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1.目覚め

(寒っ……)


体がぶるっと震えた拍子に目が覚めた。


(私、寝てたの? 体が……重い。う……起き上がれない)



なんとか、肘で上体を支え、頭をぐっと起こした。


(ここは? 薄暗くて、よく見えないけど、見たことのない所だ……と思う。え? 何だろ? 何も思い出せない。朦朧として、頭が回らない)



やっとの思いで、何とか上半身を起こした。だんだんと暗闇に目が慣れて、自分のいる場所がどんな所かが見えてきた。


(え? え? ここ……どこ? 何これ?)


周りにはたくさんのカプセルが横たわっており、その中には……


(人が入ってる?)



心臓がドキドキと鳴り始めた。自分が座っている所を改めて見ると、自分も周りと同じカプセルに入っていて、何かの液体に浸かっている。慌てて頭を触ってみた。


(びしょ濡れだ。それに……何も着てない。え? 何これ? どういうこと? 夢? でもこの体の重さ、夢とは思えない。けど、やっぱり何も思い出せない)



半ばパニックになりかけながら、考えを巡らせてみる。不安と緊張が高まっていく。心拍数が急激に上がっていくのが自分でも分かる。


(どうしよう。どうする? とにかく、ここから出ようか。いや、出ていいのかな? でも、ここにいても何も分からないし、何せ寒くて仕方ない)



少し冷静さを取り戻すと、身体感覚が戻って来て、寒さが増したように感じられた。体が思うように動かない中、カプセルの縁を掴んで、何とかカプセルから這い出たはいいが、立っているのもままならない。


(どういうこと? 足に力が入らない。うわ……フラフラする。酔っ払いって、こんな感じなのかな?)



 カプセルにもたれながら周りを見ると、かなり広い空間にたくさんの同じ型のカプセルが並んでおり、その中で、蓋が空いているのは自分が入っていたカプセルだけだということが分かった。


他のカプセルにもたれながら、ゆっくりと歩き出した。恐る恐る中を覗き込んで見ると、


(大人……と、子どももいる。男性も……女性も。皆、生きてる……よね?)


そうでなかったら……と思うと、ゾクゾクっと背筋が凍りつきそうな感じがした。


(今は考えるのやめよ。とにかく歩くことに集中しよう。それにしても体が重い。歩くのって、こんなに大変だったっけ?)



異様な空間であることは確かだったが、自分の体を動かすことに精一杯で、余計なことを考える余裕はなくなっていた。ようやく壁に突き当たった。


(ここまで来るのにどんだけ時間かかってんのよ)


蓋の開いているカプセルを振り返り、そこからまだそう離れていないことを確認した。自分の体がもどかしい。ひんやりとした壁に触れると寒さが増したが、もたれないと体を支えることすらできない。寒さをこらえながら進むとドアがあった。


(外の様子が分からないんだけど……開けて大丈夫かな? でも、ここしか出口なさそうだし……)


体がふらつき、ドアのほぼ正面に立ってしまったとき、ドアがウィンと小さな音を立て、スッと開いた。


(わ、びっくりした。自動ドア。助かった)


今は、扉を開け閉めするのも億劫なくらい体がだるい。



 自動ドアの外は、廊下だった。やはり薄暗い。両脇の足元に誘導灯が点いているだけだ。重い足を引きずるようにして廊下に出た。


(どこに続いてるんだろ?)


廊下はそれほど長くはなく、右の壁には別のドアがあった。


(これも自動ドアかな?)


今度はいきなり開かないように、壁に沿って慎重にドア脇まで歩いて行った。壁に耳を近づけてみたが、中から音は聞こえてこない。手を伸ばし、センサーと思われる辺りでひらひらと手を振ってみた。すると、ドアが開いた。顔を少しだけ出し、中の様子を窺った。誘導灯すらなく、真っ暗だ。


(誰もいない……っぽい?)


そっと部屋に入るとすぐにかがみ、目が慣れるまでじっと待った。



(ここは……)


目を凝らしてよく見ると、奥の簡易ベッドで男が寝ていた。警備服のようなものを着ている。


(警備員? あ、ここ仮眠室? あの人にここはどこか聞いてみようか)


そこまで思ってから、自分が裸のままだということを思い出した。


(いやいや、その前に何か着る物……)



 部屋全体をサッと見渡すと、左奥にランドリールームらしきものがある。できるだけ音を立てないようにそっと移動した。


(ビンゴー! ごめんなさい。ちょっとお借りしまーす!)


乾燥機らしきところからタオルを取り出し、ざっと頭と体をふくと、手近にあった服を着込んだ。


(あったかーい)


体が温まってくると、思考もようやく回り始めた。


(……やっぱりあの人に聞かない方がいいかも。だってここ、明らかにおかしいじゃん! 何あのSFチックなカプセル! あ……カプセルの蓋、開けたままにしてきたのマズかったかな……もし、出ちゃいけないはずの私がカプセルから出ちゃってることがバレたら、大変なことになるかも?)



そんなことを考え始めたとき、ランドリールーム横の控室らしきところにある冷蔵庫が目に入った。光が漏れて気づかれないよう、少しだけ扉を開けると、中に飲み物が入っていた。


(これ、まだ蓋開いてない。そういえば、喉乾いたかも……)


喉の渇きに負け、缶コーヒーを一つだけ開けて飲んでみた。


(んーっ! 生き返るー! コーヒーなんて今まで美味しいと思ったことなかったけど、今なら何でもいけそう! よし、これもちょっと頂いてっちゃお。またここに戻って来られるか分からないし……)


上着のポケットに入るだけ詰めるとなかなかに重かったが、落とさないよう、そして、男に見つからないよう、そっと部屋を出た。



*******



 元の部屋に戻り、改めて見ると、異様な光景に感じた。


(幾つあるんだろ、このカプセル。大体、何のカプセルなの?)


自分の肌を見てみたが、色白のままだ。日焼け用ではなさそうだ。


(日焼け用のカプセルに水は入れないか。そしたら、医療用か何かかな? まぁ、とにかく蓋を閉めるのが先ね)



さっきより、多少は早く歩けるようになってきたことに少しだけ安堵しながら、ようやく自分が入っていたカプセルまで戻ってきた。ふと脇を見ると、「残り307日12時間51分34秒」と表示されたタイマーらしきものが設置されている。


(何だろこれ? ん? 止まってる?)



周辺のカプセルも一つ一つ見ていった。どのカプセルにもタイマーらしきものは付いているものの、やはり動いていない。残り時間は、どれも307日12時間で、分数以下だけがカプセル毎に違っていた。


(残り307日ってどういうことだろ? 止まってるし、ただ付いてるだけで使ってはないのかな? それより私、何でこんなところにいるんだろ? カプセルに入った覚えもないんだよねぇ……)



 何か思い出せないかと眉間にしわを寄せながら考えつつ、もう一度自分のカプセルまで戻った。蓋についているバーを両手で持ち、下ろそうと思ったがびくともしない。


(ちょっと、これ重すぎ! いや、私の力がなさすぎるのかな? えいっ!)


バーにぶら下がって全体重をかけると、ようやくゆっくりと降り始め、途中からはスーッと蓋自ら閉まっていった。閉まるときに、大きな音が出て、先ほどの警備員に聞こえてしまうのではないかとひやりとしたが、カチッと小さな音がしただけだった。


(良かったぁ。これならさっきの警備員にも聞こえてないわね)


ホッと胸をなでおろしたとき、



「おい。お前、誰だ?」


背後から男の声がした。

お読みくださり、ありがとうございます!


2作目の初投稿となります。


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