夏祭りで突撃してきたY〇uTuberをくじ引き屋が返り討ちにする
「パパ、これやりたーい!」
幼い子が透明な箱の中にある大量のくじから一枚をつかみ取る。
「さぁ、中身を確かめてね」
「お母さんとみるー!」
父親と二人で店を離れる少年。
二人を見送った店主はやれやれと肩をすくめる。
今日は夏祭り。
みんなが特別な時間を体験する日。
浴衣姿の人たちが参道を行き交っている。
くじ引き屋を営む中年の男性は、ポリポリと禿げ頭をかく。
今年こそはがっつりと稼ぎたい。
「すみませーん、くじ引きたいんですけどぉ」
「おおっ、まいど……え?」
現れた客の姿を見て、店主は眉をひそめた。
ビビットカラーに染めた髪の毛に派手な服装。
明らかに一般人ではない。
彼の後ろには撮影者と思われる人が数人。
断りもなくカメラをこちらへと向けている。
「いいですか?」
「構わねぇよ。何回引く?」
「1000回引かせて下さい」
札束を茶封筒から取り出す男。
くじ引き屋は無言で受け取り、枚数を数える。
「確かに……引いてくれ」
「じゃぁ……」
男はくじを次々と引いて中身を仲間に確認させる。
「ない……ない……ない」
当たりは見つからなかった。
残りも確かめたいという。
金を受け取り店主は許可した。
男はくじの確認を再開。
――が、やはり当たりくじは見つからない。
最後の一枚まで確認すると意気込む男。
そんな彼を落ち着いた様子で眺める店主。
果たして結果は――
「ない! 一位のくじは入ってなかった!
これは詐欺だ! 警察呼びますからね!」
男はそう宣言してスマホを取り出す。
「おじさーん! 一等が当たったよぉ!」
「……え?」
先ほどくじを引いた男の子が戻って来た。
「残念だったな、坊主。
別のお客さんが一等を引き当ててたみたいだぁ」
にやりと笑う店主。
男は悔しそうに顔を引きつらせる。
詐欺だ、仕込みだ、と叫ぶ男だが、他の出店の店主たちが証人となり、完全敗北が確定。
男はがっくりと肩を落として敗北を認める。
こうして夏祭りのくじ引き屋を巡る戦いは幕を閉じたのだった。
「ありがとな」
「へへへ、今回も上手くいったね」
「あんたもな」
「どーも」
男の子や父親役、母親役に報酬を手渡す店主。
近年、話題になるくじ引き屋狩りだが、話題になりすぎて逆にカモにされている。
サクラにくじを引かせて、一位はすでに当たっていたと言って返り討ちにするのだ。
「くくく……奴らのお陰で大儲けだ」
満面の笑みで札束を数える店主。
今宵も勝利の美酒に酔いしれるとしよう。