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エスパーかあちゃん  作者: SF
6/6

初恋パイロキネシス 後編

次の週末がユカリちゃんとハジメ君が引っ越す日やったけど、とうとう連絡先は聞けんかった。

最後の日は母ちゃんとユカリちゃんがそれはもうすごいご馳走作った。唐揚げにささみカツにエビフライに寿司に鍋にって食いきれへんくらい。

ユカリちゃんは弾けるように笑っとって、ハジメ君も嬉しそうにメシ食っとった。


「ホント楽しかったです。ありがとうございました」


ユカリちゃんはやっぱりニコニコしながら最後に挨拶しとって、


「燦射音くん、ありがとう!」


って笑いかけられたときには光のシャワーをぶわーってかけられたみたいやった。


そんで、風呂入って布団入ってもなんだか眠れへんかった。キラキラ眩しい笑顔が瞼に念写されたみたいに残っとる。

明日からユカリちゃんおらんようになるんか。寂しいな。ユカリちゃんは母ちゃんとハジメ君と一緒に寝とる。最強のセコムやん。

あかん、眠れる気配が全然あらへんわ。

台所に降りていったら、日付を超えたとこなのに明かりが点いとった。中にはカラーを頭につけまくった母ちゃんがコンロの前に立っとって、パジャマ姿のユカリちゃんが椅子に座っておった。

ほんで、ユカリちゃんは俺に気づいたら慌てて髪の毛の寝癖を直しとった。そんなことせんでもかわいいのにな。ユカリちゃんもなんだか眠れんかったらしいわ。


「ちょうど良かったわ。燦射音も食べや」


母ちゃんは丼を出してきた。豚肉が卵でとじられてて、甘い割下の匂いとネギのピリッとした匂いがする。腹一杯食ったのに腹の虫がなりおった。


「ユカリちゃんもどうぞ。いっぱい手伝ってくれてありがとうね」


ユカリちゃんはありがとうございます言うて、まだお腹いっぱいて苦笑いしながらも、一口食べて美味し〜いってほっぺを緩ませとった。


「百合子さんのお料理ホンマに美味しい!もっといっぱい色んな事教えて欲しかったなあ」


ユカリちゃんちょっと口調移っとるやん。なんかホンマに家族の一員みたいやな。


「だって、親戚の人両親のお葬式でしか会った事ないし、百合子さんも士道さんも燦射音くんも優しいし、ずっとここにいたいくらい!」


ユカリちゃんはもぐもぐしながら鼻をちょっと啜っとった。


「それにハジメちゃん転校しなきゃだし、私、も、受験あるし・・・」


ユカリちゃんはもぐもぐするのをやめて、米でほっぺを膨らませたまましゃっくりを上げ始めた。


「わ、私、もっと頑張らなきゃ・・・・・・」


ユカリちゃんの目からポロポロ涙が溢れた。そんで箸を止めて、口から米粒覗かせながらふええぇんて泣き始めてもうた。

俺アホやん。

寂しいなーとか連絡先聞けへんかなーとか脳天気すぎるやろ。ユカリちゃん、父ちゃんも母ちゃんもおらんようになってしもたのに、うちの母ちゃんに気い使うて、学校も行って、ハジメ君の心配もして、ずっと頑張っとったんや。

