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エスパーかあちゃん  作者: SF
3/6

三本目!!! BBA☆メタモルフォーゼ

朝飯をかっ込んで、食器をまとめてシンクに突っ込んだ。

それから玄関の扉を開けるとタクシーが止まっとった。


タクシーから出てきたのは、桃色の髪をツインテールにして紺色のブレザーを着たお目目クリックリの女子中学生や。

見た目はな。


「ばあちゃん久しぶり!」

「お義母さん、お久しぶりです」

「なんやお袋、まだそない格好しとるんかいな!」

「ばあちゃんは美魔女やねんで!」


歳とっても若こう見える女性のことをそう言うてテレビでやっとったで。


「ちゃうわ、魔法少女やで」


と言うツッコミはばあちゃんのテッパンの返しや。

ばあちゃんは女優やっとるて聞いた。なんや特撮ヒロインもの?とかようわからんけど。

普段からキャラ作りに衣装着てたりアンチエイジしたりしとって、腰につけたポシェットから時々「〜ルンッ☆」って謎の生き物の鳴き声がするのも腹話術やねんて。

女優魂ってすげえな!


「何が魔法少女やねん!恥ずかしゅうてかなわんわ!」


父ちゃんはプンスカしとる。


「まあまあ中に入ってお茶でも」


母ちゃんが言えば父ちゃんは大人しくなって家ん中に入ってった。

ちゃぶ台には近所の和菓子屋で買ってきた栗蒸し羊羹と煎餅がのっとった。煎餅は母ちゃんが餅米を掌で「フンッ」て一瞬で圧縮しながら作っとったヤツや。

母ちゃんは今は渋い緑茶を淹れとる。

ばあちゃんはてっぺんから生えたアホ毛をぴょこぴょこ揺らしながら栗蒸し羊羹を頬張った。どないなっとるんやろ。魔法少女のデフォルトや言うとったけど。


「まったく、魔法少女言うても政府から給料出とるんやから公務員みたいなもんやで」

「じゃあとっとと定年退職しいや」


父ちゃんは茶をズズーッと啜った。


「まだまだ現役やで」


ばあちゃんがニヤッと笑うと父ちゃんはでっかいため息をついた。


「ばあちゃん若いもんな。俺のクラスの女子より若こう見えるで」


煎餅を齧るとバリバリええ音がした。香ばしくて美味い。さすが母ちゃんやな。


「せやからそれどないやねん・・・」


父ちゃんは頭に手を当てて首を振っとった。

そういえば母ちゃんはどないしたんやろか。

台所に行けば、母ちゃんは「燦射音、来たらあかん!」て叫んだ。

なんや?!

なんか、ほっかむりに無精髭はやしたコッテコテの泥棒スタイルのおっちゃんが母ちゃんに包丁を向けとる!

なんで?母ちゃんやったら、あんなおっちゃんも包丁も指先一つでダウンちゃうのか。

いや、よぉ見たら母ちゃんケーキ持っとるやんけ。

せやな、ここで暴れたらケーキ潰れてまうもんな。


「母ちゃん、」


俺に任しとき、って言う前に、


「なんやガキがやんちゃしとるだけやないか」


て、ばあちゃんが前に出た。


「ばあちゃんに任しとき。魔法少女なら無血で解決できるわ」


泥棒のおっちゃんは「いいから早よ金出せや」て頑張っとるけど、ムキムキな母ちゃんと俺を見てすでに包丁の先っちょがプルプルしとる。


「ばあちゃん、もうええんちゃう?」

「いいや、ワシの本当の姿を見せたるで!」


って、ばあちゃんはノリノリや。

ポシェットからちっこいハートのついたピンク色のステッキみたいなのを出して、「メタモルフォーゼ!☆」て高く掲げた。

すると、ピロピロと音楽が鳴って虹色のオーロラみたいな光がばあちゃんの身体にフィットして・・・ってそれ服どないなっとるん?!

無くなってない?!

と思ったらポンッとフリルのミニスカートが腰から飛び出して、なんか空中でクルクルしながらパフスリーブの袖、ピンクのコスチューム、ピンクのブーツが現れて、最後にポシェットの蓋が空いてステッキがブーメランみたいに収まった。


「さあ、お仕置きの時間やで!」


カッと靴音を響かせて床に降りたったのは、ピンクのミニスカコスチュームに身を包んだ五十代のおばちゃんやった。


泥棒のおっちゃんは一瞬で顔が真っ青になって、ばあちゃんがこれまたノリノリでミニスカートをバッサーしながら飛び蹴りなんて食らわすもんやから、蹲ってプルプル震えとった。いや、おっちゃん当たってへんやろ。なんで泡吹いてたおれとんねん。


