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やるしかない

寮の部屋に戻ってきた。


「事故が多いんだよ!この街……」


さっきの話をホウも聞いていたようだった。


「俺が何とかするから」


「アーキーの事、応援するよ」


「ありがとう。ホウ」


「頑張ってね」


「うん」


俺は、ホウに応援される。


頑張る!


頑張って、スキルを1つでも獲得するんだ。


そうすれば、この世界に色がつく。


この日から、俺は毎日練習した。


来る日も……。


「マトメー」


来る日も……。


「マトメー」


来る日も……。


「マトメー」


だけど、全く習得する事が出来なかった。


「おはようございます」


「おはようございます」


「明後日から、新入生が来ますからね」


「はい」


クリーン先生は、俺を責める事はしない。


こっちにきて、半年が過ぎていた。


一緒にいたあの幼稚園児達は、三つ先に進んでいるようだった。


「はぁーー」


「諦めるのか?」


「パ、パーン」


「久しぶりだな!秋月」


「久しぶり」


久しぶりにパーンが、やってきた。


「どうして?」


「最近、また事故が増えたって聞いたんだ。やっぱり、この世界には赤色が必要なんだと思ったんだ。そしたら、秋月を思い出していた」


「俺、自信ないよ」


「秋月が、諦めてしまったら、この世界は終わりだな」


パーンは、俺を見つめながら笑っている。


「こんな責任が重い事、俺には最初から無理だったんだよ」


「そうか……。秋月が、日本でどんな生活をしていたかは知らない。無理だっていうなら、無理なんだろうな」


パーンは、俺の肩をポンポンと叩いた。


俺は、日本にいた時のあの部屋を思い出す。


今とは違って、俺はただ生きていただけだった。


「パーン、俺に出来るのだろうか?」


「さあな!でも、みんなは秋月を信じてる。出来るって思ってる」


期待されているのを感じる。


ただ、生きているのではなく……。


誰かに期待されている。


それは、随分前に俺が忘れた感情で……。


期待されるのが、幸せだって忘れていた。


「パーン」


「ん?」


「もう少し、頑張ってみるよ」


「頑張れ」


パーンは、手をあげて帰って行った。


期待される、信じられている、俺は、それを幼い頃から両親に向けられていたのを思い出していた。


それは、幸せで。


当たり前で、鬱陶しくて、時には「期待なんかすんな」って言ったりもした。


でも、本当は幸せな事。


俺は、それを両親が死んでから気づいた。


期待されない。信じられもしない。そんな俺は、ただ、生きているだけで。生きてるのに死んでるような日々だった。


ずっと……。


「やるか!」


俺は、また「マトメー」の練習を再開する。



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