ほんで今は何してあげればええのか分からんくてオロオロしとるだけや。

ホンマ阿保やな。


「ユカリちゃん、ようがんばったなあ。他人丼もっと食べや」


母ちゃんはユカリちゃんの頭をなでなでした。


「他人丼て?」


鼻水をズビズビしながらユカリちゃんが言うた。


「親子丼は卵と(かしわ)使うとるから親子やろ。これは卵と豚肉使うとるから親子やないやろ。だから他人丼言うねん」

「そうなんだ・・・」

「他人同士でも悪くないやろ。美味いやろ」


ユカリちゃんはうんうんて頷きながら箸を持った。そんでプルプル手を震わせながら他人丼を頬張った。


「親子じゃなくてもええやろ。他人同士でも上手いこといっとるやろ」

「うん、うん、美味しい」


せやな、俺と母ちゃんも家族になれたもんな。

ユカリちゃんも、ホンマの家族が早よできるとええな。

ユカリちゃんは美味しい美味しいてグズグズ言いながら食べ続けとった。

そんで半分くらい食べた後


「やっぱりお腹いっぱい!」


て涙を拭きながら笑っとった。

俺も鼻水ジュルジュルで、丼で隠すようにかっこんで、ごっそさんって流しに置いて自分の部屋に戻った。

そしたら、台所出たとこでハジメ君がなんやショック受けたみたいな顔して突っ立っとった。ユカリちゃんの泣き顔をじっと見とる。


「お前もがんばりや。ほんで姉ちゃん守ったり」


ハジメ君は頷いて、でもそのまま突っ立ってた。


「どないしたん?」

「姉ちゃん待ってる」 


え、もしかして


「1人で寝られへんの?」


ハジメ君、顔真っ赤っかやん。せやな、ハジメ君もまだ小学生やもんな。


「俺と一緒に寝るか?」


ハジメ君はちょっとビックリした顔しとったけど、頷いた。

ほんで俺の部屋でハジメ君と一緒に布団入ったわ。子どもってほこほこしてあったかいねんな。弟がおったらこんな感じなんかな。そんなこと思っとったら


「・・・兄ちゃんって、こんな感じなのかな」


ハジメ君は呟いて、すぅーっと寝てったわ。

なんやまた泣きそうやがな。ハジメ君ともお別れやねんな。俺は鼻水をすするのをなるべく我慢しながら必死で寝たフリしとった。

翌朝、ユカリちゃんは残した他人丼をキッチリ食っとった。やっぱりええ子やな。

ほんで荷物を纏めて、昼頃に親戚の人が迎えにきた。歳食った優しそうなおばちゃんとおっちゃんやった。

母ちゃんにお世話になりました、って何度も頭を下げとって、ユカリちゃんとハジメ君にもニコニコしとった。なんやいい人そうやん。

俺と母ちゃんもホッとしたわ。


「短い間だったけどお世話になりました!楽しかったです。ありがとうございました。士道さんにもよろしくお願いします」


ユカリちゃんはハキハキと挨拶して、礼儀正しくお辞儀した。ハジメ君もちゃんと頭下げとったわ。顔を上げたユカリちゃんが


「百合子さん、私、他人丼の味忘れないからね!」


て言うたら母ちゃんの涙腺が崩壊して、ウホウホ言いながらユカリちゃんを抱きしめとった。

ユカリちゃんもちょっと涙ぐんどった。

車に荷物を積みながら親戚の人は他人丼て何?て聞いとって、ユカリちゃんは今度作ってもいいですか?ってニコニコしとった。ハジメ君は鞄を運んでて、お手伝いえらいね、て褒められてはにかんどった。

ユカリちゃんらはきっと大丈夫や。

ユカリちゃんは姿が見えんくなるまで車の中から手を振っとって、ハジメ君も目が合うと小さく手を振り返しとった。

あーあ、行ってもうたな。

家ん中がちょお広なった気がするわ。


「燦射音、ちょっときてや」


これアンタの携帯に入れといて、ってユカリちゃんの親戚の人の連絡先書いた紙もろた。


「母ちゃんグッジョブやでホンマ!」


俺はすぐスマホのアドレス帳に入れた。


「ユカリちゃんかわええ子やったもんなあ」


母ちゃんは鼻の穴膨らませてニヤニヤしとる。


「す、すすすす好きとかそんなんちゃうわ!」

「言うてもうてるやん」

「だからちゃうて!」


「男の子やなあ」てますますニヤニヤしとったわ。

俺も番号見てニヤついてもうたわ。でも掛ける勇気がのうて、父ちゃんにチキンや言われた。

いやだってこれユカリちゃんの番号とちゃうし。


でも、1か月ちょっとしてから


「燦射音、ユカリちゃんから電話やで」


って母ちゃんから呼ばれて、マッハで出たわ。


『あ、燦射音くん?久しぶり!』


かわいい声が弾んどった。

最近の様子を教えてくれたわ。親戚の人とは上手くいっとるみたいで、ハジメ君も学校で友達できたらしいわ。よかったなあ。

そう思たらまた胸がポカポカしてきた。


『あのね、あと、私彼氏できたんだ!」


一気にブリザードが襲ってきたわ。


「え、彼氏・・・?」

『うん、毎日めっちゃ楽しいよ!』


そっかあ・・・。ユカリちゃんかわええもんなあ・・・。そっかあ・・・。


「おめでとう。よかったなあ」


今日母ちゃんが黙って出してくれた茶菓子のガトーショコラは、隠し味の塩が隠れとらんでなんやしょっぱい味がした。




終わり




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