ばあちゃんは


「これが魔法少女の力やで!」


と踏ん反り返っとった。いやビビり散らかして倒れただけやない?ホンマに人間てキャパオーバーで倒れるんやな。


結局、泥棒のおっちゃんは警察に連れて行かれたわ。パトカーが来るまで母ちゃんに背中をさすられながら身の上話を聞いてもらって号泣しとった。

ばあちゃんはピンクのコスチュームのまんまやったから警察官のおっちゃんに職質されとったわ。


「いい年して恥ずかしいわ・・・」


父ちゃんは泥棒のおっちゃんとは違う意味で号泣しとった。

でもばあちゃんは


「恥ずかしいことあるかいな、ワシは魔法少女一本でアンタを育て上げたんやで!」


って高笑いしとった。ちょっとカッコいいって思たわ。


警察と泥棒のおっちゃんが帰った後、俺と父ちゃんと変身を解いたばあちゃんはテレビを見ながらダラダラしとった。

そんで、夕方になったらばあちゃんはさっさと帰り支度を始めてしもうた。


「ばあちゃんもう帰るん?」

「せや、いつ怪人どもが襲ってくるかわからんしな」

「今日くらい役作りはええやろ、父ちゃんの誕生日やねんで」

「ええわええわ、ガキやあらへんし」


父ちゃんは寝っ転がりながら手をヒラヒラ振った。


「お夕飯食べていけばよろしいに」


母ちゃんが台所から覗いた。手には羽を毟りかけた鶏を持っとった。

今日は唐揚げかな。ごちそうやな!


「ババアがおったら百合子ちゃんも気ぃつかうやろ。ゆっくりしたらよろし」


ばあちゃんは八重歯を見せてにかっと笑ろた。あ、百合子ちゃんは母ちゃんのことやで。


「ほな、これ。持って帰ってください」


母ちゃんはさっきのケーキとちっさい花束をばあちゃんに渡した。


「なんや、これ士道(シドウ)のとちゃうんか」

「ババア、キラキラネームで呼ぶな」

「なんやて?武士道の士道や。キラキラしてへん。いぶし銀や」

「今日はお義母さんが、士道さんを産んでくださった日ですから」


あっかんべをしていたばあちゃんも、しかめっ面してた父ちゃんも、母ちゃんを見た。


「お義母さんが、今日、士道さんを産んでくださったから、私は愛する夫やかわいい息子に逢えたんです。

お義母さん、ありがとうございました」


母ちゃんは巨体を丸めて深々と頭を下げた。

ばあちゃんはどんぐりお目めをうるうるさせとる。


「ホンマに、ホンマにバカ息子には過ぎた嫁やで・・・!」


ばあちゃんは母ちゃんに抱きついた。


「百合子ちゃん、おおきに。なんかあったら遠慮なくぶっ飛ばしたってや!」

「俺それ死ぬでホンマに」

「ええんや!馬鹿は死なんと治らへんわ」


ばあちゃんはおいおい泣いとった。母ちゃんはばあちゃんのツインテ頭をなでなでしとる。

なんや母ちゃんの方がばあちゃんの母ちゃんみたいやな。見た目は俺の妹みたいやし。

でもばあちゃんは

『早く帰るルンッ☆』ってポシェットからの声に従ってタクシーに乗っていった。


「ばあちゃんまた来てや!」

「元気でな、燦射音。馬鹿息子はしっかり百合子ちゃん捕まえとき!」

「当たり前や、俺の女やねんぞ」


父ちゃんが母ちゃんの丸太みたいな腕を引き寄せれば「ややわあ、俺の女なんて!」て照れた母ちゃんにどつかれて玄関の扉ごと吹っ飛ばされた。

母ちゃんはすみませんて謝っとったけど、ばあちゃんは「ええねん、しつけ直したって」て笑っとった。

ばあちゃん長生きするとええな。


それから夜になって、ばあちゃんの出とる番組を見ながら父ちゃんの誕生日パーティーをした。 

あれ?ばあちゃん変身しても顔そのままなんやけど。中学生のまんまや。

ばあちゃんにLINEすれば、


『燦射音知らんのかいな。整形メイクいうやつや。もっと女のこと勉強しとき!彼女出来へんで』


ってばあちゃんの番組のキャラのスタンプと一緒にメッセージが送られてきた。

彼女出来へんのは困るから、父ちゃんと「整形メイク 動画」で検索してみたら、カピバラみたいなおばちゃんが朝ドラヒロインみたいなお姉ちゃんに変身する動画が出てきた。


「女って怖いな・・・」

「俺朝ドラしばらくまともに見られへんわ・・・」


やっぱり母ちゃんが1番やな、って父ちゃんと言うたったわ。


「なに言うてんのアンタら!」


て照れ隠しに2人とも庭まで吹っ飛ばされたけどな。



終わり





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