二本目!! 念力とうちゃん
「なあ父ちゃん、俺、ずっと思っとったことがあるんやけど」
「なんや」
父ちゃんは朝飯にトーストを齧りながら新聞を読んどる。それから「朝ドラの時間や」言うてひとりでに点いたテレビを見る。
母ちゃんはばあちゃんが来るからて、朝から掃除機掛けたり窓を枠ごと外して豪快に水洗いしたりしとった。
飛沫がジャブジャブ跳ねてるのに、窓がないはずなのに、なんかに遮られとるみたいにうちの中には入ってけえへん。
「父ちゃんやっぱエスパーやろ」
言えば、父ちゃんは朝ドラヒロインに鼻の下を伸ばしとった顔を引き締めてこっちを見た。
「燦射音、父ちゃんの仕事はなんや」
「手品師」
「せや、だから全部イリューッジョン☆!や」
「いやいやいや俺もう高校生やねんで!そんなんで誤魔化されるかいな!」
立ち上がってツッコミを入れれば力を入れすぎてちゃぶ台が派手にひっくり返ってもうた。
父ちゃんは顔面にあっつあつのコーヒーを、うん、食らってへんな。コーヒーがスライムみたいにカップの中に戻った。トーストとかちっちゃいサラダとか母ちゃんが手刀でカットしたフルーツとかも全部元通りちゃぶ台の上に戻っとった。
「なんや、父ちゃんがエスパーやったらあかんか」
「ちゃうねん。俺にも教えてほしい」
「なんかあった?」
母ちゃんが窓を取り付けながら聞いた。
「いや、俺もエスパー使えるようになりたいねん」
「アンタはもう強うなったわ。それにええ子やないか。なんでエスパーになりたいねん」
「母ちゃんより強うなりたい」
「あのな、燦射音」
父ちゃんはそこ座れ言うた。ちょっと待ちいや。俺の身体、勝手に正座しとるで。
俺母ちゃんと同じくらいムキムキボディなんやけど指一本動かへん。やっぱエスパー最強やんけ!
「俺はちょっとばかし手品が人より上手ぁて、ええ気になっとった。
だけどな、母ちゃんに会って初めて自分が何にもできへんやつやと思った」
まだ手品言うか。
「母ちゃん、俺と会った時はな、病弱でガリッガリやったんやで」
思わず母ちゃんを見た。母ちゃんは顔を赤く染めて、茶菓子の準備してくるわ!て台所に引っ込んでった。
「俺は母ちゃんの病気や体質を治してやる事は出来へんかったし、心までは動かせへんかった。プロポーズまでしたけど断られて、飛行機の距離まで逃げられてんで?」
「それでどないしたん」
「追っかけたに決まっとるやろ。瞬間移動、いや、イリューッジョン☆もせんと自分の力でな」
いや今更要らへんからイリューッジョン☆は。
「母ちゃんを手に入れられたのは、誠心誠意を込めてもっかいプロポーズしたからや。
母ちゃんが強うなるから待っとってって言って、ホンマに母ちゃんから俺を迎えに来たときはムキムキで見違えるようになってて惚れ直したで」
「いややわ、もう!恥ずかしい!」
台所から飛んできたのはハッピーター◯のはずやけど、壁に手裏剣みたいに刺さっとった。
「エスパーでもないのに、いや、手品師でもないのに、母ちゃんは自分の力だけであの力を手に入れたんや。お前もな。
父ちゃんはお前らの方がよっぽど凄いと思うで」
俺はなんか感動してもうた。
父ちゃんが・・・父ちゃんがなんか父ちゃんっぽいこと言っとる!
「それにな、エスパーでもどうにもできへんことはいっくらでもあるで」
「ん?病気を治されへんとか?」
てかついにエスパー言うたな。
「父ちゃんが仕事でなんて言われとるか知っとるか」
「和製デビット・カッ◯ーフィールド?」
父ちゃんは相応に歳食っとるけど、相当なイケメンでもある。ほぼほぼ顔で仕事を取っとるようなもんや、とたまに嘆いとる。
シルクハットが蒸れてカッパハゲになりかかっとるけどな。
「髪だけは、どうにもならんかった・・・」
父ちゃんは薄くなってきた頭の天辺を撫でながら、つーっと一筋の涙を流した。
「え、そうなん?」
「イリューッジョン☆!やあらへんで・・・」
「俺も将来ハゲるん?」
「それはカミのみぞ知るってとこやな」
しんみりした空気になってもうたけど、母ちゃんの一声で吹き飛ばされた。
「アンタら早よご飯片付けて!ばあちゃんが来たで!」