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「カルマクラスタ」

作者: それっぽい文章

聞きなれたチャイムの音とともに授業が始まった。

雑学を織り交ぜながら教科書を読み上げる教師の声が耳朶を打つ。

そんな中、私は目の前で眠る男子の背中を眺めて少し呆れていた。

「中原、答えてみろ」

前の席でぐっすりと快眠しているだろう少年に教師の声が飛ぶ。

横の席の人に肩をゆすられて、慌てた風に立ち上がる同級生の後姿を眺めながら、私は「またか」という気分になった。

今、教壇に立って授業をしている教師は自分たちの教室担任で、且つこの学校でも三人しかいない数学の講師の一人である。

黒縁メガネが特徴のその教師は、眠っている生徒を見ると当てずにはいられない奇病でも患っているのだろうか、常に教室中に目を光らせては、快眠を貪る怠惰な生徒を標的に定めて、大して難しくもない問題を解かせようとするのだ。

今回教師の毒牙に掛かった哀れで愚かな犠牲者は中原京谷と言う名で、居眠りの常習犯だった。

「あっ、えっと...わかりません」

中原少年は少し戸惑った後、すがすがしいくらいきっぱりと自身の無知を認めた。

さざ波のように広がる笑い声。

「眠いのはわかるけどなぁ、もうちょっと頑張って起きとけよ。ここ、次のテストに出るからな」

教室に広がった笑いの波は呆れたような教師の声と共に段々と静まっていき、教室に少し赤面した一人の少年を残して何事もなかったかのように授業は再開された。

チャイムの音とともにチョークの音が途切れ、日直の号令と共に規律した生徒たちがバラバラにあらかじめ定められた文言をおうむ返しにして授業が終わる。

「終わり終わり」

今日最後の授業が終わった

私はもごもごと呟きながら担任教師の注意事項を聞き流して、面倒くさそうに目を瞑った。

人で込み合った下駄箱を抜けて校門を去る。

これで私の学校での活動は終わりだ。

他が忙しく駆け回る中、帰宅部と言う崇高な部活動に専念する私と数少ない同士の姿はよく目立つ。

私は学校が見えなくなるまで小走りで急いだ。

歩調を緩めて少しすると、目の前の道路を三人の学生が仲良く歩いているのを見つけた。

男子が二人に女子が一人の組み合わせ。

一人はクラスでも人気のイケメンの阿賀亮介。

彼を見るたびに私はイケメンなんか蒸発しろと心の底から思うのだ。

もう一人は小太りの冴えない男子、奥田信二。

彼は成績優秀で性格良好な優良物件だ。

最期の一人は斜め後ろの席の明日香さん。

クラスの男子や一部の女子から人気の美少女だ。

「あれ、異能部の三人じゃん。仲いいなぁ」

我知らず独り言が漏れる。

こちらに気付いた様子もなく緩慢に道を進む少年少女の姿を眺めて、私は少し微笑んだ。

「うーん。あれを見てると少しだけストーカーの気持ちがわかる気がするんだよなぁ」

危険な思想。明らかなる社会不適合。

この思いは密かに心に留めておこう。

自宅に向けて歩を進めながら私はそのように決意したのだった。


あらゆる人類は異能を保持している。

この世界の人類が共有する常識であり、紛れもない現実。

一人の人間としての記憶を持ちながら、再び産声を上げた私がこの世界を異世界と断じた主要な原因。

物理法則に大差はないが、後付けのように人類に付加された現実改変能力が歴史に与えた影響は最早把握しきれるものでは無い。

「おかげで社会系の授業とかは軒並み学びなおしになったよ」

自室のベッドで寝転がりながらため息をついた。

時計の針は午後八時を指していて、夕食は既に食べ終えている。

明日は祝日で、その後土日の休みが入る三連休。

宿題も大して出ていないので、実質的には自由で暇で退屈な時間のオンパレードだ。

「暇な時間...退屈な...はぁ。図書館にいでも行くか」

特にこれといった趣味はない。

街は平和で愉快な出来事も起こらない。

「...寝るか。むにゃ」

世は無常。俗世は定常。

少し硬めのベッドの上に転がって、若草色のカーテンの隙間から外の景色を眺める。

星一つない真っ暗な空の向こうに思いをはせて、私は目を瞑った。

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