキラが白い目で見てきたので、


「ちょっと言ってみただけよ!」


と反論した。



「でも、あそこに高橋さんがいたってことを知られたくない人がいるってことだよね」

「あぁ。カプセルのこともな」


カズヤとアキラが真顔で話し始めた。怖かったが、思い切って言ってみることにした。


「そして、私たちの存在も?」



誰もその後に続けて話すことはしなかった。アキラがいつになく緊張した面持ちで、ようやく口を開いた。



「これから先、かなり慎重に行動する必要がありそうだな」

「これからどうする?」


カズヤの問いに、三人は再び黙った。沈黙に耐えきれず、とりあえず思いついたことを言ってみた。



「……まずは、ご飯たべちゃお! 腹が減って戦はできぬって言うでしょ?」


急に衝撃的なニュースが飛び込んできて、三人ともすっかり手が止まっていた。先頭をきってモグモグと食べ始めると、アキラも、


「お前のそういうとこに救われるわ!」


と笑って食べ始めた。それを見たカズヤも少しほほ笑んで、食べ始めた。



 もちろん、本当は怖かったが、自分を奮い立たせるためにも言った言葉が、皆の助けにもなったようで、言ってみて良かったとホッとした。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、別荘にある物が……


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