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「シャルロッテちゃん以上に優秀な令嬢なんて、世界中を探し回ったって見つからないですよ! どうせすぐに、僕が悪かったとか言って泣きついてくるに決まってます!」


 ブリュンヒルデが唇を尖らせて不満をあらわにする。

 子供っぽいふくれっ面が良く似合う彼女は、まだ十九歳だ。シャルロッテの一つ上の先輩で、王立学校に在籍していたときはその優秀さから生徒会長をしていた。

 ローズフィールド男爵家の次女である彼女は、眉目秀麗で評判のご令嬢だったのだが、かなりミーハーなところがあった。

 九年前、リーンハルトが二十二歳の若さで兄と共に王国騎士団団長に任命された際に一目惚れし、以来ずっと片思いをしていたそうだ。

 最推しのシャルロッテが王立学校に入学し、生徒会長だったブリュンヒルデが世話役を頼まれ、さらには妹を溺愛しているリーンハルトが頻繁に学校に顔を出し、その過程で交流を深め、最終的には見事に射止めることができただなんて、事実は小説よりも奇なりということだろう。

 ブリュンヒルデのご令嬢らしからぬ押しの強さと、飄々としていてつかみどころがないように見えて、実は積極的に迫られると弱いというリーンハルトの性格が上手く噛み合った結果だ。

 十二歳の年の差があるのだが、それを感じさせないほどに仲の良い夫婦だった。


「まあ、泣きついてくるのは有りうるだろうけどねえ。ただ、シャルロッテちゃんのことを誤解してました申し訳ないって言われて、はいそうですかってなるかって言うと……ねえ?」


 ヴァネッサが周囲の様子をうかがうように視線を向ける。

 こげ茶色のたれ目の目尻には、深いシワがいくつも刻まれている。手にも加齢によるシワやシミ目立つ彼女は、数日前に四十六になったばかりだ。

 貴族の令嬢なら、そのくらいの年齢ではまだシミもシワも目立たない。東方から取り寄せた若返りの薬や北方に伝わるクリームなどを使い、十代のうちから日常的にケアをしている彼女たちは、いつまでも若く美しい見た目をしている。

 しかし、ヴァネッサは平民の出だった。コンラートと結婚した六年前より以前は、リーデルシュタイン王国と南方国マールグリッドを繋ぐ街道の中間にある小さな町のパン屋で働いていた。

 人当たりが良く明るいヴァネッサだったが、少々大雑把で豪快な性格と、美人とは言い難い容姿のため、なかなか良縁に恵まれなかった。

 マールグリッドで毎年行われている武闘会の来賓にコンラートが選ばれ、偶然立ち寄った町でヴァネッサの働く姿を見て心を奪われ、数か月後にコルネリウス邸に招かれるなど、当時の彼女は夢にも思わなかっただろう。

 十五歳も年上で、まして平民出身の彼女と結婚にこぎつけるまでには数々な難題があったのだが、コンラートは持ち前の真面目さと粘り強さで貫き通した。

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