マトメーの練習
「学校でも教えてもらったと思いますが、マトメーは(必要なもの)と(不必要なもの)を瞬時に分ける能力になります」
「はい」
「ここにある物を分けてもらえますか?」
リズリさんは、箱を4つ並べて置く。
4つ中2つの箱の中には、物が入っている。
1つはパンの留め具やペットボトルのキャップなどが入っていて、もう1つはペンや定規などが入っている。
そして、残り2つの箱には(必要)(不要)と書かれていて中は空っぽだ。
「アーキーさんが思う通りに分けていいんですよ」
「はい」
俺は、ペットボトルのキャップを手に取ると箱に入れる。
「続けてください」
リズリさんは、先生と違って途中で止める事はしないから……。
俺は、箱の中身を全部分けた。
「終わりました」
「そうですね。本当に全部必要でしたか?」
「えっと……」
「パンの留め具。確かに再利用は出来ます。ですが、これはアーキーさんが本当に必要だと思ったのですか?」
「それが……。自分でもよくわからなくて」
「大丈夫ですよ!最初は、うまく出来ないものですから。まずは、必要な物と不必要な物を分ける練習をしましょう!慣れてきたら、解るようになるので大丈夫ですよ」
リズリさんは、優しく言ってくれる。俺は、頷いてから必要な物と不必要な物を分ける。
必要。
必要。
必要。
必要。
必要。
駄目だ。
やっぱり、不必要な物を分ける事が出来ない。
「難しく考えないで大丈夫ですよ。例えば、これは明らかにゴミなので不必要に入れてしまえばいいんですよ」
「そうなんですけど」
リズリさんは、パンの袋やパスタの入っていた袋を取り出して俺に見せる。
クリーン先生にも言われた事なのに、俺はうまく出来ない。
頭の中が散らかっているんだ。
思考回路も片付いていない。
身体中にスキル汚部屋が染み付いているんだ。
たった五年。
されど五年。
体に染み付いた悪い習慣は、なかなか抜けないのだ。
「そんな怖い顔しないで。気分転換に公園でマトメーの練習をしましょう。靴履いて来てください」
「わかりました」
俺が破壊した壁から家に入る。
纏める事、一つも出来ないなんて。
駄目な人間。
靴を履いて、玄関から外に出るとリズリさんが待っていた。
「お昼まで練習しましたら、帰ってきて壁の修理を依頼しましょう」
「はい」
「アーキーさん。そんなに落ち込まないで大丈夫ですよ」
「はい」
「壊れた物は、直せばいいんです。それに、失敗しても何度も挑戦する事に意味があるんですよ」
リズリさんの言葉に励まされる反面、落ち込む。
挑戦を何度しても、ちゃんとしたスキルを習得出来るのかわからない自分に嫌気がさす。
「諦めなければ必ず出来ますよ。アーキーさんは、今歩いてるでしょ?小さな赤ちゃんの頃は、何度も座り込んでは立ち上がってたんですよ。それとスキルを習得するのは同じです。時間がかかっても必ず覚えられるから大丈夫です」
リズリさんの笑顔を見て、マトメーを覚える事が出来る気がした。
「頑張ります」
「はい。頑張りましょう」
公園について、すぐに「マトメー」と叫ぶ。
すると、木々がザワザワと音を立て。
バサッ……。
周囲にあったゴミと共に葉っぱが俺とリズリさん目掛けて降ってきた。
やっぱり、無理だ。
結局、俺はいつもこれなんだ。




